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ミステリー小説『犯人はヤス、』

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私が今までに出会ってきた方たちをモデルに、実際の透視能力を盛り込んだ、一風変わったミステリー小説です。 警察の日常・宗教・事件・神社などが混ざり合い、沢山の伏線の中、主人公の悟や…
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#連載小説

犯人はヤス、-終焉-|第1話|無気力

犯人はヤス、-終焉-|第1話|無気力

今流行りのウェイトレス付きのジャズバー。

悟は一人、フォーマルな格好で、食事を楽しんでいた。

「すみません、赤ワイン貰えますか?」

テーブルは6卓、オープンテラスがあり、天井まであるガラス張りの窓のおかげか、中は、広く感じる。

全ての席は埋まっており、皆、にこやかな表情で、ゆっくりフランス料理を楽しんでいた。

「お待たせしました」

赤ワインの入ったグラスを差し出すウェイトレス。

その

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犯人はヤス、-終焉-|第2話|天国

犯人はヤス、-終焉-|第2話|天国

カーテンを閉めて走るバス。

「このバスは、西へ向かっております。これから、照明の照度を落とさせていただきます。目的地まで、ごゆっくりお過ごしくださいませ」

夜行バスというだけあって、スタートから何かイベントがあるわけでもなさそうだ。

小腹が空いた悟は、かばんから、コンビニで買った赤飯のおにぎりを出した。しかし、飲み物がない。

すると、女性ガイドが、ペットボトルのお茶と、なぜか紙コップを渡し

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犯人はヤス、-終焉-|第3話|再会

犯人はヤス、-終焉-|第3話|再会

左脚の傷口を手当てする。

神社で噛まれた蛇は、毒蛇だったようだ。

ハンカチで、蛇に噛まれたふくらはぎを強く巻いて止血し、そのまま橋の下を流れる川の中へ入り、必死に毒を洗い流した。

悟は、びしょ濡れのまま、来た道を戻る。

駅前の道を抜け、再び占い師のいた路地を歩いていると、なんとそこに別の占い師がいた。

「あの、少し話を聞かせてほしいんですが……」

悟が話しかけた瞬間、よほど警察官に警戒

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犯人はヤス、-終焉-|第4話|空白

犯人はヤス、-終焉-|第4話|空白

「過去の記憶?」

「俺たちは、常に監視されている。しかも、記憶を取り戻そうとすると、ある方法で思考を止められてしまう」

「もしかして……」

「気付いたか? 音楽だよ。監視役の女は、悟に記憶が戻らないように、定期的に演奏会を開いていたんだ」

「そういえば、昨日のバスツアーでも音楽を流されていたような……」

「バスツアー?」

「はい。先ほど追いかけた占い師と同じ場所にいた、男性の占い師から

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犯人はヤス、-終焉-|第5話|狼煙

犯人はヤス、-終焉-|第5話|狼煙

「只今より、警視庁緊急対策本部会議を行う」

警視庁本部で、緊急会議が行われた。

「先日起きた電車脱線事故の報告です。自動運転での運行中に、時速60㎞で走行していた電車が脱線し、すれ違う電車にぶつかり、横転。600人以上を巻き込む大事故となりました。裏で何者かが、電車の電気信号を動かし操作した形跡があると、報告を受けています」

「それだけではありません。詳しくは、彼から」

「はい。私は、ある

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犯人はヤス、-終焉-|第6話|逃走

犯人はヤス、-終焉-|第6話|逃走

「たった今、田中正を確保しました。ただ、橋本総は確保できていません。直ちに、水族館周辺を包囲してください」

全身濡れたままの状態で顔を押し付けられ、手錠をかけられた田中警部。

「スマホに発信したのはお前か? 警部という立場でありながら、橋本総を地下室から連れ去った理由は何だ? 答えろ!」

「全て橋本の指示だ。あいつの命令でやったまで。理由など、答えても意味ないだろ」

「橋本に指示されたと供

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犯人はヤス、-終焉-|第7話|樹海

犯人はヤス、-終焉-|第7話|樹海

暗闇の森の中をひたすら走る二人。

少しずつ、肉体だけでなく精神も削られていく。

夜が明けるまで、二人は無言で走り続けた。

実は、樹海に入ってから、二人は一度だけ会話をしていた。

「銃は返します。撃ちたければ撃ちなさい。ただし、これだけは守って。とにかく真っ直ぐ走り抜けること。迷ったら戻れません。そして会話。ここからの会話は厳禁です。特に川の近くでは」

