榛名山のはるなさん 6話
第6話 NSX vs ギャラン 終焉
ヘアピンが終わり、この後は4連ヘアピンの中低速セクション。高回転ユニットのV-TECは高回転まで回すことで出力を得る。
しかし、はるなのギャランは違う。2リッター4B11エンジンの最高速を犠牲にし、中低速回転域で進化を発揮する様に考えられたチューニングである。ここは希望の場所。ほんの少しだけギャランに分があると思える唯一の場所。
しかし、吸排気系のライトチューンでアップしてるといっても元々の重量、重心の差など比べたらきりがない。
ギャラリーはこのまま涼音がぶっち切ると思っていた。
最初の異変にまずギャラリーが気付いた。
涼音が最初のヘアピンカーブをクリアする。
ギャランとNSXの情報はメールで筒抜けだ。
「うわああああっっ!!!涼音さんの攻め方ハンパじゃねえよ!!今や希少なNSXをあそこまでぶん回すなんてよ、、、しかもラインがハンパねえ!!ガードレールかなりギリギリだったぞ!!ブランクあるようには見えねえよ!
、、、おっ!ギャランが来たぞ!!連絡で聞いてたより近づいてる気、、、、、」
ズギャアアアアッッッ!!!
耳をつんざくようなタイヤのスキール音。
そしてそのままコースイン側にフロントが入る。イン側のガードレールは伸びた木なのでやや隠れた状態である。
そんな状態にも関わらずはるなは臆さず突っ込む。
バリバリと木がへし折れる音。下手をするとフロントバンパーがガードレールにも当たっているかもしれない。絶対に誰も通らないライン。というか通りたくない。そこまで自分の車を犠牲には出来ない。そして1番の理由は
走れるか走れないか分からないのに命が吹っ飛ぶようなラインに誰も乗せたくない。
しかし、はるなは違った。
最初からそこを通そうとしていたかのようにフロントタイヤを溝に落とす。
有り得ないラインとスピードでイン側にべったり張り付いたまま、とてつもないスピードでコーナーに侵入。タイヤを外すタイミングも完璧。信じられないスピードで立ち上がり、闇に轟音と共に消えていく。ギャランのヌケの良いマフラー音の残響が響きわたる。
一瞬の時間。たったそれだけで見ていたギャラリーが言葉を失うには充分だった。
涼音とは明らかに違う。カッコイイだとか感動だとかそんな事を一切感じさせない異質さ。
瞬き、きらめき、刹那
瞬間を表現する言葉は沢山ある。
はるなの走りは、まさに瞬間で輝く。いや、瞬間でしか輝けない。その走りは若さゆえの危うさだの怖いもの知らずとかそういうレベルではない。命を投げ出している走りではない。
命をかけている。覚悟を持って。
人生が水ならば、今のはるなを支えるのは脆く壊れやすい硝子細工だ。
壊れやすいからこそ美しく優雅であるが、何かの拍子で割れてしまえばあっという間に全てがこぼれ落ち、もう二度と元には戻れない。
そんな儚さと引き換えにスピードを手に入れている。
数秒後の自分の人生が無くなるかもしれない。
でも覚悟する。
やらないで後悔するより、どうせ後悔するのなら自分が出来る全てをここに注ぐ。
そしてその場を見ていたギャラリー全員が口には出さなかったが理解した。
ギャランのスピードはNSXを凌駕している。
3つ目のヘアピンで異変は起こる。
「4連ヘアピンクリア残すは2連のみ!これは、、、かなりのぶっちぎりで勝ちかなー??」
涼音がやや気楽な声を出す。
しかし臨戦態勢に緩みはない。むしろゴールに近づくほど涼音の走りは研ぎ澄まされていく。
しかし気になってしまった。バックミラーが。
勝利を確信していたはずなのに不安を感じてしまった。
その瞬間、後ろを照らされたような感覚がありバックミラーを見る。
「うっそ、、、、」
バックミラーにはありえない速度で追従するギャラン。
「あんた、、、どんなスピードでクリアして、、、きてんのよ!!!」
ヘアピンに差し掛かる。
突っ込みでははるなの方が上だった。ブレーキングでNSXのリアバンパーにぶつかるぐらいまで肉薄する。
集中していたはるなが突然口を開く。まるで涼音に語りかけるように。
「やっとタイヤがいい感じに路面に食いついてきたよ。あのさあ、、、NSXとギャランのラインが同じなはずないでしょ?、、ラインはその車によって違うって事、、、教えてあげるよ!」
まるで何度も練習し息を合わせたかのように接近しながらのパラレルドリフト。
ギャラリーは否応なしに胸の前でこぶしを握りしめる。声を出すものは1人もいない。
NSXはイン側ギリギリいっぱいまでフロントを寄せる。
それに対してはるなは臆する事なくイン側の溝にタイヤを落とす。枝がボディに当たり激しく音を鳴らす伸びた枝や葉のせいで溝は見えていない。
涼音は横目でそれを見て畏怖の念を抱く。
「アンタ、、、それ1歩間違えたらクラッシュ確定じゃん!!命が惜しくないの!?」
勿論、はるなにはその声は届くはずはない。
あまりにも攻めすぎている走り。周囲からは無謀、ギャランのフロントライトが割れる。それでもはるなは自分が信じたラインを外そうとしない。
ズギャアアアアアアアアア!!
