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JST「目利き人材育成プログラム」のススメ 前編

はじめに

 2022年9月7日〜8日に、JSTが主催する「目利き人材育成プログラム:研究推進マネジメントコース・アドバンス編」に参加したので記録しておきたいと思います。

 主に産学官連携に関わる大学・研究機関職員向けの研修プログラムですが、民間企業に所属している私でも参加することができました。受けれていただいたJSTの皆様、誠にありがとうございます。コースは下記の3つが用意されていますので、所属機関の種別を問わず、関心のあるテーマに申し込んでみてはいかがでしょうか。

  1. 研究推進マネジメントコース:産学官連携・技術移転業務の基礎知識を体系的に学ぶコース。ベーシック編とアドバンス編があり、実務経験に応じて申し込みます。私の場合、ベーシック編に申し込みましたが、アドバンス編になりました。他の方にもそういうルートの方がいました。なお、どちらも2日間・Web開催(Zoom)です。

  2. バリュープロデュースコース:技術移転活動に必要な実践的な知識とスキルを習得し、事業をプロデュースする力を身につけるコース。約6ヶ月かけて6回の課程があり、グループワークがメインのコースだと思います。東京開催です。

  3. 起業環境整備支援コース:ベンチャー創出に関わる知識やスキルを体系的に学ぶコース。2日間・東京開催です。

研究推進マネジメントコースでの学び

 研究推進マネジメントコース(アドバンス編)は、A課程(1日目)とB課程(2日目)から構成されています。参加人数は40名程度、ほとんどが大学・公的研究機関ですが、行政や民間企業も数名参加していました。今回は前編ということで、A課程での学びをまとめたいと思います。

  • A課程:産学官連携を推進する組織作りと課題克服への取り組み

    • 産学官連携の現状と推進活動

    • 産学官連携とのかかわり方と基本姿勢

    • データ活用の取り組みと分析

    • 産学官連携にかかるリスクマネジメント

  • B課程:知財戦略や契約交渉の実践と組織の研究力強化

    • 大学における知財の意義と戦略

    • 共同研究契約について

    • 技術移転に関する業務課題と解決に向けて(ワークショップ)

産学官連携の現状と推進活動(東大・各務先生)

  • 産学官連携の全体像について、マクロ動向から具体的な推進業務まで網羅的に解説されていました。

  • イノベーション・エコシステムの進化:大企業中心のリニアモデルから、大学やベンチャーが大きな役割を担うオープンイノベーション型に変化しています。

  • 技術移転に係る業務として、「発明・特許管理・ライセンシング」、「共同研究創出」、「大学発ベンチャー支援」、「アントレプレナーシップ教育」等、多岐に渡っています。

  • 東大におけるスタートアップ支援には、東大産学協創推進本部東大TLO東大エッジキャピタル東大協創プラットフォームといった組織が連携しているそうです。

産学官連携のかかわり方と基本姿勢(立命館大・野口先生)

  • 産学官連携における徹底的な情報収集と実行力の重要性を、実例を踏まえて紹介されていました。

  • 情勢把握には、政府・経団連等の資料も参考にすべきという話がありましたが、私もそう思います。各省庁の報告書はさることながら、関心のある委員会があれば、会議資料を随時確認しています。各省庁・委員会のホームページだけでなく、経済レポート専門ニュースや、GovRepといった横断的に検索できるサイトもあります。

  • 日々、ニュースに触れる際は、産学連携ニュースだけでなく、企業の動きから自大学であれば何ができるかを想像しながら読んでいるそうです。常に自分事に置き換えて仮説を立て続ける事は、どんな職業の方でも大事ですね。

  • 「研究支援ではなく、研究推進を行う」というマインドセットを変えることを仰っておりました。

データ活用の取り組みと分析(東工大・磯部先生、内閣府・白井先生)

  • 大学におけるデータ活用の考え方と実例について紹介されていました。

  • 大学組織内外には、学術論文情報、助成金情報、予算情報、活動情報等があり、どういったデータを活用するかは大学の方向性が重要です。また分析ツールの1つとして、e-CSTIが紹介されていました。

  • e-CSTI(内閣府エビデンスシステム)の中で、科学技術関係予算の見える化という機能があります。これは「第5期基本計画」や「統合イノベーション戦略2019」といった政策課題と類似性の高い行政事業を検索する機能です。政策課題文章と、各行政事業レビューシートの事業概要文の類似性を計算しているようです。文章のベクトル化にはTF-IDF法、類似度計算はコサイン類似度を用いています。

  • 東工大では、学内の中心的な研究者を把握するために、研究者ネットワーク分析(中心性分析)を利用しています。この分析結果から、研究拠点の代表を誰に担ってもらうか等の意思決定に活かしているようです。また、科研費採択や論文数といった説明変数と、産学連携の有無(目的変数)の関係性を分析することで(ロジスティック回帰)、どのような研究者に産学連携の依頼をするか?といった問いの参考情報にしているそうです。

  • 個人的には、大学の研究推進マネジメントにおけるKGI・KPI設計、施策の立案・検証、ロジックモデル等とデータ活用についても聞いてみたかったです。先生に質問したところ、東工大内部でロジックモデルを作りながら、施策の立案・検証を行っているようでした。2019年版の東工大・ロジックモデルはWebで公開されていました。また、大学・研究機関の研究マネジメントにおけるロジックモデル活用については、文科省より「大綱的指針の考え方を踏まえたロジック・モデルと大学・研究機関 における課題」という資料がありました。大学の研究推進マネジメントにおけるデータ活用やロジック・モデルについては、今後も情報収集してみたいと思います。

産学官連携にかかるリスクマネジメント(東京医科歯科大・飯田先生)

  • 産学連携における法令違反リスク、契約違反リスク、利益相反リスクについて、座学とグループディスカッションを通じて学びました。

  • これまで共同研究に係る契約実務をしたことがなかったのですが、研究テーマ(他のプロジェクトとの重複)、研究体制(学生・非常勤教員の有無)、研究で利用する材料・機器(第三者の権利の有無)、利益相反(研究者が企業から何らかの利益を得ているのではないか?と社会から心配される状態)といった見るべき重要な観点を知ることができました。適切なリスクマネジメントがあるからこそ、研究者は安心して共同研究を実施し、大学の知を活用できるのだと感じました。

  • 東京医科歯科大学では、医学研究利益相反マネジメントモデルの構築と普及に取り組んでいます。医学研究COI(利益相反)マネジメントに関する情報をWebで公開しています。医学以外の分野でも、参考になるのではないでしょうか。

参考情報

 どの講義だったか忘れましたが、標準的なテキストとして、産学連携学会の「テキスト産学連携学入門(改訂版)」がオススメされていました。

おわりに

 今回は、JST目利き人材育成プログラムの概要と、研究推進マネジメントコースでの学び(A課程:1日目)を紹介しました。本プログラムに関心のある方の参考になれば幸いです。次回は、B課程(2日目)での学びをまとめたいと思います。 

(追記)B課程について、後編記事を公開しました。