橋本は、忠告をしながら、悟に銃を返し

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犯人はヤス、-終焉-|第8話|喪失

犯人はヤス、-終焉-|第8話|喪失

サヤは、安を誘導しながら秘密を探り、悟にも同じ道を誘導していた。

春留神社の床下にメダルを置き、名港水族館の裏口に侵入。そこから、安に指示を出すために、電車に忍ばせていたスマホに電話。

しかし、安がスマホを手にする前に、電車は脱線。安を、安全に逃がすために、電光掲示板を操作したのだ。

そして、地下水路から悟が来るのを予知していたサヤは、はしごにメダルを置き、パトカーをあらかじめ準備。ナビを操

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犯人はヤス、-終焉-|第9話|集結

犯人はヤス、-終焉-|第9話|集結

「蓮さん、生きてたんですね!」

「お前らこそ! ママ、迷惑かけてすまない」

「ホントよ! あとで、きっちり請求するから」

助手席には、地味な服装をした女性が座っている。その女性が振り返り、鋭い目線で悟を睨みつける。

「三輪警部補! よかった。無事だったんですね」

「当たり前だ。私としたことが……5年も記憶を失っていたとは……情けない」

ショックを隠しきれない三輪警部補。

「三輪警部補

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犯人はヤス、-終焉-|第10話|真相

犯人はヤス、-終焉-|第10話|真相

「私はお邪魔ね。飲み物でも準備してくるから、みんなで話して」

ママが遠慮して席を外し、キッチンへ向かう。

チームのメンバーとサヤによる秘密の会議が始まった。

「サヤ、君は何を今まで見てきたのか、どこにいたのか、出来るだけ詳しく話してほしい。これから、みんなの意見も踏まえて、今後どうしていくべきか話し合いたい。まずは、5年前のあの日、何があったんだ?」

5年前の事件について、サヤが話し始めた

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犯人はヤス、-終焉-|第11話|絡繰

犯人はヤス、-終焉-|第11話|絡繰

「みんな、協力してくれ! 赤と橋本は、思考テロの解析を頼む。さおりさんは、三家の秘密を探ってくれ」

「分かりました。管理人を使い、保管庫にある書物を調査します」

「蓮は、安が持っていった古谷家の巻物の在処をつかんでほしい」

タバコに火をつける蓮。

「最後に悟、お前は安を捕まえろ。それから、俺たちと合流だ。いいな」

「……」

「返事!」

「は、はい! 分かりました」

的確な采配を瞬時

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犯人はヤス、-終焉-|第12話|紅涙

犯人はヤス、-終焉-|第12話|紅涙

スクリーンに、三輪家に伝わる古文書が映し出された。

綴り字で書かれている。

ただ、虫に食われているのか、所々穴が空いており、その部分は何が書いてあるか分からない。

[二十三ノ神柱が現れ表裏が変革する日……]

[……三つの透視が重なり合い一つの神へと新たに宿される]

所々空白があるいくつかの古文書。

この古文書が、三輪家に伝わる予言書の大元となる書物であった。
 

「文屋長官が来られま

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犯人はヤス、-終焉-|第13話|攻防

犯人はヤス、-終焉-|第13話|攻防

(安を助けるためには、サヤを信じて飛び移るしかない)

二人の警察官に拳銃を突きつけたまま、悟は意を決して、隣のアパートへ飛び移った。

着地してすぐ、警察官に近寄る。

すると、煙幕が投下され、悟は煙に包まれた。

視界を奪われた悟は、しゃがみ込みながら、煙の外に逃げる。

足音が聞こえる方向へ走る悟。

一人は、すでに屋上から降りていた。

もう一人は、ちょうど降りようとしているところだった。

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犯人はヤス、-終焉-|第14話|囮り

犯人はヤス、-終焉-|第14話|囮り

銃声が鳴った。

悟が振り返ると、フードの男がうつ伏せの状態で倒れていた。

「安!!!!」

フードの中から、安の顔が見えた。

警察官たちへ発砲しながら、安のもとへ向かう。

すると、一台のパトカーが歩道橋から現れた。

銃を構える悟。

「悟! 俺だ! 乗れ!」

運転席から顔を出しているのは、連だった。

理解が追い付かず、銃を向けたまま動かない悟。その目からは、薄っすら涙が流れていた。

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