榛名山のはるなさん 11話
第11 話 BRZ vs エボ IV
ズギャアアアアアアア!!
けたたましいホイールスピンの音を立て、 BRZは高峰を猛スピードで下る。
「凄いねBRZ !レッドゾーン近くまでこんなにスムーズ に気持ち良く回るのね! 7500 回転まできっちり回してあげるよBRZ !」
スバル BRZ 。トヨタのFT86とは兄弟車である。ボクサー エンジン FA20 を搭載し、可能な限り低重心化の為に力を 注いでいる。最高出力 200馬力 トルク 20.9kg。
しかし、この車の魅力はボクサーエンジンだけではない。両メーカーの努力の結晶ともいえるエンジンマウントの低さにある。
それはボクサーエンジンというエンジ ンを搭載しているからこそできた事でもある。
低重心だと何が良いのか。簡単に言うと高い位置に重心があるとそれだけ車の挙動もフラフラしてしまうが、低い重心はくるまの安定性した操作性に繋がる。要するに 挙動がぶれにくくなり、思ったラインで高い操作性を発 揮する。
はるなは車に乗った瞬間、一気にその車の情報を集め、 自分の運転に反映させるために情報を集約する。実は、 はるなは理論的なことがほとんど分かっていない。 ボロボロだったギャランをたった 1 人で直して走れるよ うにしたとは言っても、それははやまるの力が大きい。
「ははは、はるな!はるなっ!!前、前!急カーブだから!スピード下げて!!はるなああぁぁぁぁぁっっー!!!」
シズカは絶叫マシンが大好きだ。遊園地に行ってもパレードは全く見もせず絶対マシンに乗り続ける筋金入りだ。が、ここは遊園地のようにレールの上を走っている訳ではらない。ガードレールがあると言ってもここは公道だ。公道バトルでの安全対策などされていない。ハンドルを持っているドライバーの意思で動かされている。はるなが2人の命を握っているのだ。しかも味わったことのない猛スピードでコーナーに侵入しようとしてるのに、はるなはウキウキしている。 シズカを恐怖が一気に加速しながら襲って来た瞬間、気 が付けばシズカは後ろで絶叫していた。
「サツキ見てて。レッスンしてあげる。これが、、ドリフトだよっ!」
はるなの超絶ツッコミのブレーキング。 車のリアの荷重が抜けてフロントが一気に沈み込む。
「最初の内はブレーキングドリフトする時は、、、こうやってきっかけを作るといいよ!」
はるながハンドルを切り、サツキにも分かりやすいようなスピードでクラッチを踏み 4.3.2 とシフトダウン。 ブレーキを踏んだまま足首を捻り、アクセルを踵で煽 る。急激なシフトダウンによるエンジンブレーキがかかりリアタイヤが滑空転しようとする。ハンドルを切った 事がきっかけとなり車に遠心力がかかる。
そこにプラスしてサイドブレーキできっかけを与える。直進方向にかかっていた慣性の向きが変わる。タイヤと地面の摩擦力の限界を超え、自然とリアタイヤが滑り出す。そう、これがサイドブレーキをきっかけに行うブレーキンングドリフト。
ズギャアアアアアアァァァァァッッッッ!!!
