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天満月オークション-女神の追憶-|第16話|古代遺跡

テッセンは、戦車から放り出された。

「待ってくれ、ナル!! このまま、ここに置いて行かれても……それに、まだ手錠がかけられたままだ!」

テッセンの言葉を聞くことなく、戦車は、そのまま去っていった。

「どうやってリノを探し出せば……」

戦車のタイヤ痕を辿りながら、テッセンは、砂丘があった場所まで歩くことにした。
 



女の子が、リノの手を引っ張りながら走り回る。

そんな彼女の背中の帯が、月明かりに照らされ、輝いて見える。

あの日と同じ温かさ。

涙が出そうな、不思議な感覚。

なぜか古代遺跡の入り口にどんどん近づいていく二人。それでも変わらずに回り続ける雨の宇宙船。

女の子が振り向く度に、緑色の満月が目に映り込む。

いつしか、空は、満天の星空になっていた。

雲一つない、かつてのきれいな空。

そこから雨粒が落ちてきたかと思えば、シトシトと降り続いた後、今度は、二人の間に、優しく雪が降り始めた。

その後、月の反対側から太陽が昇り始め、砂漠に草木が生い茂り、花が咲き始める。

海の色も青色に戻り、その奥に虹がかかっているのが見える。

まるで夢のような世界。

そのまま遺跡へ吸い込まれるように入っていったリノは、縄文土器を手にしたまま、入り口の扉を開いた。

建物の中は、どこか見覚えのある形をしている。

目の前に半円状のアーチがかけられた舞台が設置されており、その上に台がある。そこには物があり、スポットライトが当たっている。

よく見ると、蝶ネクタイをした人々が札を挙げている。

見上げると、何階建てかは分からないが、高い建物であることは分かる。各階に部屋があり、そこから札を持った大人たちが見下ろしている。

ここは、大人たちの広場。

ただ、全員、体が光っている。

この古代遺跡は、昔のオークション会場だった。

すると、女の子は、リノが手に持っている縄文土器を指さした。

「これがほしいの?」

彼女は、勢い良く頷いた。

渋々、縄文土器を会場のスタッフに渡すと、3階にある別室へと案内された。

アーチ状の装飾が施された特別室。

気付いたら、二人ともスーツとドレスに着替えていた。そして、赤色のソファに隣り合わせで座った。

二人は、静かにオークションを見守る。

次々と出品され、落札されていく品々。金額と思われる単位がグラムで表示されており、何で交換されているまでは分からない。

女の子が、舞台に指を差しながら、リノに話しかける。

しかし、その声は、リノには届いていない。

大きく映し出される縄文土器。

先ほどまでの流れとは違い、最初から落札数がどんどん増えていく。瞬く間に過去最高値を叩き出した。

本当に一瞬の出来事だった。

リノは、彼女ににこやかに話しかけられると、そのまま手を引かれ、1階へと降りていった。

カウンターの前に到着した二人。大人のスタッフが、白い手袋を付けたまま、彼女と何やら話をしている。

奥からゆっくりと両手で何かが抱えられ、二人のもとへ運ばれてきた。

それは、ナグサが持っていたものと同じ、氷漬けされた植物だった。

葉っぱが二つだけ生えた小さな植物。そこからエネルギーが溢れ出ていた。リノの目には、他のどんな物よりも輝いて見えた。

肩に手を当て、笑顔でリノの顔を覗き込む女の子。

理解が追い付かないまま、会場を後にすると、さっきまで鳴り響いていた宇宙船は姿を消し、目の前には砂漠地帯が広がっていた。

リノは、慌てて後ろを振り返った。

しかし、そこには、もうオークション会場はなかった。

よく見ると、さっきまで見えていた星空も消え、いつものガス雲に覆われた灰色の空に戻っていた。
 



「おい、大丈夫か? リノ!」

「……ここは……?」

「ここは、お前がいなくなった場所だ。覚えてないのか? また急にいなくなったんだよ! その間に、俺は戦車で運ばれて、何とかナルの協力で脱出することができた。そこから大砲と宇宙船が置いてある場所まで戻ろうと歩いていたら、お前が立ってて……。てか、お前、その植物、どうやって取り返した?」

