🎬【犯人はヤス、】 第15話　裏切り　　

♦️第１話　かくれんぼ
♦️第２話　追跡
♦️第３話　伏線
♦️第４話　偽り
♦️第５話　潜入

♦️第６話　牛追い
♦️第７話　再会
♦️第８話　背反
♦️第９話　後悔
♦️第10話　独歩

♦️第11話　三巴
♦️第12話　記憶
♦️第13話　思惑
♦️第14話　計画
♦️第15話　裏切り

♦️第15話　裏切り

「これが儀式の合図。これからあなたたちは、あそこにあるお酒を飲み、記憶を呼び覚ますのよ」

そう言って３人の縄を解いた。

「もしこのまま飲まなければ、水が流れ続け、全員死ぬ。あなたたちは飲むしかないのよ。一人は変わらずに無心となり、もう一人は透視能力が開花する。そして、最後の一人は破滅の記憶を思い出し、あの矛ほこを手に取る。争うのよ、これから３人で。いいわね？」

「まだ間に合う！　逃げる方法はないのか!?」

悟はシズエに訴える。

「無理よ、今更。もしかして、飲む前から破滅の記憶でも戻ったのかしら？」

挑発するシズエはあくまでサエだけを守り、逃げるつもりだ。

「待ってください」

「今度はあなた？　怖気付いたの？　安くん」

「……ひとつだけ約束してください。もし、仮に僕が破滅の記憶を思い出したとしても、サヤを絶対に守り抜くと。これからは母親として、ずっと側にい続けると」

「当然約束するわ。まさか、この状況であなたが他人の心配をするとはね。でも、私はこれからどうなろうと、あなたを一生恨むわ。あなたの親のせいでこうなったのよ？」

シズエはあくまで被害者は自分たちだと主張したいようだ。

足元まで来ていた水が、膝下まで上がってきた。

（このまま溺れ死ぬのであれば、最悪の展開に賭けるしかない）

すると、サエが口を開いた。

「悟さん、やりましょう。儀式を行う以外、助かる方法はありません！　まず、滝から離れましょう！」

４人は、水を掻き分けながら滝から離れた。

「３人同時に、この岩壁に書かれている文字を読みあげます！　よろしいですか？　せーの!!」

「「《再生の儀》これより古の儀を受ける者は、同時に口にせよ。さもなくば神の怒りを買うであろう」」
「「《再生の儀》これより古の儀を受ける者は、同時に口にせよ。さすれば神の記憶が蘇るであろう」」
「「《再生の儀》これより古の儀を受ける者は、同時に口にせよ。さすれば神の思ふまま事は進むであろう」」