「この時カウンターは早すぎても遅すぎてもダメ。 まぁ、この辺は感覚かな。思い通りのラインに乗せられ るようになると結構楽しいよ!」
狭い道路の道幅をめいいっぱい使ってコーナーに入る
際、道の外側から内側に向かってコーナーに侵入しコー
ナーを脱出する際はまた外側へ。アウトインアウトとい
う、高いスピードでコーナーをクリアする際のモーター
スポーツでは基本的なテクニック。
はるなはとても基本に忠実にクリアしていく。
基本的と言ってもはるなのドリフトは高い領域にある。 流石にサツキの車だけあって自分の車ほど攻め込んでは いないが、イン側に寄せた時のガードレールとフロント との距離は 5 センチ程度。 立ち上がる際もアウト側は同様に 5 センチ程度。 周りから見れば強烈な攻め込みだが、はるなにとっては 流す程度の攻め込み。
BRZ は強烈なスピードで 1 コーナーをクリアしていく。
一番ビックリしているのは後ろのエボ IVの匕ロシとトオルである。二人から見れば完全なオーバースピードでコーナーに突っ込んでいくようにしか見えなかった。 しかし、立ち上がりの姿勢も完璧。
エボ IV のコーナーをクリアするスピードも決して遅くは なかったが、ドライバーのテクニックの差は歴然であった。 1 コーナー目をクリアしたときにはもう車 4 台分程の 距離があった。
「なんなんだこの女!?畜生! BRZ ってこんなに速いのか!?ヒロシ!もっと飛ばせよ!!」
助手席のニットキャップのヒロシがトオルに激を飛ば す。
「はぁ!?文句言うならてめぇが走りやがれ畜生!!こちとらチームの看板背負ってんだ!!こんなクソガキの 女に負けたら、、、マジでシャレにならねえ、、、ぜっ てぇ負けられねーぞ!!」
ヒロシは荒々しくアクセルを踏み込む。
ランサーエボリューション IV( エボ IV)。 エンジンは 4g63 DOHC16 バルブエンジン。最大出力 280 馬力 トルク 36.0kg。 馬力や4WDという構造に目がい行きちだが、それよりも アクティブヨーコントロールシステム (AYC) も目を向け たい。 AYC とはコーナーリング中、後輪の左右の駆動力をコントロールする事で高い旋回性や走行安定性を実現する電子制御デバイス。
その為、コーナーでアクセルを踏んだ際も車が安定感を
保ちつつ、ドライバーの操作によく反応してくれる。
トオルのドライブテクニックはお世辞にも上手いレベル
ではない。
しかしそんなテクニックもカバー出来てしまうのかラン
エボシリーズのふところの深さでもある。
それだけランエボはスポーツ車としてのレベルが高い領
域で完成されている車なのだ。
「どう?サツキ?今のドリフト分かったかな!?」
「うん!とにかくなんかすごい勢いでババババってやっ てるのは分かった!」
「たはは、、まぁ、何も分からなくてもどんな感じかっ てのを参考にしてよ。」
「もう!!あんたのそのイカれた反射神経神経がどこか ら来るか分かったわよ!!そりゃこんな命ギリギリの事やってれば納得だわ!」
シズカが後ろでドアに捕まりながら怯えていた。
そうであろう。普段走る車は決してこのような動きはし ない。タイヤから音が上がろうものなら冷や汗をかくは ずだ。
そして、どんなにコーナーを高速で BRZ が抜けようとも ランエボの名は伊達ではない。 はるなの技術をどんなに集約したとしてもエボ IVはストレートで一気に差を詰める。
「はるな!!追いついてきたよ!!」
シズカが叫ぶ。
はるなはいつもと同じ様に気楽な表情だ。
「大丈夫、確かに車の馬力とか性能はこっちが劣ってる
かもしれない。でもねぇ、、、峠ってそんなシンプルな
理由で勝敗決まらないからさ。」
次のヘアピンコーナーに差し掛かる。
「そしてサツキ、今後走るならここは公道だって事を忘
れちゃいけないよ。何があっても誰も助けてくれない。
世間からは認められない。いや、、ただの違法だと言う
人もいるね。それでも、これを知ってしまったからには
私達はここでしか生きられない。だからこそ、サツ
キ、、、ううん、私達は絶対に事故を起こしちゃいけな
い。」
「うん!!!」
「はるな、、、」
シズカは後部座席から見るはるなのドライブ技術より、
その言葉に聞き入っていた。
目の前で繰り広げられる出来事の連続は、同乗している
事で感じる恐怖より勝っていた。何より、シズカは目が
離せないでいた。認められない場所だけでしか生きられ
ないと言うはるなから。
Anti Talent (抗いながらきらめく才能)
シズカの頭の中にはふとそんな言葉がよぎる。いつか聞
いたこの言葉がぴったりの人に出会うなんて。さらにこ
んなに自分の身近にいたなんて。しかも自分がそこに居
合わせているだなんて、、、。
はるなはまるで星屑だ。
