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近隣の方へのお願い

「これ、におうようになってきたから、洗濯してくれ」
そう言って昨日、夫が職場から制服を持って帰ってきた。
夫の職場は全社一律の制服がある。以前、島津製作所の田中耕一さんがノーベル賞の受賞会見の際に会社のロゴが入った制服を着ておられたが、あれと雰囲気的に近い。通勤着の上から、あれを羽織る感じになる。
製造業なので工場に入る時などは上から下まで制服になるが、最近は工場に足を踏み入れる機会はあまりないようで、専らオフィスに居る。なので制服は上着だけ、それも空調が寒すぎる時とか、他社とオンライン会議でカメラに写ってしまう時とかに限って着ているらしい。なので、
「たいして汚れない」
と言うのが本人の弁である。従ってあまり持って帰ってこない。こちらに転勤してきて一年半になるが、洗濯したのは二回のみだと記憶している。
襟足などは直接肌に触れるので、汚れてしまうと思うのだが。

それなりの頻度で着ているものの洗濯が半年に一度と言うのは如何なものか、とちょっと危惧している。が、私が会社に乗り込んで夫のロッカーから引っ張り出すことは出来ないので、持ち帰るタイミングは夫に任せるしかない。永らく制服を見ないと気になってきて、
「そろそろ制服の洗濯せんでええの?」
とそれとなく促してみるのだが、
「うん、まだまだ綺麗や。ちっとも汚れてへん」
とつれない返事が返ってくるばかりである。夫は本気で「綺麗」「ちっとも汚れていない」と思っているようなので、
「ウソつけ!どんだけ洗ってないねん!」
と言ったところで余計に意固地になるに決まっている。だから続く言葉を曖昧に飲み込んでおしまいにしている。

その夫が「におう」と言うことは、相当の汚さである。他の物と一緒に洗いたくない気がするが、我が家は夫の登山の持ち帰り洗濯物(汗まみれである)用に『ウ〇マロリキッド』を常備しているので、これを投入することにしている。
この洗剤を使い始めたのは子供が高校生の頃である。洗っても洗っても取れない汗のにおいに苦戦を強いられていた私に子供が、
「野球部のマネージャーがいつもこれでユニフォームを洗濯している」
と教えてくれたのである。名前は知っていたけど、高価だし使ったことは一度もなかったのだが、使ってみて効果に驚いた。本当ににおわない。
以来私は超絶汗臭い物を洗濯する時は、この洗剤のお世話になっている。

夫は半年前に罹患したコロナの後遺症で、未だに嗅覚が完全に戻っていない。コーヒーなど、特定の匂いだけかぎ取れないらしい。
それでもこの制服の匂いはかぎ取れたそうだ。自分の匂いがわかるって、どれだけ臭いんだろう。近くの席の人はさぞかし迷惑なことだろう。
早速件の洗剤を使用して洗濯する。この制服はペットボトルの再生繊維から出来ているとかで、乾くのが早く、アイロンも不要である。だから洗濯さえしてしまえば良いだけの楽なものなのだが、持って帰ってくれない事には洗濯できない。出来れば超絶臭くなる前に持って帰って欲しい。

「もうちょっとマメに持って帰ったらどう?」
と今回もさりげなく提案してみたが、
「だって汚れてへんのに、洗う必要ないやんけ。あんまり洗ったら、服が傷むやないか」
と予想通りの天邪鬼な返事が返ってきてしまった。
「でもねえ、自分が臭いってことは周りの人もっと臭いんと違う?」
と一矢報いてみると
「じゃあ、周りの奴に『オレ、臭ないか』って聞いてみよか」
などとはぐらかしてニヤニヤ笑う。夫は今のチームでは最高齢である。一番若い子は二十代。子供のようなものだ。
「誰が上司に向かって『臭いですよ』って言えるねん。あんた、自分やったら言えるんか?」
とムキになって言い返すと、
「よー言わん」
と言ってゲラゲラ笑っている。完全にこっちをバカにしている。
「だから、もうちょっと自分でエチケットに気をつけてよ」
と言うと
「わかった、わかった」
と面倒くさそうに言ってゴロンと横になって背中を向けてしまった。
これからも制服の持ち帰り頻度は上がりそうにない。

夫の周囲の席の皆さま、従業員用ロッカーの近隣の皆さま、どうもすいません。ご迷惑をおかけしております。
AGスプレーを出勤前に噴きかけてみたり、出勤前に肌着を無理矢理替えさせてみたり、いろいろ試みては居るんですけど、自覚がないのでほとほと手を焼いております。
「在間さん、臭いですよ」ってどなたか言ってやってください。怒りません。お願いします。