古くからの言い伝えが正しければ、３人のうち誰かがが破滅の記憶を呼び覚まし、全員を殺あやめる可能性がある。

三方の上にある日本酒を見つめる３人。

股下まで水が浸かり出したとき、悟が強い口調で二人に声をかけた。

「大丈夫だ!!　何が起きても僕が守る!!　紐を解け!!」

日本酒の瓶に掛かっている紐を解き、白い和紙をはがした。

「同時に飲むぞ!!　いくぞ！　せーの!!」

勢いよく天を仰ぎ、３人とも一気に飲み干した。シズエはポケットに忍ばせておいた拳銃に手をかける。

すると、大きな地響きとともに、３つの祠が崩れ始めた。

その勢いで４人はぐらつき、水をかぶった。

最初に動いたのは、安だった。

水飛沫しぶきを上げながら、滝壺の中にある矛を目掛けて泳ぎ始めた。

それをサヤが追いかける。

矛を手に取り抜こうとする安を、サヤが両手で矛を掴み押さえる。

「二人とも矛から手を離せ!!!!」

二人が振り返ると、拳銃が自分たちに向けられていた。

「悟さん……？」

拳銃を構えていたのは、シズエではなく、悟だった。

すでに、シズエから拳銃を抜き取っていたのだ。

シズエにも目で威圧する悟。

「動くな！　もし一歩でも動いたら、サヤを撃つ！」

両手を上げ、素直に従うシズエ。

「どうして何の関係のないあなたが破滅の記憶を思い出す使命なんだ……」

「違う。僕は破滅の記憶なんて思い出していない！　二人のどちらかのはずだ。さぁ、その矛から手を離せ！」

辻褄が合わない３人。この中の誰かが破滅の記憶を思い出してるはずだが、誰一人名乗りでない。

シズエは３人の顔を覗き込む。

「本当に警察のあなたじゃないなら、拳銃を二人に向けるかしら？」

（誰かが嘘をついている……）

「とにかく、安！　違うなら矛から手を離してくれ。大丈夫だ、誰一人ケガなんかさせない」

安は、疑いながらもゆっくりと両手を上げた。

なのに、サヤだけは矛を離さない。

そして、ゆっくりと口を開いた。

「……皆さん……すみません……実は……」

手を上げたままサヤを見つめる安。

「何だ、サヤ？」

「もしかして……破滅の記憶を思い出したのか？」

悟の問いに対して、大きく横に首を振るサヤ。

「なら、なぜ矛から手を離さない!?」

「私……お酒……飲まなかったの……」

---

月が昇らない新月の朝、雲行きが怪しくなる洞窟の入り口で、未だに祝詞のりとを唱える巫女と島人たち。

「そろそろだな」

島人たちは、クワやヤリなどを手に持ち、入り口を塞ぐように取り囲む。

そこに、真っ黒な雲が突風と共に押し寄せ、横なぶりの雨が降り出した。雨に打たれ、周りを囲っている松明が消えてしまった。

そして、天の怒りに満ちたような雷が洞窟の近くに落とされ、地響きがし始める。

びしょ濡れのまま、島人たちは、険しい表情で洞窟の入り口を見つめる。

「ここから最初に出てきたヤツが、破滅の人間！　決して生きて帰すではないぞ!!」

一致団結する島人たち。

すると、洞窟内で拳銃の鳴る音がした。

目を丸くし、祝詞を中断する巫女たち。

「中で何かあったぞ。どうする？　巫女さんよ？」

「何かの一大事です！　急いで開けましょう！」

非常事態に気付いた島人たちは一斉に岩を動かし、入り口を開けた。

すると、飛沫をあげる音とともに、勢いよく水が流れ出した。

そして、洞窟内から全ての水が溢れ出ると、飛沫をあげる音も止まった。

誰も身動きを取ろうともせず、入り口に集中したまま動かない。そのまま雨も止み、風さえも止まった。

海岸部の岩にぶつかる波の音だけが変わらず静かに聞こえる。

武器を持ち、息を呑む島人たち。

すると、入り口からゆっくりと足音が聞こえてきた。

「来たぞ!!　構えろ!!」

全員が武器を入り口に向ける。

洞窟の中から一人の陰が現れ、その後ろからまるで天照大神のように後光ごこうの光が差した。その不思議な光景とともに、最初に出てきたのはシズエだった。

島人たちは、誰一人前へ出ることなく、その場で立ちすくんでいた。

「もしかして、シズエじゃないか？　そうだ、キヨの娘のシズエだぞ！　生きとったのか？」

幼い頃を知る島人たちがシズエを出迎え、武器を置いた。

そして、その後ろからサヤと銃を持つ悟、ライトで照らす安が順に現れた。

つまり全員洞窟から出てきたのだ。

島人たちは理解が追い付かず、４人を不思議そうに見つめていた。

悟に安が手紙を渡す。

「これ、沖縄に着く前にサヤからもらった手紙です」

［警察官と３人で洞窟へ行く。洞窟で私の母に会う。その後儀式をさせられる。母の前でお酒を飲む振りをすれば、母は誰も打てない。もし、一人でも飲んでしまった場合、洞窟全体が崩れ落ちる］

「全員下敷きになっていた未来もあったんです。全ては悟さん次第でした」

「すごい賭けに出ましたね」

「何となく、悟さんは、儀式とか信じないんじゃないかなって」

「おかげで全員助かりました」

３人共日本酒を飲む振りをして、飲んでいなかったのだ。

しかし、この出来事が、今後の３人の運命を徐々に変えようとしていた。