
ちょっとおいしい|コンビニのバタピー
仕事を終えて駅から歩いて帰る途中にコンビニがいくつもある。駅を出てすぐのところにあるのがファミマだ。その前を通り過ぎる時、岡崎体育の「エクレア」が脳内で流れ出す。しばらく歩くと、またファミマがある。誘惑に負けて店内に入ってみるが、エクレアは売ってない。しかたがないのでシュークリームを買って、歩きながら食べる。夜道の歩き食いは、こういうちょっとダメなものだからこそおいしい。野菜の産地とか農薬とか添加物とか、いろいろ気にして夕食のしたくをしてくれている妻には言えない。
こういうものには中毒性があるらしい。仕事帰りの同じ時間帯になると、駅を出る前からコンビニで何を買うか考えはじめてしまう。どら焼き、ドーナツ、ファミチキ、肉まん、甘い系からしょっぱい系まで何でもありだ。家に帰って夕食も普通に食べるわけだから、こんなことを毎日続けていると体の形も変わってくる。「甘いもの最近食べてないのになんで太ってきたんだろうね〜」と妻が言う。ぼくは聞こえないふりをして手にした文庫本のページを静かにめくる。
帰り道で食べるものの選択肢に行き詰まってきた頃、酒のつまみコーナーのバタピーに目がとまった。これまではだいたい片手で持つことのできるものをパクパクしながら歩き食いをしていたわけだが、バタピーとなると両手がふさがれるし、そもそも歩きながら食べることは想定されてないはずだ。いや、でも、思いついたことはやってみた方がいいと誰かが言っていた。夜道を歩きながらのバタピーなんて多分誰もやってないはず。面白そうだからやってみる。
家に帰り着くまでにひと袋全部たいらげてしまいたいので、短時間でけっこうな勢いで口に頬張る。バタピーを何粒もたくさん口に入れてモグモグするのは、大人としてはちょっと恥ずかしいけど、めちゃくちゃおいしかった。こうして歩き食いのスタメンにバタピーが加わった。やったことがない人がいたら、ぜひやってみてほしい。もし可能なら夜の帰り道で。今日一日のモヤモヤを少しの間忘れさせてくれるから。
実は、帰り道の歩き食いは今はもうやっていない。少し前に体調をくずして、食べるものに気をつけるようになったからだ。ただ、バタピーをやめたわけではない。家でちゃんと食べている。それも一気に全部食べてしまうことなんてしないで、おばあちゃんみたいに少しずつ食べている。夕食後とか週末のちょっとしたすきま時間なんかに、手のひらに何粒かのせてぽいっと口にいれる。つまみ食いスタイルで、キッチンや部屋を歩きながら食べる。ときどき、少し多めに口に入れてみたりして、妻に背中を向けてモグモグやる。こういうのがちょっとおいしくてうれしい。