見出し画像

③息子のこと

いつの頃からか、息子は誕生日を喜ばなくなった。正確に言うと、恥ずかしくなってきたのだ。

思い起こせば7歳の誕生日。親戚がいっぱい集まった。母が大好きなショートケーキを焼いてくれ、苺でほんのり色づいた薄いピンク色の生クリームで「しんちゃんおめでとう7さい」と書いてあった。それを見た瞬間息子の顔が緊張でかすかにこわばった。

「ハッピバースディトゥユ~」を最後まで皆が歌うのが待ちきれなかった。複雑な顔で自分のことが歌われるのをじっと我慢していた。その表情は、緊張の中に、嬉しさと恥ずかしさと、早く終わって欲しいという苛立ちと、なんで誰も助けてくれないのかという怒りとが混ざっていた。今にも泣きだしそうだった。

息子のこんな複雑な表情は初めて見た。歌が終わって急き立てられるようにろうそくを吹き消し、皆の注目が他へ行くと、そっと息をついた。壁にもたれて壁に同化してしまいそうだった。

今ではそんな感情なんて何一つ覚えていない。上手に自分の気持ちを隠せるようになったのだね。自分にも隠してしまっているから、きっと自分の気持ちにも気づかない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?