犯人はヤス、-終焉-|第10話|真相
「私はお邪魔ね。飲み物でも準備してくるから、みんなで話して」
ママが遠慮して席を外し、キッチンへ向かう。
チームのメンバーとサヤによる秘密の会議が始まった。
「サヤ、君は何を今まで見てきたのか、どこにいたのか、出来るだけ詳しく話してほしい。これから、みんなの意見も踏まえて、今後どうしていくべきか話し合いたい。まずは、5年前のあの日、何があったんだ?」
5年前の事件について、サヤが話し始めた。
「私はあの日、22箇所に仕掛けられた爆弾を解除しました。その後、赤さんと文屋長官と同じ部屋で、イナンナの解除をサポートしていました。安さんの誘導に専念していたんです」
「でも、君が解除したと言った22箇所の爆弾は解除されていなかった。その後、花火は上がり、記憶が消された」
連が答えた。それに対し、橋本が話し始める。
「いいえ。正確にいえば、我々以外の警察の人間は、記憶が残っています」
「そうです。私が部屋から抜け出し、外に出て、花火が打ち上がったのを見て、解除できていなかったことにようやく気付きました」
「じゃあまず、何でそこから抜け出したんだ? 赤はそこにいたんだろ?」
「サヤさんは、透視能力を使って、中島安が見ている映像を確認し、イナンナを分析してくれていました。その後、疲労が限界を迎えたサヤさんは体調を崩し、少し横になってもらっていたんです。そこまでは記憶があります」
「その通りです。そこから私はイナンナに対抗するため、神社へ向かい、ユタのお婆さんと母と合流しました。3人の能力を掛け合わせて、イナンナの記憶を呼び起こそうとしたんです」
悟が、話に加わる。
「それは僕がよく知っています。潜水艦の中でイナンナの記憶を呼び起こし、最初の記憶を見せてくれた。その後、安と僕は自衛隊に救助され、イナンナは爆発しました」
「話を戻すが、赤と文屋長官にはあの時、神社に行くことは伝えていなかったのか?」
「……伝えていません」
「なら、君は最初から文屋長官を疑っていたのか? はっきり聞くが、イナンナと花火を企てたのは、文屋長官なんだろ?」
「そうだと思います。でも、あの時、全ての人間をイナンナがコントロールしている可能性があったので、言えなかったんです。事件が起きたあの日は、我々、ユタの言い伝えの中にもある、日本の転換期だったのです」
「転換期?」
ここで、古谷警部が話に入ってくる。
「その事なら、俺が説明する。5年前の10月22日、日本が転換期を迎えると、昔から予言されていた。もちろん、これは、我々古谷家でも言い伝えられていた。俺は、文屋長官からイナンナの話は聞いていた。人間の能力を超えたAIであることもな。だから、何としてもそれを防ぐために、一緒に動いていた。橋本がいたINGを追いながらな」
「話は繋がりました。だとしたら、それだけ重要な日であるということを知っておきながら、この花火の計画を行ったとも考えられますね」
「ここで重要なのは、INGが何のためにできたかです。そもそも文屋長官は、敵対していたはずのINGと前から関わりがあったんですか? 話してもらえますか、橋本さん」
「そもそも、私がINGに入ったのは、出世のため。当時、ある被疑者を追っていた私は、そいつが隠れていた組織の在処を見つけ、逮捕許可を上層部に申請しました。その許可申請書を持って現れたのが、文屋長官です。当時、彼は次長だった。そして、私に対してこう言ったんです。『君の出世のためにも、この話はなかったことにしていただきたい』と」
「文屋長官がそんなことを言うわけないだろ! 橋本!」
「まぁ、そう思いたいでしょうね、これまで彼のことを慕っていた貴方たちなら。ただ、嘘はついていない。それに、大事な話はここからです。当時の私は、誰のことも信用していなかった。文屋長官ももちろん例外ではありません。何か裏があるはずだと、彼を探っていると、あることが分かりました」
「何が分かったんですか?」
「文屋家の繋がりですよ、先祖代々の。文屋家の先祖は昔、警察に殺されている」
「警察に? それなのに警察になるわけ……」
「なるんですよ、強い恨みがある人なら尚更ね。しかも、ただ殺されたわけではない」
「何をされたんだ?」
「魔女狩りですよ」
「魔女狩り!? まさか……」
「そう。文屋家は、霊能者の家系なんです」
