見出し画像

大和に都を定めた神武天皇〜『大國民讀本』を読む〜(9)

神武天皇は、天照大御神のご神勅に基(もと)づき、天皇による政治をおこそうとされたのです。でも、その考えを理解して、協力してくれる人々ばかりではありません。どうしても分かってくれなくて、仕方なく戦いになることもありました。天皇は、途中で三人の兄を失いながら、ようやく熊野に上陸し、吉野をへて大和(やまと)に入ることができました。

そして、橿原(かしはら)というところに都(みやこ)を定め、橿原宮(かしはらのみや)という御殿(ごてん)を建てます。宮が完成したら、そこで即位(そくい、天皇の位につくこと)の儀式(ぎしき)を行って、初代の天皇になられました。

橿原神宮

橿原宮を建立(こんりゅう)するときに、次のようなご詔勅(しょうちょく、天皇のお言葉)が出されています。

「私が東方(とうほう)へ遠征してから6年がたちました。高天原(たかあまはら)の神々のお力を受けて、逆(さか)らう者たちを討(う)つことができました。

まだ遠いところは静まっておらず、残りの賊(ぞく)は手強(てごわ)いものの、中央の大和の国はもう騒(さわ)ぎがおさまりました。そこで、この地に都を開き、御殿を建てようと思います。

今は、はじまりのときで、人々の心は純粋(じゅんすい)で素直(すなお)です。木の上に巣を作ったり、洞窟(どうくつ)のような穴を掘ったりして住んでおり、未開のままの風習(ふうしゅう)が普通(ふつう)です。

聖人(せいじん、立派な人物)は、きまりを定めて政治を行います。聖人のように道理(どうり、すじみちのこと)や理想を示せば、きっとこれからの時代に合うでしょう。私は国民の利益になることをするのですから、進めていく聖人の政治に、妨げが起こるはずはありません。

そこで、山林を伐(き)り開いて宮殿を造営(ぞうえい)し、謹(つつし)んで天皇の位に即(つ)いて国民を安心させていこうと思います。

上(かみ)にあっては、国をお授け下さったタカミムスヒの神と天照大御神の徳(とく、正しい心と立派な行い)に答えます。下(しも)にあっては、ニニギの尊が正しさを養われた御心(みこころ)を弘めてまいります。

そうして後(のち)、六合(りくごう、天地四方)をまとめる都を開き、八紘(はっこう、八方の遠いところ)を覆(おお)って大きな宇(いえ、家)と為(な)してまいります。

あの畝傍山(うねびやま)の東南の橿原(かしはら)の地は、国の中央にあたる奥深いところです。さあ、そこに都を定めましょう。」

(日本書紀)

それから約2年がたち、橿原宮は完成し、天皇は即位されました。そして、この歳(とし)を「天皇元年(すめらみことのはじめのとし)」として、年数を数える紀元(きげん)としました。

<林英臣の補足>
タカミムスヒの神は宇宙に働く積極的な生成力(生み成す力)のことであり、男性的決断力が求められる場面で登場します。

そもそも神武天皇が東征(とうせい)されたのは、人々が未開な暮らしのまま、小さな村に分かれて争い合い、世が乱れていたからです。そのままでは文化は起こらず、生活も向上しません。

ニニギの尊が高天原から日向に降られましたときも同様(どうよう)で、世の中はまだ暗く秩序(ちつじょ)がありませんでした。ニニギの尊は正しい道を養い、人々が喜ぶことを積み重ねられます。そして、長い年月が過ぎて神武天皇の時代になりました。

神武天皇は、その業績(ぎょうせき)を継いで、我が国全体を皆が仲良く暮らせる立派な国にしようと決意されます。すると神武天皇の耳に、東方に緑の山に囲まれた美しいところがあるという話が届きました。そこは、きっと日本の中心にふさわしいところだろうと思って、日向を発(た)って遠征し、やがて都を定めることができたのです。

神武天皇のご東征のとき、土着の人々で協力してくれる者がいました。彼らには地位を与え、土着の神々もちゃんと祭りました。その子孫は、代々の天皇が即位するときの大嘗祭(だいじょうさい)という儀式で、今も重要な役を果たしています。

こういう事実から、決して侵略や征服が目的ではないということが、よく分かっていただけるはずです。もしも国民を苦しめる侵略であったなら、今日まで皇室が続くわけがありません。

〜『大國民讀本』を読む〜(10)に続く



上記は、昭和2年(1927年)1月25日に出版された、文部省認定・林平馬著『大國民讀本』の内容を、林英臣が、こども向けに“翻訳”したものです。

「戦前は立派だった」いや「戦前はひどかった」、「戦後、日本は良くなった」いや「戦後、日本はダメになった」などと、大東亜戦争(第二次世界大戦)で歴史を前後に区切ることが一般的です。

ところが、『大國民讀本』を読むと、日本は明治から既におかしくなっていたことが分かります。90年以上前の本とは思えない内容が本書に記されているのです。これから取り戻すべき日本の原点が、余すところなく示されていることに読者は気付くはずです。

戦前の日本の実態をよく知り、これから祖国再生を進める上で、心得とすべきことが沢山出てまいります。

昭和に入ってから出版された本ですが、90年以上前の内容ですから古典の意訳に近い作業が必要でした。そこで、子供から大人まで世代を超えて読んでいただけるよう、できる限り分かりやすく書きました。

親子一緒に学んでいただいていただいても、楽しい本になったと自負しています。また、明治以降の日本史を正しく学べる本として、読者のご研究の参考になれば幸いです。

意訳者 林英臣

『大國民読本』を読む〜はじめに〜より(一部追記)



昭和2年に出版された著書ながら、今読んでも新しく、胸に突き刺さる指摘ばかりです。新しいがゆえに、我が国の抱える病巣や問題の根が深いことが良くわかります。

👉戦前の日本が良くわかる本『大國民讀本』

林英臣の元氣メール(メルマガ)」で、こども向けに優しく噛み砕いて連載していた内容を、〜『大國民讀本』を読む〜として刊行しています。

noteで、逐次紹介して参りますが、下記からお求めいただき、共に「日本の原点」を取り戻すべく、ご家族ご友人と学んでくだされば幸いです。

https://hayashi-hideomi.com/books

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?