たった一瞬のキラメキ。しかし誰にも気付かれない。
それを目の前で見た者だけが分かるキラメキ。
狂気とも呼べる時間の中ではるなは BRZ のブレーキを踏み込み、高速シフトダウン。 まるでダンスをするかのようにヒールアンドトゥ。 華麗に足首を捻る。 そして BRZ もはるなをエスコートするかのようにリアタイヤを滑らせる。 無駄のないはるなのその華麗な動きは、車に興味がない者すら魅了するだろう。
刹那のワルツとでも呼ぶに相応しい走り。
はるなは次のヘアピンコーナーも、とてつもないスピー ドでクリアしていく。BRZがはるなに馴染んでいくように、はるな自体もBRZ に同調していく。
「何なんだよ、、、、何なんだよこの女は、、、ただの
初心者マーク貼った走り屋気取りだろ!!畜生!!」
ハンドルを握り締めトオルは乱暴にアクセルを踏み込
む。
たった2コーナーが終わっただけなのにエボIVを運転す るトオルは直感で気付いてしまった。前を走るBRZは自 分とは次元が違うことに。車としての性能はチューニン グしているエボ IVに軍配が上がることは、元から分かっ ていたが。
しかし、決定的に違うものがある。
それはドライバーだ。
ドライバーとしての技術が根本的に違う。
車をドリフトさせるなどの技術力もそうだが、根本的な
違いがある。
車から発せられる膨大な情報を収集し、集約した情報
からその車の限界値を知り本来の力を発揮させる。
はるなはそれらの IN / OUT バランスが絶妙なのだ。 不必要な情報を切り捨て早く走る為に集約した情報を技術としてアウトプットさせる。
本人は無自覚でやっているが、とてつもないスピードの
中で膨大なアセスメントをし、実行する。
コンピューターと同じくそこには膨大なエネルギー消費
がある。
コンピューターは電気の供給がある限り無限だが、はる
なは違う。小さな体で繰り出すには限界があるのだ。
だからこそはるなの走りは儚く、そして見る者を魅了す
るのだ。
「サツキ!次のレクチャー行くよ!」
はるなは目まぐるしいほどのスピードの中で走りながら
もサツキに次のレクチャーをしようとしている。
「おっけー!ばっちこい!」
「ちょ、お前は体育会系か www アウトインアウトは分 かったと思うけど、基本的には早くコーナーを抜ける事も大事。でもね、それをやるにはまず姿勢なの。早くコーナーを脱出できるように姿勢作りをまず心がけて! それをスローインファストアウトって言うの!!」
スローインファストアウト。
簡単に言うとコーナーに進入する際はしっかりとスピー
ドを落とし、脱出する際、アクセルを踏んでも車がブレ
ないような姿勢作りの事である。
これも速く走る上での基本的なドライビング技術であ
る。
当然ながら速いスピードを保ったまま走るのには大切な
技術であるが、何も速く走る時だけではない。
一般道で気を付けているだけでも車の動きの違いが分か
ると思う。
普段から心がけるだけでもコーナーで対向車線をはみ出
しそうになってヒヤッとなる確率は激減するだろう。
格闘技と同じく姿勢が大事なのだ。
例えるなら相撲と同様で、姿勢が崩れなければ巨大な重
い体を動かす事は困難だ。しかし、少しでも相手の重心
をブレさせ崩した時に勝機は見える。
「あ、これは何となく分かったかも!」
「あ、私にも分かった!何だろ、、なんか卓球にも繋が
るような気がする、、、」
「良いね2人とも!まずはこの2つをしっかりね!」
「はーい!」
「はー、、って私違うから!私卓球部だから!」
いつしか峠も中盤。 一方、後ろのエボ IV はもう BRZ のテールランプさえ見え ないくらい遥か後方にいた。
「ダメだ、、、追いつけねぇ、、、車の差じゃねぇ。根
本的に違いすぎる、、、」
トオルの心はもう折れていた。
途中、何回か焦る中でかなり無理な運転をしてしまい、
リアバンパーをヒットさせてしまっていた。
「思い出した、、、思い出した!!あいつだ!最近 SNS で噂のアイツだよ!!たった 2 日間で榛名山のナンバー 1 になった女だ!!」
助手席のヒロシが突然叫ぶ。
「は!?いや、違うだろ!あれは車がギャランだろ!?」
「バカ!ちょっと可愛い系の娘って事で誰かが撮った写
真がアップされてたんだよ!!前髪パッツンの写真が!
あいつだ!間違いねえ!!ヤツだ!」
「マジか、、、、???じゃあ奴が、、、榛名山の、、
はるなさん、、??」
「やべぇよ、、、俺達、、とんでもない奴とバトルしちまったよ、、、」
分かった瞬間、 2 人は峠を降りるまでの間に覚悟を決め なければならないことを悟った。
自分達が土下座する事になるということを、、、、。
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