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読書メモpart3: LCAが変える産業の未来

なぜLCAか?

そもそもLCAとは、Life Cycle Assesmentの略であり、対象製品の最上流から使用後廃棄されるまでの生涯GHG排出量の分析である。

1.気候変動リスク
京都議定書から始まり、パリ協定など気候変動に対応する国際的な枠組みが増加している。欧州では、2019年の欧州グリーンディール以降、2050年までの気候中立化を掲げ、2030年までには55%削減に法的拘束力を持たせるなど気候変動対策がマストへと変わってきた。

2.地政学リスク
上記の環境政策は、国家安全保障と密接に関わっている。
現代の三大資源である「エネルギー」、「マテリアル」、「データ」が関わっているからである。

エネルギー:脱化石燃料化を推進することは、ロシアをはじめとするエネルギー資源保有国への依存脱却に繋がる。

マテリアル:マテリアルという観点では、LCAをよくしようとすると、輸送時の排出量削減のため、地域内での循環が優先させる。そうすることで、レアメタルやニッケルなどの資源の流出を防止し、国内で循環させることができる。

データ:LCAはさまざまな業界の企業がデータを連携することで成立する。ブロックチェーンなど非中央集権型のデータ共有を行うことで、域外のテックジャイアントなどへの依存を避けることができ、付加価値のあるデータを域内で保有することができる。

3.データ技術基盤の発達
クラウドテクノロジーやブロックチェーンなどデータを共有できる基盤が整ってきた。

4.自動車の電動化
自動車のEV化が進む中で、Tank to Wheel(走行時)の観点では、EVはCO2を排出しないが、Wheel to Wheelで見ると、バッテリー製造時の排出量は多く、LCA的にみると環境負荷を軽減できていない。このように、サプライチェーン全体・製品のライフサイクル全体で環境負荷を測る必要性が増加した。その中でも、EVのキーポーネントであり、定期的に交換が必要、多くの資源を必要おすることから、バッテリーに関しては、制度化が進んでいる。

企業に求められていること

自社内だけでなく、GHGプロトコルでいうScope2やScope3と呼ばれる調達や製品利用時の排出量なども算出する必要がある。企画からリサイクルまでをトレースできる企業の壁を超えたデータ連携の仕組みを構築することが求められる。企画、設計、素材・部品調達、製造段階、販売段階、利用段階、中古車、リサイクルなどに大別される。

  • 企画段階:例)LCA対応を前提とした市場展開・製品企画

  • 設計開発:例)素材開発やユースケース、リサイクルを想定して、リサイクル材の使用や分解容易な設計などを踏まえて設計するなど

  • 調達:例)LCAに対応しているサプライヤーからの調達。国境炭素税や輸送距離、エネルギーミックスなど様々な要素を考慮して調達先を選定する。

  • 製造段階:例)工場のゼロエミッション化、使用エネルギーの最適化、削減、サプライチェーンの立地最適化。

  • 販売段階:例)在庫の最適配置・調達、販売ルートの最適化による排出量削減など

  • 製品利用段階:車両や搭載バッテリーに稼働率の最適化、再エネを活用した充電やピークを避けた最適充電など。

  • 中古車:例)製品寿命の長期化、搭載電池の評価、それに基づくプライシング

  • リサイクル:例)

組織LCAと製品LCA

組織LCAは、事業所や組織ごとにサプライチェーン全体のLCAを評価するのに、対して、製品LCAは、車種など製品ごとにLCAを評価する製品LCAが存在する。前者は、SBT、CD P、RE100など排出量計算手法がスタンダード化されている。

一方で、製品LCAは、サプライチェーン全体の環境評価ではあるが、組織ではなく、個々の製品に注目する。ISO14040などの国際標準規格があるが、詳細な基準が明確ではない。
組織LCAは、企業内では一定の指標になるものの、取り扱い製品ポートフォリオや生産台数に依存するため、単純比較ができず、一律に上限値などの規制をかけることも難しい。前者は、業界平均値や取引ベースで推測から算出することが多いが、後者は、各サプライヤーから個別で実績データを取得する必要があるため、算出難易度は高い。しかし、環境性能向上のためPDCAを回すという観点では、一般的な参考値では、個々の企業努力が反映されず、動機付けできないので、実績値で計算する製品LCAが重要だと考えられている。

欧州電池規則のインパクト

カーボンフットプリントの記載、最低リサイクル率の規定、再生材の含有量の義務付けなどを定めている。カーボンフットプリントの記載を義務付けることで、EU圏外で製造されたものは排出量が高くついてしまう、さらに、日本のようなエネルギーミックス(火力や再エネなど発電手段の割合)の再エネ比率が低い国での製造は難しくなってくる。対策として、理想は日本全体の再エネ向上などが挙げられるが、まずは、主要工場周辺など局所的に再エネ率増加をするなども考えられる。

データ流通の自由化

Society 5.0(サイバー空間とフィジカル空間を組み合わせて、経済発展と社会課題の解決を図る世界)にも、DFFT(国際的に自由なデータ流通の促進)が定められている。データ連携・流通には、データ提供者、データ利用者、データ流通プラットフォーマー、データ流通協議体など、様々なプレイヤーの協力が必要である。
データ流通プラットフォーマーの形は、データ取引市場(データの仲介)、データサービスプラットフォーム(加工・付加価値提供)、情報銀行(個人からデータを受け取り、妥当性を判断し、利活用者に提供)に分けられる。

カーボンプライシング

ネットゼロを宣言する企業にとって、排出量を減らすことは急務であるが、収益性を保ったまま、急激に排出量を下げることは困難である。そこで、炭素に価格をつけて取引可能にしたのがカーボンプライシング。