「「霊能者⁈」」
「つまり、貴方たち古谷家と、サヤさんの家系である根保家と同じ、先祖代々受け継ぐ霊能者の家系。当時、見せしめとして殺された背景があったんです」
「親父から聞いたことがある。かつて、三つの霊能者の家系によって、均衡が保たれていたと」
「そう。それを知り、古谷家との繋がりも理解しました。そして、私は対抗するINGに入ったのです。これで、少しは理解しましたか?」
「まさか、あの人が……」
「もし、それが本当の事だとしても、どうして国民を巻きこむようなことをしたんでしょうか? 文屋長官の恨みの対象は警察のはずですよね?」
「そう、重要なのはそこです。先ほど、私がある被疑者を追っていたと言いましたよね? それを文屋長官からなかったことにしろと命じられたと。その被疑者のアジトが、三輪さおり、貴方の私有地だったんですよ!」
全員の視線が、三輪警部補に集まる。
「そういえば、三輪財閥が禰保家と古谷家の二つを取り継いでいると聞いたことがある。もしかして、文屋家とも関係があったのか?」
軽く俯く三輪警部補。
「推測ですが、警察だけでなく、貴方たち二つの霊能者の家系にも恨みがあったはずです。ここからは、自分の口で説明してはどうですか? 三輪警部補」
三輪警部補の顔色が変わり始めた。三輪警部補が、重い口を開く。
「三輪家の先祖代々、人間の第六感的思考の研究者として、禰保家と古谷家と関わりを持っていた。そこであらゆる予言を研究し、一つの答えを導き出した。その答えの内容は私にも分からない。三輪家は、両家の均衡を受け持つことができる唯一の家系。それは、ある秘密を、三輪家の人間が知っていたからだと、幼い頃に父から聞いたことがある」
「その秘密とは一体何ですか?」
「神の予言。つまり、過去、現在、未来、全ての神の思考を持つ人間が生まれくることを予知できる予言」
「「神の予言⁈」」
「神の予言とは、5年前の10月22日の転換期の予言と、古谷家と文屋家による予言を総称した、日本を揺るがす最大の予言。もちろん、内容は知らない。だが、この予言により、三輪家が発展できたのは事実。その予言内容こそが、この三家の関係でもあるとも言われている」
「内容が分からないんですね……」
「そう。すべての詳しい内容は、私にも分からないし、聞かされていない」
「なるほど。その内容を知ったのが、文屋長官ということか……」
特に霊能者の家系でもない三輪家が、重要な鍵を握っていたことが、ここで明らかにされた。
日本の第六感的思考の歴史は、過去を司り、現在へと反映させる風潮がある。そこに、禰保家の未来透視が入り、それを呪術化したのが古谷家だった。さらに、文屋家が加わり、三家の均衡は保たれていた。
しかし、これを良く思わなかった当時の政府が、文屋家だけを消滅させ、これ以上霊能者や呪術者が増えぬよう、手を打ったのだ。
それが、橋本が言っていた『魔女狩り』。
その生き残りが、文屋長官だった。
転換期の予言を知った文屋長官は、転換期に、イナンナの破壊と同時に、過去に対する反逆心から、過去の記憶を消し去るために、あの花火を打ち上げたのだ。
しかし、これだけでは辻褄が合わない。
ここで一つ、悟はあることに気が付いた。
「未だに、警察が、安を追い続ける理由は何なのでしょうか? 彼の両親が関わっていたイナンナの事件は既に幕を閉じているはず。だとしたら、何で……」
全員が考え込む中、サヤが口を開いた。
「先ほど、三輪警部補が言っていた、古谷家だけに受け継がれる予言の内容についてですが、分かるかもしれません」
「ホントか!」
「はい。右京さんが亡くなっていた和室の下に、たくさんの巻物が置いてあるのを発見しました。その中に一つだけ不自然にない巻物があったんです。透視で確認すると、安くんがその巻物を持っていってたんです」
「どういうことだ? 何でウチの巻き物を中島安が……」
「私は、この5年間、警察に追われる安くんと遠隔でやり取りしながら、彼を匿《かくま》っていました。なのに、安くんは知らないところで、古谷家へ行き、巻物を持っていっていたのです」
「もしかして、中島安が……」
安の不可解な行動。
ここにいる全員が、安と神の予言の人物を、頭で結びつけ始めていた。
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