見出し画像

🎬【犯人はヤス、】 第10話 独歩


♦️第1話 かくれんぼ
♦️第2話 追跡
♦️第3話 伏線
♦️第4話 偽り
♦️第5話 潜入

♦️第6話 牛追い
♦️第7話 再会
♦️第8話 背反
♦️第9話 後悔
♦️第10話 独歩



♦️第10話 独歩


「イナンナを壊す事が我々の使命です。それは今も変わりません。ミノは、一人でイナンナを壊そうとし、殺されました。イナンナはそれだけ人類史が変わってしまう程の恐ろしい人工知能を持った凶悪な未来透視システムなんです。だから僕は、母の透視を頼りに、幹部としてサニー新道教に在籍しながら、『犯人はヤス、』の存在を待っていました。中島安という高校生が、ミノの影響で、5つのメダルを用意し現れ、イナンナの光を浴びスキャンされると。イナンナの光を浴びた中島安を母の前へ連れていく予定でした。しかし、イナンナの光を浴びたのは中島安ではなく、あなただった。イナンナを壊せる大事な場面で、あなたはすり替わってしまったんです。もし壊せなかった場合は幹部4人で壊すはずでしたが、それもまた警察の包囲網によって出来ず、逃げる羽目に……。少しは分かってくれましたか?」

「……」

聞く以外、思考が停止してしまった悟は、反応すら出来ずにいた。

「無理さ。ただ目の前の悪を捕まえる事しか考えてなかったんだから。ただ、イナンナにスキャンされた事によって悟、お前はイナンナの光を浴びた者の記憶を呼び覚ます使命を持った」

「記憶を呼び覚ます?」

「そう、これには使命を持った者がもう二人が必要だ。ユタの血を引く受け継ぐ者、破滅の使命を持つ者、イナンナにスキャンされた者。この3人だけで天岩戸あまのいわとがくれを開けなければならん。その一人に悟は選ばれたんだよ。天岩戸隠れは全国各地にあって、この島にもガーヤマという海岸沿いにそびえ立つ洞窟がある。日本神話の天照あまあてらす大御神おおみかみが隠れたとされる有名な場所さ。その地を守護しているのがこの巫女たちさ」

「我々はユタの予言により、これから行われる天岩戸隠れの『再生の儀』を聞かされ、こうして集まっているのです。そして、あなたを待っていました」

「そうさ、その儀式が行われるのは、3日間。その間、天岩戸隠れの洞窟からは出られない」

「3日間も洞窟に? ……それで後の二人は?」

「もうすぐ来るさ」

神の意思なのか、天地が揺れ動き突如、豪雨と落雷の音が鳴り響いた。

「婆さん! 来ました! 二人が!」
 



――公安警察庁

「新たに『犯人はヤス、』の情報が入って来ました。サニー新道教の信者数千人の逮捕後に捕まったとされていた容疑者は、先程、逃走し行方が分からなくなったとのことです……」

#犯人はヤス 、未来予知「彼は決して捕まえる事は出来ない予知能力があるんだ! みんな春留神社に集まれ!」
#犯人はヤス 、神「ヤス、こそが神だ! 新世界の神が春留祭りに現れるぞ!」
#犯人はヤス 、新世界の神「ヤス様、宗教も潰してください……うちの家族が洗脳されて困っています……助けてください」

「おい、まだ全て消せないのか! このままじゃ、春留神社祭りに人がなだれ込むぞ!! 何とか消せ!!」

「部長! 『犯人はヤス、』の新世界の神というサイトが既に出来ており、1万人規模の春留祭りの参加者が募ってしまっているようです……」

公安警察では、対応に追われていた。

「部長、たった今、新たな情報が出まして、同日に行われる22箇所の全ての祭りの神社に、『犯人はヤス、』の張り紙が貼られているそうです!」

「何だと!? どういう事だ」

「それは私たちが流した偽情報ですよ。公安部長さん」

「橋本……またお前か! こんな事をして許されると思ってるのか!」

「被害を最小限に抑える為の撹乱かくらんです。民間人を守る為ですよ。そもそもあなたたちは情報を消すことしか脳がないんですか? だから上層部もあなたたちに任せきれず、私に託したんでしょうね。理由がよく分かりましたよ」

橋本の隣にいたのは、パソコンを持った赤だった。

警察内でも交錯する争いは、少しずつ表面化してきていた。



――古谷家

古谷警部と蓮は、帰省していた。

巨大な平屋建ての木造建築。おもむきある瓦屋根飾りには、陰陽おんみょうのマークがあり、玄関には陰陽道司家じけの文字が一枚板に彫られ、飾られていた。

「何のつもりだ。うちの看板を潜っていいなどと、言った覚えはないぞ」

古谷警部の父である第12代目陰陽道司家、古谷右京うきょう。あぐらをかき、腕組みをする白髪の右京は、鋭い眼つきで古谷警部を睨んでいた。

「悪い、親父……ちょっと頼みがあんだ」

「わざわざ二人で来たという事は、ようやく警察にも波乱の幕開けが近づいているんだな」

「力を貸して欲しい。このままいくと、大事件になっちまいそうなんだ……」

「大事件? 詐欺師呼ばわりして出ていったお前たちが、この陰陽道の力を貸してくれだと? ……笑わせるな! それを何とかするのがお前たち警察の仕事だろ!」

「……この事件には、親父の嫌いなユタが関わってるみたいなんだ。あいつらの血筋による争いが巻き起こした事で今、日本中で大騒ぎになってんだ。それが3日後の祭りで……」

「ユタ? あいつらとは関わるなと、あれ程言っておいただろ!」

「昔からユタは、うちと因縁の仲なのは知ってる! でも今はそんな時代ではなく、さらに別のAIが……」

「知った事か! いいか? この代々継承される陰陽道司家が、お前たちのおかげで途絶えようと……ゴホッ、ゴホッ……」

妻が駆け寄り、ハンカチで右京の口を押さえる。

「おとうさん、大丈夫ですか? ……章雄、もういいでしょ? 今、おとうさんの身体は弱ってて、それどころじゃないの。今日はもう帰りなさい」

「……悪い母ちゃん。……分かったよ」

「ちきしょう……」

「どうすんだよ、親父」

「俺たちだけでやるしかない。予定通り、祭りは決行するぞ。真犯人をお引き寄せる為にも」

「協力者は? もっと多くの協力者がいないととんでもない人数の被害者が出るぞ! 親父!」

「……信じるしかないだろ。彼らが戻ってくるのを……」

春留神社祭りまで、あと3日に迫っていた。

もしよろしければサポートをお願いします😌🌈