カーボンクレジットはあくまでも排出量削減を促進する1つの手段であり、カーボンクレジットの購入価格より、自社削減施策の方が安価であれば、そちらを行うし、高ければ、クレジットを購入するなどの判断ができる。

クレジットの創出:自社プロジェクト実施 or ファンド投資、デベロッパー出資、単独・共同出資。前者は、ノウハウが貯まりコントロールしやすいが難易度が高い。後者は、労力は削減できるがノウハウは蓄積されない。
クレジットの購入:クレジットを持っている人から購入する。価格高騰などのリスクはある。

推進主体ごとのカーボンプライシングの分類
政府・公共:
 ・明示的なプライシング:炭素税、排出権取引、炭素国境税
 ・暗示的なプライシング:FIT、エネルギー課税
民間:
インターナルカーボンプライシング・ボランタリーカーボンクレジット

インターナルカーボンプライシング
自社独自にカーボンクレジットに価値をつけて、投資判断基準や事業者ごとのインセンティブなどに活用する。また、外部機関へ公開することで、評価機関や投資家へアピールに活用する。

課題

・使用目的が変わると税務上の取り扱いに差異が見られるなど、クレジットごとに取り扱いが異なることなどが挙げられる。
・LCA計算によっては、クレジットによる減算できないこともあり、自社がどの基準を使ってるかによって購入クレジットが変わる。(再エネ由来のクレジット vs 省エネ由来のクレジットなど)
・クレジットなど排出量などに関して虚偽報告をする人が出てくる可能性がある。

不正のトライアングル理論
動機:不正を行う動機がある
→KPIや経営計画の見直し
機会:不正を実行できる機会がある
→内部統制やチェック体制、アクセス制限
正当化:不正を正当化できる倫理観の欠如など
→コンプラ研修など

LCA実現に向けた自動車R&Dの改革

Quality, Delivery,Costのトレードオフ関係にある3要素に加えて、LCAが追加される。
LCAに向けた設計の課題
・二次利用を前提とした設計
・余寿命判断
・交換を前提とした設計

部品の標準化、部品の共通化、分解性・再組み立て性設計、IoTデータマネジメントの活用が上記の課題の解決策のキーワードである。

PCF(製品別カーボンフットプリント)= Cradle to Gate(ゆりかごからゲート)
LCA=Cradle to Grave(ゆりかごから墓場)

持続的なスマートシティ
・「経済性」、「環境に配慮したストラクチャー」、「ウェルビーイング」の両立

WBCDが定めているPathfinderFramework
PathfinderFrameworkは、WBCDが定めたGHGの算出方法とデータの交換に関するガイダンスである。素材の入手と前処理」、「製造」、「物流・保管」、「使用」、「廃棄」の5つの工程に分類している。前者3つをCradle to Gateとしている。「使用」や「廃棄」に関しては、製造に位置するOEMが責任を負うとされており、サプライヤーは責任の所在がない。

FMC(First Mover Coalition):大手OEM30社以上が所属し、環境に優しい製品の調達を予告することで、サプライヤーのGHG削減を促進する。

環境に優しいにいきなり切り替えるとコスト高
脱炭素にかかる投資コストをカーボンクレジットを売却することで、補填したり、マスバランス方式でいきなり大きなリスクを負わずに、徐々にバイオマス由来の素材に移行していくなどの取り組みが増えている。

サーキュラーエコノミーの経済効果
・資源の無駄をなくせる:リサイクル材を安価に入手し、利益率を向上。
・製品の寿命を延ばせる:ハードウェアを長生きさせ、サービスを売ることでサービス収益を向上。
・利用頻度を挙げられる:未使用時間を最小化して、有休資産を時間単位で売ることで売上向上。
・廃棄物の潜在価値を増加:廃棄物を販売する市場があることで新たな収益モデルを構築できる。

サーキュラーエコノミー実現においてプラットフォームが重要
複数のプレイヤーを巻き込めるプラットフォームが重要である。自動車業界では、OEMがトップである現在構造に対して、資源循環供給の重要性が高まることで、異なる業界に横展開できる素材や材料企業の発言力が高まるかもしれない。

量の確保と品質の安定、資源循環の範囲、粒度が肝である
回収率を高めて価格を下げて、技術開発によって品質を安定させる。また、どの素材をどこまでリサイクルするか、どこでどの範囲で実施するかなど最も高利益率・低環境負荷になる場所を決める必要がある。

まとめ

LCAの重要性が高まる背景に、資源の域内循環など安全保障の観点が含まれているのは非常に興味深かった。まずは、最も複雑なサプライチェーン構造し、インパクトも大きい自動車業界、特にバッテリーでユースケースを作り、他の業界に応用していく世界の流れがあることがわかった。今後、LCAの社会実装においては、さらなるデータインフラの整備、インセンティブ設計、各制度の標準化が重要になると感じた。

また、現在のカーボンプライシングは現在は事業者に対してがメインであるが、データインフラの整備が進むことで個人に対するカーボンプライシングの普及が進み、投資家や政府だけでなく、消費者も巻き込んだボトムアップのCEの構築に繋がるのではないかと感じた。これによって、最終販売者や個人など回収への責任がなく、インセンティブも少ないプレイヤーも巻き込めもやすくなる。標準化に関しては、WBCDなどの世界的な機関が標準化をリードすることが求められるが、特定の機関に権力が集中しないように分散型システムの構築とのバランスをどのようにとっていくかが課題になりそうと感じた。

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