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僕がバーガーキングに翻弄された話「次こそ、優雅にワッパーを」

 バーガーキングに入ると、すぐにあの香ばしい煙の匂いが鼻を突いた。僕の胃袋は正直だ。ワッパーのことを考えた瞬間、グルルル…と鳴る。店内の客が一瞬こちらを見たが、気にしてはいられない。僕にはワッパーを食べるという崇高な使命があるのだ。

レジに並びながら、メニューを確認する。が、確認するまでもない。いつも頼むのはワッパーセットのラージサイズ。ワッパー以外の選択肢が頭に浮かぶことすらない。

「ワッパーセット、ラージで」

「セットのポテトはミディアムでよろしいですか?」

「えっ、ラージで」

「かしこまりました。お飲み物は?」

「コーラで」

「かしこまりました。セットのポテトはミディアムでよろしいですか?」

「いや、ラージで」

「かしこまりました」

なぜ二回も聞かれたのかはわからない。でも、細かいことを気にしてはいけない。人生とはそういうものだ。ワッパーに心を捧げると決めたのなら、些細なことで動揺してはいけないのだ。

数分後、トレイの上にはワッパーが鎮座していた。美しい。重厚感のあるバンズ、はみ出るほどのレタスとトマト、堂々としたビーフパティ。これぞ王者の風格。

席に座り、意を決して包み紙を開く。慎重に持ち上げ、大きくかぶりつく。

…その瞬間、トマトが、滑った。

重力に引かれたトマトは、完璧な放物線を描きながら、僕のシャツへ一直線。そして、さらに床へと落下。僕は静かにトマトを見つめた。トマトも僕を見つめ返しているような気がした。

「…やったな」

まるで決闘を挑まれた気分だった。

しかし、ここで負けるわけにはいかない。僕は気を取り直し、ワッパーに集中する。気を抜けば、次はオニオンかピクルスが飛び出すかもしれない。これは戦いだ。油断は禁物だ。

そんな僕を、隣の席の女子高生2人がチラチラと見ている。いや、違う。彼らは僕ではなく、床に落ちたトマトを見ているのだ。まるで、戦場に倒れた仲間を悼む兵士のように。

僕は静かにナプキンでトマトを拾い、再びワッパーを持ち直す。そして、今度は慎重に、慎重に、かじる。美味い。やはり美味い。

ポテトをつまみ、コーラで流し込む。ここまで来ればもう勝利は目前だ。

だがそのとき、コーラのストローを吸った瞬間、勢い余って炭酸が気管に入り、僕は思い切りむせた。

「ゴホッ…ゲホッ…!」

バーガーキングの店内に、僕の苦しげな咳が響き渡る。女子高生がまたチラリとこちらを見る。彼らの目にはこう書かれていた。

「こいつ、大丈夫か?」

僕は平然を装いながら、心の中で誓った。

「次こそ、もっと優雅にワッパーを食べるんだ」

バーガーキングでのワッパーとの戦い。それは、いつも喜劇と悲劇の間にある。

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