仕事は2度目の依頼があって初めて成立します【テニス】
ジェットコースター乗れないんだよね。いや、正確には「カエル触るかジェットコースター乗る」だったら、べそかきながら乗るんだけど。手すり握ってがっつり目瞑って耐えるだけで、まさか楽しむ余裕なんてない。だったら同じ人種と並んでベンチでポテト食べて待ってる。乗ってる連中はどうせ「もう一回」とか言ってまた並び直すんだろうから、あるいは観覧車にでも乗って同じような高さから外の景色を眺められればいい。
目が合った。コートに入る前、時間に間に合わず「急げ急げ」と足早に向かった時のこと。上半身の向きを変えて、何あの人超見てくるんだけど。「あ、女の子」だったらきっと私を初級に分類する。チラ見で済む案件。男はたぶん何かを照合してた。
ラリーを終えてベンチに座った時、中上級という単語が聞こえた。あ、と思った。年末の特別講座にいた人だ。ほんでその前の週このクラスに来たことのある人だ。ほんでななコの中上級にいた人だ。もっと言えば見学の時いた人だ。それなら私が同じコートの人間だとわかる。照合に時間がかかったのは髪型の変化によるものか。しまったそれなら結構関わったことあるぞ。ぱっちりお目目で今更「中上級なんですか?」とか「あなたのこと覚えてませんけど」と同じじゃねえか。どえらい失礼かましてたどうしようごめんなさい。
ベース少人数ではあるものの、こうしてたまにゲームできるくらい人がやってくることがある。人数が少ないというのは非常に風通しがよく、一人当たりの影響力が大きくなるため、その日いる人によって内実が大きく変わるから面白い。ついでに軽く私にとってのプレイヤー特性について話してみようと思う。
大別して2種類。
縦系のトップスピナーと横系のフラッター。私がいろんなクラスを見てきた中で、基本トップスピナーは中級以上のクラスに生息する。というかおそらく初級じゃラリーにならない。そうして純製フラッターな私にとっての彼彼女らは大方こんな人達。
・トップスピナー:異質、補完関係。刺激をくれる人。時間経過で疲れる。
・フラッター:同質、共感、同調。自信をくれる人。時間経過で飽きる。
ストレス発散、破壊衝動を叶えてくれるのがトップスピナー。おしゃべりしようと、やりとり自体を楽しませてくれるのがフラッター。
だから「同じ方向を向く人」と「向き合う人」というカテゴライズもあって、私自身トップスピナーとシングルスやっても絶対おもんないし、フラッターと組んでダブルスやってもやっぱり大しておもんないと思う。仮に私がゴリゴリのトップスピナーだったら全てが逆になっただろう。全くイメージ湧かんけど。
さて、じゃあ今いるコートはというと、コーチ含む最低ロットでトップスピナー2+私(相方はコーチ曰くフラッター。でも縦に変化するので私にとってはトップスピナー。このようにこの文章自体、事実と真実が混同しているのでご注意願いたい)ここに振替の人がやってくる。フラット、フラットだとやりやすい。互いにストレス少なめ。私自身、トップスピン相手にはどうしても猫噛み状態になりやすく、それだとまあ引き止めるだけの力はない。ただハナっからコーチ目当てなら確かに少人数の方がコスパはいいのだろう。ただ。
何なんだろう。
ふつ、ふつ、ふつと湧くものがある。
沸騰する直前、気泡になる直前の、あの水面が揺れる感じ。
怒れるのは何より自分に対して。頭で分かっていてできないのは、たぶん本能で怖さに負けているから。命を脅かされた経験のあるものに対して、無意識に強張っている。
受け入れる。力に依らない。利用する。分かっていてできないのは、幼いままの自分。
実はこの際男女差は関係ない。というのも、過去に見ているからだ。2021年8月2日。まだ初級の、丁度ビッグサーバーが抜けた頃。振替で今いる時間帯の初級に顔を出した。その時隣の中級で打っていたのが「女子トーナメント、中上級クラス」と呼ばれる女性だった。その人は私が嫌がる打球を難なく返していた。いや、むしろ
「おーい、おされてんぞー」
そう。ゴリリン系男子の方がおされていた。頭上を通すスイング。スイングスピードが上がる程に必死感が滲む。女性はというと打点に合わせて振り抜きを変えたり、ネットの上を通す高さを変えたりして、淡々と正しいストロークを続けている。そのどこからも攻撃性を感じないところに、えも言われぬ凄みを感じた。
この「攻撃性を感じない」、感情を表に出さないけれど高い温度というのが「ふつふつ」という感覚に近いのではないかと思う。外からは見えないけれど確実にあるもの。感情全てを殺すのが正しい訳ではないともう知ってる。やっぱり大事なのはバランス。出す時と秘める時。
何より悔しい、と思うのは自分がこだわるやりとりで負けるから。器用に、ではなく、打ち切って。伊藤あおい選手ではなく瀬間詠里花選手のやりとり。曲がりなりにも私の輪郭自体がそっちに近づきつつある。無論「緩」の方が難易度は高い。結局私は初級なのだろう。「急」の方がどうしても楽しくて、ただ、試合を楽しめるようになってきたのは本当に最近のこと。
このことに関してはサーブに負い目がなくなったのが大きい。最初はものすごく度胸が入ったし、今でも2NDの緊張感は変わらない。けれどやっと攻撃されない2NDに踏み切れた気がする。よぎったのはビッグサーバー。あの人は初級にいながら、いつだってこれだけの覚悟で戦っていた。
結局は似た者が集まる。出向くのは何かしらの魅力を感じるから。そこに都合をおしてまで行こうとする労力が発生するとしたら、その人にとってのテニスは、そこに発生するやりとりは、それだけの価値を生んでいる。
根本私は足りない。けれど私にしかない魅力もある。
相手が進んで対面に入るのを見た時、少しだけ自分を好きになれる気がして。
そうしていずれ誰かにとっての「刺激をくれる人」や「自信をくれる人」になれるといい。