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天満月オークション-女神の追憶-|最終話|再び

「どうだ、リノ? 遺跡が見えるか?」

「いや、何も見えない。あの時は、しっかり見えてたのに……」

リノが辺りを見渡しても、何も映らない。

目の前には、他の場所と変わらない光景が広がっている。

リノは、どうやって古代遺跡へ行ったのだろうか。

テッセンは、リノの表情を見て、砂を手に取ったり、砂の上を歩き回ったりしながら、手がかりを探していた。

「何か落ちていたら良いんだけど……」

「そういえば、初めてここへ来た時、こんなに風は強くなかった。それに、同じ砂なのに、今日は足が取られる」

そう言うと、なぜか、少しずつ風が治まり、砂煙も落ち着き始めた。

テッセンが歩き回った足跡も、消えることなく、そのまま残っている。

「さっきまで風が吹いていたのに……もしかして、リノが考えたことが全て現実になるんじゃないのか?」

「そうかもしれない。もう一度、思い出してみる。あの時、僕の足元に突然、縄文土器が落ちてきた。それを拾って顔を上げると、目の前に巨大な古代遺跡が現れて、女の子が……」

「その女の子って、もしかして派手な着物を着た女の子か?」

「そうだけど……なんで知ってるの?」

テッセンは、ナスカに捕まる直前に見た、蜃気楼の中にいた女の子を思い出していた。

「いや、何となく、記憶があるだけだ」

「その女の子に案内されて、僕は、あの古代遺跡の中へ入ったんだ」

「だったら、その女の子を呼べば良いんじゃないのか? お前がお願いすれば、応えてくれるかも」

「分かった。やってみる」

リノは、目を閉じて、古代遺跡との繋がりをイメージしながら、女の子にお願いした。

「空に星が輝き、月が照らす、あの世界を。もう一度、あの古代遺跡に、僕を連れていってくれませんか?」

リノは、ゆっくり目を開けた。

すると、突然、砂が動き始める。

「リノ、凄いよ。俺にも、砂が一粒一粒、輝いて見える!」

キラキラと輝き、エネルギーに満ち溢れた砂の粒。

同時に、二人は不思議な世界へ入っていく。

そこで初めて、二人はオーラを見た。

「テッセン、体が黄色に輝いて見える!」

「俺もだ! リノの周りが緑色に見える。でも、待てよ、青と緑を混ぜたような色にも……」

二人がオーラに感動していると、急に、背後に気配を感じた。

同時に振り返ると、そこにいたのは女の子ではなく、ナグサだった。

「おじいちゃん!? どうしてここに?」

リノは、ナグサのところへ駆け寄ろうとするが、足が砂に取られ、動けない。

「そうか、リノも、あの古代遺跡を見ていたのか……」

二人が振り返ると、目の前に、古代遺跡が現れた

「これが、さっき言ってた古代遺跡か。かなり広い遺跡だな」

「この中でオークションが開かれてたんだ」

ただ、リノは、ずっと違和感があった。

そもそも、なぜ、ここにナグサがいるのか。

古代遺跡もはっきりと見えているわけではなく、薄っすらぼやけて見える。

しかも、空は、ガス雲に覆われたまま、星一つ見当たらない。

地面にある砂の感触もそのまま。いくら足を前へ動かそうとしても、足は全く動かない。

まるで夢と現実の狭間にいるような、そんな感覚だった。

「おい、リノ! あの遠くにいるのってまさか……」

古代遺跡の右側に、着物姿の女の子が見えた。

「あの子だ! あの子が僕の手を取って、この遺跡の中へ連れていってくれたんだ」

同じ女の子であることは間違いない。しかし、リノの目には、どこか表情が曇っているように見えた。

彼女と目を合わせようとしても、全く目が合わない。

女の子は、そのまま、二人の後ろに立つナグサだけを見て、近づいてきた。

「あれから5年、ずっと会いたかったぞ、リノよ。背もこんなに伸びて、大きくなって……」

リノは、ナグサに言葉をかけようとしたが、できなかった。

ナグサとの思い出が頭の中で駆け巡り、それを言葉にすることができなかったのだ。

ガス雲の間を縫うように、微かな緑色の月明かりが、ナグサだけを照らし始めた。

それを、テッセンは不思議に思っていた。

「私も若い頃、同じような遺跡に出会ったことがある。あれがどこで見たものなのかは覚えていない。普段より植物が生い茂り、虫や動物たちの声が響き渡る、何とも不思議な光景だった。見ず知らずの女の子に手を引かれ、森の中へ入っていったんじゃ。あれは本当に綺麗じゃった。あの光輝く森は今も忘れられん」

懐かしそうに、思い出しながら話すナグサ。

その言葉に反応するかのように、砂の間から芽が出始め、葉がつき始めた。

あっという間に、目の前が森の世界になった。

「その頃じゃったかな、自然の声を聞けるようになったのは。外へ出れば、どこへ行っても花や植物たちが訴えかけてきた、地球が危ない、地球を助けてとな」

森の世界が、再び、砂漠の世界へと戻っていく。

ナグサの気持ちや思いが、そのまま形となって目の前に現れているようだ。

まさに、自然そのもの。リノよりも深い緑色のオーラを纏うナグサの姿を、二人は真剣な眼差しで見ていた。

どのような経験をしたら、こんなに優しいエネルギーを纏えるのだろうか。

どのような経験をしたら、彼のように自然に愛される人間になれるのだろうか。

大人にしか分からないこと。

子どもの時にしか分からなかったこと。

これから何を背負い、どのように生きていけば良いのか。

目の前にいるナグサから多く吸収しようと、リノとテッセンは、真剣に話を聞いていた。

そんな中、ナグサをじっと見つめたまま、ゆっくり近づいてくる女の子。

彼女はそのまま、リノの前を通り過ぎた。

「そうか。そういうことじゃったか。私はずっと間違えていたようじゃな。こんな老ぼれになる前に、もっと早く気付けばよかった。そうすれば、こんな世界にならずに済んだかもしれんな」

すると、ナグサの体が、砂と同じように輝き始めた。

「この世界が見えている、リノとテッセン。二人に伝えたいことがある。この日本のどこかに世界の土地のエネルギーが集まる仕組みが眠っている。今も、起こされる時を待っているのじゃ。日本にある古代遺跡を辿り、その仕組みを呼び起こしてほしい。答えは外に在らず、中に眠っている。リノ、お前は導かれるまま動けば良い。そして、必ず月へ行きなさい。月へ行けば、私の全てが分かる。その時、二人がなぜ、この世に生まれてきたのか分かるであろう。若き二人の英雄、私の愚かな行動を許してほしい。人類を、お前たちの手で救うのじゃ」

ナグサが話し終えると、リノの心に何かが受け継がれた。

風が吹き、雲が割れ目から緑豊かな満月が現れると、暖かい光がナグサを包み込んだ。

ナグサの周りにだけ緑が広がり、彼の足が少しだけ砂から離れた。

女の子が現れると、そっとナグサの手を取った。

「お疲れ様でした。ゆっくりおやすみください」

ナグサは、そのまま目を閉じ、微笑んだ。

リノが意思を受け入れると、二人は、元の世界へ戻っていった。
 



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早坂 渚
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