![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/94632364/rectangle_large_type_2_a96261715297b57708ff0344ca4cd319.png?width=1200)
沼(アドサイド2カメ)【feat.戸塚】
この視線は知っていた。
人の目は結構横まで見える。相手が自分を見ているというのは、結構広い範囲で認識できる。
以前「サーブもらいます」と言った男のことを覚えているだろうか。そう。中上級の見学に行ったのを書いた時に出した。よく似た後輩の名をとって戸塚とする。年はそう離れていない。浅黒い肌。背格好はどことなくひここと似ている。
基本に忠実な、この男もまたキレイなテニスをした。あくまで「教科書通りの」という所がポイントで、何をするにしても教わった通り。だからフォーマット通り動けない人に厳しく、本人規定演技は得意だが、フリー、アドリブにめっぽう弱いタイプだった。さて。
この男、近頃私の戦法を模倣してくる。
アイフォーメーション気味のサーブからの展開とか、ストレートアタックのタイミングとか。こちとら自分がやられたら嫌だと思うことをしている訳だから、これが結構イラっとくる。戦い方としては、だからどちらかというと女ダブに近い。圧倒的テンプレがあるため、感情面が安定すればその規定演技の質は高く、悔しいがきちんと対策を練るより他ない。いくら「苦手を悟られないように」と言った所で、毎回打ち合うような相手にそんなごまかしは効かない。残念ながら「それ」は必修となる。
コーチとシングルスをしている時、隣のコートから視線を感じた。最近執拗に狙われるバックハンド。男の、ブレ幅の少ない、質の高いサーブがストレスだった。絶対にバックハンドでしか取れないコースに正確に打ち込んでくる。試合での緊張感の中、その精度に対応せざるを得なくなる。
追い込まれる。だからやむなく磨いた。強制的に本番で使えるバックハンドを身につけさせられる。それが、思いがけずここで花開く。
男は今目にしているシングルスの戦い方を取り込むかもしれない。
けれど知っている。戸塚はショートクロスが打てない。私のやり方を模倣するなら、今度はあなたが変わる番だ。
思わずこぼれる笑み。
やれるものならやってみろ。私はまた、その先を行く。