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大正スピカ-仁周の第六感-|第8話|麒麟
戦艦に乗せられているのは、國弘の兄と一人の青年。
かつて、鈴子と國弘が暮らしていた熊本の村で起きたボヤ騒ぎ。
鈴子の霊視によって、小さな男の子の仕業であることが分かったが、実は、その裏で、正篤が指示を送っていた。
「その子どもは、龍族の血筋を持つ家系の末裔。衣織の孫にあたる子どもだ。後に、日本の神は全員、彼によって島ごと沈められることになる」
その男の子は成長し、立派な青年になった。
そして今、その青年が、戦艦の上に立たされている。
彼を一人、戦艦の上に置き去りにし、その様子を眺める裏の八咫烏たち。
それぞれ祈りや術を使い、天雲を呼び寄せ、その時が来るのを待っていた。
「陛下、浮島を日本海で発見し、島にいた龍族たちを全員保護しました。これから、彼らも我々に協力してくれるそうです」
「本当に、サンカの生き残りがいたようですね。お見事でした。それで、結界は解けそうですか?」
「それが、まだ……。彼らがどれほどの力を持っているか、まだ分かりませんので。ただ、島にいた駿河や周と合流できたという報告は受けています。それと、周の能力も戻ったそうです」
その言葉を聞いて、鈴子はそっと胸を撫でおろした。
「確かに、未来の選択肢が増えている。まだ明確ではないが、少しだけ閉ざされていた未来の扉が開くことになりそうだな。御所にいるサンカたちと合流させ、同じ龍族同士、話し合いの場を設ける。衣織の力も必要になるだろうからな」
「それが、もう一つ連絡がありまして……」
「何だ?」
「浮島を占領しようとしていた戦艦に、衣織さんが、一人の操縦士を連れて向かっているとの情報が入ってきています。何でも、『孫を助けに行く』とか。今は、単独で動いているようです」
「ならば、日本軍を応援に向かわせろ」
「それが、全てのヘリコプターに龍族たちを乗せている関係で、今、日本軍の兵士だけを向かわせることができない状況です。彼らを地上へ降ろすか否か、判断を願います」
「これは、どうしたものか……」
天皇は、國弘の顔を見た。
國弘は、天皇の目から何かを感じ取った。
「陛下、応援に向かわせますか?」
「いえ、彼女の判断に従いましょう。他は帰還するよう命じてください。応援は、こちらに待機している者を向かわせます」
心配している鈴子の様子を見て、澄子は話しかけた。
「彼女は未来が見えておる。大丈夫だ。我々のすべきことは、満州の争いを止めること。鈴子、もう一度、御所にいるサンカのもとへ向かうぞ。國弘、彼らが帰還次第、私にも連絡してくれ! 私も、彼らと話がしたい」
天皇自ら、協力を要請し、自分たちが今できる最善を尽くした。
黒い雲に覆われた戦艦。
「龍と人間だけがこの世界にいるわけではない。まずは、北を支配している幻獣『玄武』を呼び起こせ。然すれば、自ずと麒麟が現れる」
争いが続いている中、満州の山岳地帯には、数名の八咫烏がいた。
人間同士の争いを沈めるために、玄武に目覚めるよう働きかけていた。
その働きかけにより、祀られていた玄武がゆっくりと目覚める。人間の20倍はあるであろうその巨大な出で立ちは、山を覆うほどの高さだ。
「汝、我を呼び覚ます人間たちよ。目的は、争いを止めることではなかろう。正直に申してみよ」
「後に、我らが統治するこの国を世界の中心としたく、玄武様を呼び起こした次第でございます。これからは、玄武様が我々人間の核となり、導くお役目を担っていただきたいと思っております」
「……それは、成らぬな。そのような戯言に我が付き合うとでも思ったか? 其方らの目的が麒麟なのは分かっておる」
「でしたら、話は早い。麒麟を呼び覚まし、人間の領域を遥かに超えた存在を誕生させる、それが我々の願いです」
「また戯言を申したな。麒麟は、難しい性格ゆえ、人間ではその身が持たぬ。麒麟と繋がることは不可能だと思え」
玄武はこう助言すると、その場から消え去ろうとした。
すると、八咫烏たちは、魔法陣を使い、玄武をその場に留めた。
彼らは、こうなることを予知し、予め山に魔法陣を描いていたのだ。
「……後悔するぞ、人間たちよ」
こうして玄武を縛りつけた八咫烏は、火を焚き、大きな狼煙を上げた。
その狼煙と同時に、他の3箇所を支配する幻獣もそれぞれ、その場に留め、強制的に四神のレイラインを完成させた。
彼らは、計画通り、麒麟を呼び覚ますことに成功したのだ。
「では、実行せよ!」
正篤が指示を出すと、一人置き去りにされていた青年の前に、大きな石板が置かれた。
そこに、八咫烏たちが黒服に身を包み、一人の男を運んでくる。
両手両足を縛られた國弘の兄だった。
そのまま彼を石板の上に寝かせる。
「これでもう煩わしい者は消え、麒麟の能力が手に入る。これで、天皇家は終わりだ」
正篤の長年の計画は、予定通り、実行されることになった。
「新たな時代の幕開けとなる麒麟よ! 我々人間と繋がる時が来た! 生け贄の血を吸い上げ、今こそ、ここに目覚めるのだ!!」
まだ若い青年の血と國弘の兄弟の血を使い、これまで見たことのない二重仕掛けの魔法陣をその場で描き上げる八咫烏たち。
生け贄の儀式が始まると、祈りながら、雷が鳴り響く天を仰ぎ始めた。
そこへ一機のヘリコプターが現れた。
「私の夫と孫を返しなさい!」
今にも落ちてきそうな雷をものともせず、扉を開けて叫ぶ衣織。
上空から、目が開けられないほどの黄色いエネルギーが降り注ぐ。
衣織を避けるように落雷が発生し、描かれた魔法陣が光を放つと、青年の足元から煙が上がる。
バチバチと音を立てて飛び回る黄色いエネルギー。
麒麟が降りてきたのだ。
その瞬間、描かれていた魔法陣が赤く染まり、一瞬でなくなると、大きな落雷とともに戦艦が音を立てて、真っ二つに割れた。
そのまま斜めにながら沈んでいく戦艦。
急いで梯子を降ろし、青年を助けようとする衣織。
そこへ日本軍のヘリコプターが到着した。
すると、戦艦の中から、正篤が飛び出してきた。
そのまま青年を連れ去っていく。
「ボートを出せ! 心配は要らない。計画通り、四神を封印しろ! この戦艦には、もう用はない」
一瞬、青年の首筋にある黄色い麒麟の痕が見えたが、そのまま、正篤とともに姿を消してしまった。
衣織は、青年の未来を読み解こうとしたが、間に合わなかった。
その瞬間、真上にあった雲が渦を巻き始め、日本海に大量の竜巻が発生した。
麒麟がそれらを暴れ回りながら操り、南下していくのを衣織は見ていた。
「人間の欲によって幻獣が乱され、彼らの意思がコントロールされてしまった。それによって、八百万の神々が怒りを露わにし、これまで世界を陰で支え続けた日本は終わりを告げる。そして、この日本から全ての神々が離れ、この世を去ることになる。神々がいなければ、我々人間に、能力は与えられない」
この瞬間、衣織の運命は閉ざされ、彼女の透視能力は、麒麟のエネルギーとともに飛ばされてしまった。
日本にいる神々は、麒麟が呼び起こされたことによって、今後の運命を悟った。
何千年と人間に寄り添い、神社に鎮座してきた神々は、地上を離れ、この世を去っていった。
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