犯人はヤス、-終焉-|第11話|絡繰
「みんな、協力してくれ! 赤と橋本は、思考テロの解析を頼む。さおりさんは、三家の秘密を探ってくれ」
「分かりました。管理人を使い、保管庫にある書物を調査します」
「蓮は、安が持っていった古谷家の巻物の在処をつかんでほしい」
タバコに火をつける蓮。
「最後に悟、お前は安を捕まえろ。それから、俺たちと合流だ。いいな」
「……」
「返事!」
「は、はい! 分かりました」
的確な采配を瞬時に行う古谷警部。
「一つだけ気になることがある。警察は記憶がなくなっていなかったろ? 何で、アイツらはなくなってないんだ?」
サヤが答える。
「それは分かりません。ただ、あの時、花火の音の波長で、記憶を操作していたようです」
赤と橋本も、花火の解析を始めた。
「警察官がいる場所は、5年前に花火が上がった22箇所の神社です。その神社の周辺に、記憶をなくす大元があるのは間違いないでしょう」
橋本が予測する。
しかし、なぜか、サヤの透視には映らない。神社の周りは、警察官が張り込んでいるため、近寄ることもできない。
「あっ……、いい方法を思い付きました」
そう言った、橋本の視線の先にいたのは、グラスを洗うママだった。
「ちょっと、何よ。私のこと、じーっと見て」
橋本が、何かを言いたそうに、古谷警部の顔を見ている。
「言いたいことは分かる。使えるかもな」
そう言って、古谷警部はキッチンへ向かった。
「ママ、また頼みがあるんだ」
「今度は何よ? 記憶を戻したと思ったら、また頼みごと?」
「22箇所の花火が打ち上げられた神社の側には、川があるんだ」
「それで?」
「ママにお願いがある」
全国のオカマバーのママに、ネオカマーのママから一斉に連絡が入った。
「分かったわ。もちろん協力する。……アンタたち! ネオカマーのママからの命令よ! 協力して!」
店の看板の明かりもなくなった、夜中の2時。
22箇所の神社のそばにある、川の中に、一斉に入るオカマたち。
「何もないわね……」
「本当にこんな場所にあるのかしら」
「文屋長官! 大変です。何者かが、記憶装置の存在に気付いたようです!」
「何!? すぐに捕まえろ! ……古谷たちか?」
「いえ、違います。なぜか、女性たちが……」
「もしもし」
「ママ! あったわよ! 川石の下に隠されてる」
「そのまま、壊しちゃって! その手に、日本の未来がかかっているのよ!」
電話で指示を出すママ。
そこに、
「おい、お前たち! そこで何やっている! 手を挙げろ!」
数名の警察官に取り囲まれる。
石を持ったまま、暗闇で両手を挙げるオカマたち。
「手に持っている物を、今すぐ離しなさい!」
「分かったわ、離せばいいんでしょ?」
そう言うと、オカマたちは、持っていた石を警察官に向かって投げつけた。
その隙に、川の中の機械を壊した。
「ここからは力強くで逃げるわよ!!」
「赤、何か分かったか!」
「はい。機械を壊してくれたことで解析が出来ました。この機械を使って、周波数で記憶を操作しているようです」
「どういうことだ」
「今までは、カメラの映像で監視していましたが、5年前から監視カメラはなくなりました。おそらく、その代わりに生まれたのが、私たちの会話を周波数をキャッチし、その周波数を水に記憶させる、この機械なんです。おそらく、この機械を使って、少しでも思考が戻ろうとした人をキャッチし、音楽で記憶を押さえつけていたのではないでしょうか」
「なるほど。花火の周波数で記憶を飛ばし、その記憶が戻っていないか、この機械で監視していたというわけか。それは分かった。なら、どうして警察官は記憶が消されなかったんだ?」
「そこまではさすがに……」
「サヤさん、壊した機械周辺の人間を透視できるか?」
「はい。……今のところ変化はありません。壊しただけで、記憶が戻るわけではないようです」
「そうか、分かった。さおりさん、そっちはどうだ?」
「今、複数の管理人を保管庫に向かわせています。……大丈夫だ! 責任は全て私が取る。中へ入って探れ!」
禰保家と古谷家を取りまとめている三輪家。
この三輪家にある秘密の書物を探すよう指示をする三輪警部補。
キッチンの換気扇の下では、蓮がタバコを吸い、安が持っていった古谷家の巻物の在処を探していた。
「サヤ、本当に安が持って行ったのか?」
「はい。どこかへ隠しているはずです」
安の目的は、未だに分からない。
「それで今、中島安はどこにいるんだ?」
サヤも必死に探る。
「何か……尖った山が見えます」
古谷警部もタバコを吐き、文字を確認した。
「俺の透視ではダメだ。どこか我々の想定外の場所にいるようだな」
なかなか、安の居場所が掴めない三人。
そんな中、悟は、今まで得ている情報を、必死に紙へ書き出していた。
何の能力もない悟。
それを見つめる古谷警部。
「なぁ、あんちゃん。俺があの時、チームのメンバーに引き抜いたのは、思い付きなんかじゃない」
悟は、手を止めて、顔を上げた。
「サヤさんもそうだと思うが、俺もこう見えて霊能者の端くれだ。だが、大概のヤツの性格は初めに見抜ける。そんな俺でも、あんただけは、見抜くことができなかった。だからあの時、不思議な感覚に陥った。何かとても不思議な感覚だったよ、口では言い表せない感覚だった」
脳裏に浮かぶ二人の出逢い。
地図に指を差し、説明しようとする悟を見透かそうとした古谷警部は、自分では掴めない何か大きなものと対峙しているような感覚に陥っていた。
「どういうことですか?」
今度は、サヤが話し始めた。
「分かります。悟さんはきっと、真っ直ぐで素直な方なんです。だから、私たちには、悟さんのエネルギーが捉えられないんだと思います。そんなことをする必要がないと。見透かそうとする私たちが、怒られているような、そんな感覚に襲われるんです」
「なあ、あんちゃん、いや悟さん。俺ら霊能者にも限界があることを知らせるために、誰かが出会わせたのかもしれん。それだけ、ある意味、衝撃を受けたんだよ。この透視と機械による戦争の狭間にいる重要人物は、もしかすると中島安とあんちゃんなのかもな。もしここから何か選択に迷うことがあったら、周りを無視してでも、自分の直感を信じるんだ。いいな」
いつの間にか、熱く語っていた古谷警部。
その言葉に、全員が耳を傾けていた。
まわり道をせず、最短距離で行動する古谷警部だからこそ、機械や透視に惑わされることのない直感的思考は、悟にしかできないと、経験から見抜いていたのだ。
悟は、熱弁する古谷警部の表情をただ見つめるだけだった。
「うん、分かった。……警部、三輪家の古文書が見つかりました。赤、今データを送った。モニターに映してほしい」
スクリーンに、三輪家に伝わる古文書が映し出された。
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