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天満月オークション-女神の追憶-|第19話|目標

「本当に大丈夫なのか? もし、宇宙船が壊れたらどうするんだ?」

リノとテッセンは、自分たちのせいで、宇宙へ行けなくなってしまうのではないかと、危惧していた。

酒の入った壺を持ちながら、宇宙船を眺める二人。

「分からない。ただ、このまま動かないのも違う気がする。それに、ナルさんも言ってたんでしょ? 僕たちなら、この宇宙船を復元できるって」

「そう言って、俺を逃がしてくれた。だから、リノを探しに戻って来たんだ」

「大人たちは、最後の日本人とか、唯一の子どもとか、僕たちのことを言うけど、僕にはその意味は分からない。ただ、僕たちに何かを期待して言っているのは間違いない。僕たちに今、出来ることは、この宇宙船を復元させること。それしかない」

「そこまで考えてるなんて。俺よりずっと大人だよ、お前は」

「良いか? テッセン、せーので、一緒にこのお酒をかけよう」

「分かった。やろう」

「行くぞ?」

「「せーの!」」

二人は、お酒を、宇宙船の真上からかけた。

すると、宇宙船のパーツが、機械仕掛けのように動き始めた。そして、門のような形の扉が姿を現した。

どうやら、これが入り口のようだ。

「やったぞ、リノ! これで中へ入れる!」

四角いザラザラとした取っ手を握る。

すると、大きな音を立てて、鍵が解除された。

塩で造られた真っ白な空間。中はドーム型になっており、中央に小さな台座が置かれている。

その台座以外、特に何も置かれていない。

「これ、本当に宇宙船なのか?」

ナルが言っていた。太陽・雨・雪の宇宙船の設計図も見当たらない。

ただ、よく壁を見てみると、外側とは異なり、無数の塩の結晶が折り重なるように並べられている。

塩の結晶は、透き通るほど純度が高く、青く輝いている。

「塩の結晶って、ピラミッドの形をしてたんだな。もしかしたら、昔の人たちはこれを見て、同じ形の宇宙船を造ったのかもしれないな」

まるで塩の結晶を大きくしたようなピラミッド型の宇宙船。

自然があれば、それをどんなエネルギーにも変えられると、先人たちは分かっていたのかもしれない。

「僕たちが生まれる前の世界って、僕たちが知らないだけで、もっと面白い世界だったのかもな?」

「そうだね。僕たちの知らない夢のような世界が、昔は広がっていたのかもしれない。……もしかして……」

二人は、同時に、布で覆われた氷漬けの植物を見た。

リノがオークションで手に入れた唯一の植物。これが、何の植物なのかは分からない。

ただ、この植物をナグサは大事にしていた。

ナグサは、未来を見据えて、この植物を大切に保管していたのだろうか。それとも、リノと同じように、オークションで手に入れたのだろうか。

「テッセン、もしかしたら、この塩の結晶、使えるかもしれない。この氷に反応して塩の結晶が輝いて見える」

「輝いて見える? 俺には、そう見えないけど」

テッセンの目には映らない光景。

リノは、塩の結晶を人差し指に付け、氷の上に乗せた。

「何か分かったのか?」

氷に触れている部分がキラキラと輝き、氷の温度を奪うように、塩の結晶が輝き始めた。

その光景を、リノは不思議そうに見つめていた。

「分かったよ。この塩の役目は、熱の吸収だ。氷が、周りにある熱で少しずつ溶けていたのを、代わりに塩が熱を奪ってくれるおかげで、氷が溶けなくなった。テッセン、手伝ってくれ。塩の結晶を氷のまわりに貼っておけば、これ以上、植物の氷は溶けないはず」

「なるほど、そういうことか! そうすれば、この大事な植物を守ることができる」

氷と塩の関係に気付いた二人は、塩の結晶を氷に塗り込んだ。

しかし、その時だった。

微かに、中の植物が動いた。

「今、植物が動いたような……」

すると、その植物の動きに反応するように、宇宙船の形が変わり始めた。

「おい、リノ、何が起きているんだ?」

人が捉えれないほどの高音が、洞窟に響き渡る。

しばらくすると、今度は、宇宙船の外側だけが変化し、逆三角形の形で回り始めた。

二人の足が少しずつ宇宙船から離れると、突然、体全体が宙に浮き始めた。

「おい、俺たち浮いてるぞ!」

「これは凄い! テッセン、エネルギーだよ。この植物に反応した塩の結晶がエネルギーを吸収して動き始めたんだ。これが、昔の人たちが考えた自然の仕組み!」

「俺たち、このまま宇宙へ行けるんじゃないのか? 凄い、凄いぞ、リノ!」

二人が興奮していると、足が床につき始めた。と、同時に、ピラミッド全体のエネルギーがなくなり始めた。

そして、宇宙船も、元の形に戻ってしまった。

「どういうことだ、リノ?」

「足りないんだ」

「足りない?」

「この植物だけじゃ、ピラミッド型の宇宙船は飛ばせない」

「どうすれば……」

二人は、何かに気付き、顔を見合わせた。

「今、この地球上には、植物はほとんど残っていない。でも、僕は、あの遺跡で行われていたオークションでこの植物を手に入れることができた」

「つまり、また、そのオークションに行くことができれば、植物が手に入るかもしれないってことか。そうすれば、この宇宙船を動かすことができると。……リノ、もう一度、砂漠へ行ってみないか? そこで植物が貰えるんだろ?」

「いや、このままじゃ貰えない。僕は、あの時、縄文土器を持っていた。それをオークションに出品して、植物を貰ったんだ。だから、何か同じような物を持っていかないと……」

「そもそも、その縄文土器、どこで手に入れたんだ?」

「たまたま足元にあったのを拾ったんだ。でも、その前に、僕は不思議な体験をした。神殿へ上がる階段の途中で、盲目のおばあちゃんが小さなオークションを開いていたんだ。それと全く同じ縄文土器を僕がたまたま砂漠で拾って……」

「まぁ、よく分からないけど、とにかく砂漠で拾ったんだろ? また、何かがそこに落ちてるかもしれない。とりあえず行ってみようぜ」

「そうだな。行こう」

「今度は俺も連れていけよ、絶対に」

「あぁ、もちろんだ! 必ず連れていく」

リノは、あの女の子のことを思い出していた。

自分を導いてくれたのは、きっと彼女。

ただ、リノは、彼女の存在をテッセンに伝えなかった。現実とはかけ離れた体験を、テッセンとできる確証はなかったからだ。

そもそも、あの世界に行くには、どうすれば良いのか分からない。

この時、二人は、ナルの言っていた設計図の存在を忘れていた。

二人は、そのまま砂丘のあった場所へ向かった。
 



「やはり、あの二人は、宇宙船の仕組みに気づいたようだな。私の目に狂いはなかった」

宇宙船の高音は、洞窟だけでなく、大地へ伝わり、遠く離れたナルの耳にまで届いていた。

宇宙船の仕組みを紐解いた時に起こるこの現象をナルは知っていた。

ナルは、部下たちを連れ、何やら準備を始めた。
 



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早坂 渚
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