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戸惑っている、わたし、なぜ

星が見えなかった。見えそうで見えなかった。薄い雲が夜の空を黒からネイビーに塗り直していた。なーんだと思って前を向いたら真っ暗で、もうそれは歩いているのか飛んでいるのか這っているのか、自分でもわからないくらいの真っ暗で怖くなったので、まとわりつく黒を振り払うみたいに走ったの。

星が見たかった。今日はどうしても見たかった。何かしらの偉大な美しさでわたしの臭みを誤魔化して欲しかった。

わたしが誰かと居られないとずっと思ってきたのは、自分がいかに相手から必要とされているのかを確認していないと立っていられないからで、わたしが誰にも弱みを見せられなかったのは、自分の弱さを相手に晒すことで、生まれてこのかた絶え間なく張り詰めていた輪郭が壊れていくのを見ていられなかったから。
自分の弱さ、汚さ、惨めさを抱えて、顔を歪ませながら逞しく前進する人間が、自分の傷を見せることを厭わない山犬のような人間が、要するにわたしが笑ってきたような人間が、じつはとても羨ましかったのだー

今昨日あったことを書こうと思ったけど、全部消した。わたしにはまだ書かなくていいことがある。

人に頼ることができる人になりたい。わたしは強くない。強いと思われることにも、弱いと勘付かれることにも同じだけの嫌悪感がある。わたしがわたしとして生きていてもそれを見ていたり見ていなかったりする人たちと一緒に時間を無駄遣いしたい。わたし自身の歪みをわたしが視界に入れて、できればそれを愛でながら暮らしたい。大切な人は傷つけたくない。ましてその人が傷つくことで自分の傷を癒すような真似はしたくない。その人の傷の深さに、自分が与えた影響について確認するようなそんな下卑た真似だけは。うるさい。誰のいうことも、誰の信じる理想的な人間にも一寸も合致したくない。いや、完璧に合致したい。「ずっと」が怖い。そんなものは全然信じられない。信じた先の見たこともない絶望が怖い、とてもとても怖い。魔法が解けるのが怖い。自分のも、あなたのも。振り解かれない手を自分から離すことのないようにする。それは洗顔のように、当たり前にそうする。割り切れない。これでいい、わたしにはこれだけでいいと思うものが見つかった瞬間のあのざわめきと静けさをすぐに忘れられる無神経さが怖い。訳のわからないことを言っているんじゃないよ。お前が好きだよ、なぜか。理由を見つける作業はしてはいけない。

気がつけば走って季節はいなくなって、あの時の感情も言葉もなかったことにして、感傷に浸れるくらいの微妙なうごめきを瓶に入れて海に流す。こんな時でもわたしは、あの瓶は誰かの元に届くんじゃないかしら、と思ってしまう。うごめき、まだ死んでないかな

わたしはわたしとして愛されるだろうか。わたしはわたしとして勇気と自愛を持って人と生きていけるだろうか。自信がなくても、お腹を見せて、言ってほしい言葉を言って欲しそうな顔をできるだろうか。だからもう、ちゃんと人間になれるだろうか。

あんたのnote読んでたのに。消さないでよ。

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