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【終】わり、好きになっちった『うちのこ』



 お腹の辺りで丸まっていた猫は、おもむろに伸びをすると、人の身体を堂々踏み越えて私の鼻先で香箱座りをし直した。その体の側面に私の鼻がすっぽり埋まる。このこは一刻も早く私を猫アレルギーにしたいらしい。
 やめい、と顔を引くと、こっちを一瞥しただけで再び前を向いた。相変わらず鼻を鳴らし続けている。
 その細めた目。なぜかもののけ姫のモロを思い出した。


 日頃基本的にお腹の辺りにいるのだが、起きたと分かると猫は「にゃっにゃっ」と機嫌よく鎖骨のあたりまでやってくる。そんで思いっきり人の頬に肉球を押し付けて伸びをする(だからやめい)けれどたまに目を開ける前から首元にいることもあって、何の違いかと思えば、どうやら私の眠りの深さが関係している模様。OPPOがきちんと記録している。
 たぶん本ニャンからしたら寝返りの頻度が目安だと思うのだが、一方で首元にいる時、このこは必ず外を見ていた。いつだってキリッとした顔で。私の画角からするとその鼻の穴しか見えないのだけれど。そうしてそれは、ただの幼子なら、一方的に守られるだけなら見ない光景にも思えた。いつだってお腹の辺りで丸まって、いつまで経っても甘えたで。
 ピンポンダッシュかくれんぼで右に出る者のいない、超絶ビビリなこのこは、けれどもそうして小さいなりに主の無防備を警戒しているかのようだった。事実来客がインターホンを鳴らした時、私の首元を思いっきり蹴って逃げたものだから、一瞬で目が覚めた。一瞬死んだかと思った。



〈愛する対象が欲しかった。心の底から愛してるって言ってみたくて〉



 来客は宅配。我が家の平穏を確認すると同時にやってくる猫。「何それえ」と背中側から覗き込む。中身を取り出すと、横によけるダンボール。すかさずピンと尻尾を立てたまま、そのにおいをかぐ猫。もう何度も見ているだろうに、何度届いても新鮮な温度でダンボールをかぎ続ける。しばらくはそれで遊んでくれそうだ。

「よかったねおかゆ」
 ねえ。






 愛してるよ。






 ダメだ。いつだって胸で支えて言葉にならない。
 いつの日かこのこがいなくなる前に一度は言いたいと思うのだけれど、難しいんだろうな。
 でもこの思いは絶対嘘じゃない。


 愛させてくれてありがとう。

 ねえ、おかゆ。





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