立ち上がりはほぼ互角かと思われた。
しかしはるなのギャランの鼻先がでる。
しかし、涼音は余裕の笑みを浮かべる
「確かに、、コーナーははるなちゃんには負けるみたい、、でも!峠はコーナーだけで決まるわけじゃない!!って、えぇ!?」
ヘアピン終わりの緩やかなコーナー途中でギャランが2車線を大きく使ったドリフト体勢に入る。
「ちょっと!!ここは普通グリップのみよ!?ライトが割れて見えてない!?それともコース忘れちゃった訳!?」
聞こえていないにも関わらず、はるなが小さく笑う。
「あーあ、そんなビビった走りじゃダメだよ。だから何度も言ってるじゃん」
「ギャランとNSXじゃ、、、速く走るラインが違うのよ。」
はるなの華麗なハンドリングでギャランのフロントタイヤはキッカケを得るように左側を向く。次のコーナーはヘアピンともいえない曖昧な左コーナー。
はるなはコースを忘れた訳ではない。NSXに抜かれないため、また次のコーナーに侵入するためだった。
涼音が向きを変えた瞬間に気付く。
「やっば、、、」
しかしもう遅い。はるなはそのまま左コーナーを華麗にクリアする。
涼音の表情からは笑みがこぼれていた。
涼音の頭の中でよぎった思考。
この榛名山を走っていて、かってこれほどまでに肉薄したバトルはあったであろうか。
車の性能だとか、馬力がどうだとか、そんな事はどうでも良かった。只々、嬉しかった。楽しかった。
ナンバー1というのは孤独だった。
いつしか頂点を守らなきゃいけないという気持ちが強くなっていた。
そんな自分に気付いていた。
でも、気付いてないふりをしていた。
その気持ちに苛まれていたら、、、いつしか走りを純粋に楽しめなくなっていた。
でも、、、ギャランの映像を見た時だ。
不思議だった。なぜか心が揺さぶられた。まるで免許を取得し初めてキーを回し、エンジンをかけたあの時と同じような感覚だった。
気がつけば負けない走りになっていた。
リスクを恐れた無難な走りだ。確かに元々の才能や飲み込みの良さもあり、速かった。
しかし、そこに成長はない。
リスクを恐れて新しい事に挑戦しない限り何かを掴むことはできないのだ。
もう終盤、ギャランを夢中で追いかける中で涼音の走りが
変化した。
ギャランを夢中で追いかけるNSX。
バトルの中で涼音は取り戻していた。あの頃の様に、色んな事に果敢に挑戦していた自分に。
タイムが遅くたっていい。ラインが全然違ったっていい。楽しく色んな事に挑戦していきたい。今もこれからも。
その変化に気付くギャラリー。
「おい、、、お前なんで泣いてんだよ!?キモいな!」
「あれ、、、?何でだろう、、なんか分かんねえけどなんかあのギャランが走り去る姿を見てたら、、なんか走り出した頃の自分を思い出しちまった。」
こんな時間がずっとずっと続けばいい。
だがそんなはずはない。
この世界はいつも決まっている。始まりがあれば、、、終わりがある。
いつまでも、とびきりの時間の中にはいられない。
最終コーナーに入る。
イン側はギャラン、アウト側にNSX。
「ありがとう、、、はるなちゃん。」
けたたましく上がるスキール音、タイヤの焦げる匂い。
その日、はるなは涼音の出した最速ラップを超えた。
それは名実共に、はるなが榛名山で最速になった日だった。
たったの2日ではるなは榛名山全ての常識を変えた。
ギャラン vs NSX ギャランの勝利で幕を閉じる。
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