まだ意識が朦朧としたままのリノ。

凍り漬けされた植物が目に入った。

「何でこれだけ残っているんだ……?」

何度辺りを見渡しても、やはりオークション会場は見当たらない。

何も知らないテッセン。

彼の顔をまじまじと見ると、ようやく、自分が異世界にいたことを認識し始めた。

「テッセン、あったんだよ、ここに古代遺跡が! しかも、そこではオークションが開催されているて、その会場でこの植物をもらったんだ」

リノはそう言うと、植物を置き、テッセンを力強く抱きしめた。

「ごめん、ちょっと何言ってるか、さっぱり……最初から説明してもらっても良い?」

リノは、テッセンの両腕が縛られていることに気付いた。

頑丈そうな金属で固定されたテッセンの腕。直感で外せると判断し、リノは近くの砂をかき集めて、手錠に擦り付けた。

すると、金属がボロボロと剥がれ落ち、魔法のように消えていく。

「手錠がなくなった……? お前、どうやってやったんだ?」

「分からない。ただ、この砂には特別な力がある」

「不思議なことがありすぎてよく分からないけど、とりあえず、話は後で聞く。とにかく、今は、あいつらから逃げないと。出雲に戻ろう!」

リノとテッセンは、出雲へ向かった。
 



「ようこそ、我が城へ。あなたはまた、日本人の子どもを逃したようですね。いずれ二人は、我々が連れ戻します。これから、あなたには、ナグサを紹介します」

「お前はずっと何を企んでいる? お前が日本人に執着する理由は何だ?」

「あなたの質問に答えるつもりはありません。ただ、この地球から出る術を常に考え、実行しているだけです」

「それは私たちも同じだ。だが、お前の目は何かが違う。どこか悍ましい裏の顔が見え隠れしている。違うか? 私たちは、お前たちに捕らわれても、協力するつもりはない」

「私のことをどう言おうと構いません。ですが、あなた方は、我々の要請を拒むことはできません。なぜなら、我々にはナグサがいますから」

「もちろん、彼のことは知っている。最初に宇宙船を開発した日本人だろ。それが何だ? さっきから彼がここに残っていることを強調しているが、また女を使って宇宙船を飛ばそうと考えてるんじゃないのか? もうこの世界に女はいない。我々と同じように、宇宙船の開発を新たに……」

「待て! なぜ、その事を知っている? そのナグサが考えたエネルギーの仕組みを……もしかして、……まさか!」

ナスカは、ナルの着ていた服を剥ぎ取った。

「なるほど、そういうことでしたか……」

そこには、胸に晒しを巻いたナルの姿があった。

ナルは、女装をした男性ではなく、本物の女性だった。彼女は、この事を隠し、リノたちと行動を共にしていたのだ。

「本当に女性だったとはね。これまでの言動や行動、そして何より、ナグサがつくりあげたエネルギーの仕組み。それから、我々に反発している理由。全てが繋がりましたよ。あなたは、30年前、この地球を最初に旅立った女性。つまり、操縦士。あなたは、どうやって、この地球に戻って来たのですか? ここで全て答えてもらいますよ」

ナルは、女性であり、地球から飛び立った経験のある人物。

その事実を隠しながら、彼女は、新たに宇宙船の開発を行っていた。

ナグサが開発したエネルギーを使って地球を離れ、再び戻ってきた、唯一の女性。

それが、ナルだった。

なぜ、再びこの地球に戻ってきたのか。そして、地球から出ていった人々は今、何をしているのか。

ナスカがナルに問い詰めていると、ナグサが部屋に入ってきた。

「やはり、そうでしたか。この地球に、まだ女性はいたのですね。あなたに、色々とお聞きしたいことがございます。我々にご協力願いたい」

ナグサは、ナルに向かって、深々と頭を下げた。

しかし、ナルは、意外な言葉を口にした。

「私がこの地球に戻ってきた理由は、お前たちが想像しているような綺麗なものではない。勘違いするな! 私は、お前たちを助けに来たわけではない」
 



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早坂 渚
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