創作審神者まとめ
自本丸審神者メモ
case 1 【田中朝陽】
太宰府にある老舗の温泉宿に末息子として生まれる。虐待の痕が至る所に残っており、児童相談所に相談した回数は三十、そのうち保護施設に入った回数は九。ほとんどは本人が保護施設入りを拒絶しており、担任が政府に告発し、避難するように審神者となった。
性格は善良、誠実。
全てにおいて優秀であり、霊力のかたちは龍と梅、属性は水。初の霊力試験で枯れ木(桜のはずだった)を歪め、香り高く常に枯れない梅を咲かせた事によりリスト入り。
感情値が昂ることはなく、何が起ころうと常に平均値が算出される。友人が多く、職員との関係も良好。
莫大な霊力を持っている。
朝陽の家族(五人きょうだいのうち一つ上の兄)からの証言
『異常者だ。いつもにこにこしている、あれが心から笑ったところも、泣いたところもオレは見たことがない──審神者になるまでは。
あれは産まれた時から何も出来なかった。だが悔しそうでもなかった。殴られようと、閉じ込められようと、どんな折檻もにこにこ笑って受け入れた。オレはあれが怖かった。あのにこにこした顔の裏でオレ達への恨みを募らせていて、外部と接触出来るようになる中学校で何か盛大な仕返しをするのではないかと……
結論から言うとそれはなかった。親からの厳しい教育で友人なぞろくに出来ないオレ達と違い、あれは友人が多かった。迷惑を迷惑とも思われず、あれは自覚無しに愛され、笑っているだけで周囲が優しくして蝶よ花よと可愛がられていた。
生徒に厳しい教頭は、あれを見掛ければこっそり菓子をやった。
いつも仏頂面の美術教師は、あれが挨拶すれば無言で頭を撫でた。
有名な不良だった女子生徒も、あれのわからない宿題を一から教えてやっていた。
そんなあれの体に刻まれた傷だ、周りの人間は皆心配し、あれが何も言わずとも児童相談所に連れて行かれた。
あれがいなくなれば、次はオレが折檻される。
戦々恐々としていたオレだが、保護を訴える沢山の人間にあれは優しく笑って言った。
「ありがと〜。でも俺、おうちに好きな人いるんだ〜」
──嘘だ。だが、あれは嘘をついたことが無い。皆信じたし、何度も相談所に連れて行かれたまに強制的に保護されながら、その『好きな人』と離すのは可哀想だと家に留まっていた。
──オレが、その嘘を信じたかって?
信じたさ。怖い怖いと言いながら、オレはあいつを結局知らなかったんだ。
だけどある日、折檻されていたあれに飯を持って行ってやったんだ。親が作った奴じゃ無いぜ、あれを心配した新米の料理人が作ったんだよ。
飯を渡したら、暗い蔵であれがふふ、と笑った。その時はちょうど月が綺麗で、綺麗で無機質な笑みがよく見えたんだ。
「兄上、お怪我はないですか?」ってな。オレがツボを割って、その罪を被せたんだ。あれはそれを知っていた。
考えすぎだって? ──あんた、その時のあれの笑顔を見たことがあるのかよ。
何もかも見透かすような、綺麗なだけの笑顔だ。お人形の方がよっぽど意志があるね!
あれはオレが殴られたく無いばかりにあれを引き留めたくて、あれに動かれたらどうしようもないのを知っていたんだ。
知っていて、嘘をついた。初めての嘘を。
オレが好きだから? 違うね、あれはどうでもいいんだ。『人間を殺してはいけない』なんていう初等教育のおかげで、折檻の末死にそうなオレを守ってるだけだ。あれに感情はない。学習の末人間のように動いてるだけだ。
──そんなあれも、中学校を卒業すると同時に家を出た。オレは高校で一人暮らしだったから、今は家も平和なんじゃないか?
三番目までは、親のお気に入りなんだ。
審神者をやった挙句、あれは感情を見つけたらしい。
再会一番、あいつなんて言ったと思う?
「あんた、俺に壺割ったのなすりつけただろ! 許してねーからな、ばーか! でも飯はうまかったですありがと!」だってよ!
ころころ表情の動くやつで、見合いの話だって初耳だったらしく驚いた後、あっさり「えー? 嫌です! 二十歳上のひととかちょっと無理かなっ、守備範囲外〜♪」とか断りやがった。愛される気質はずっと引き継いでいて、政府のお偉いさんに可愛がられてるからか親も強くは言えず縁談は破断になった。
……あぁ。あと、その時オレには気になってる女が居た。侍女のやつだったけど、
オレの一つ下でおもしれー奴だった。が。初帰省のそいつはあれこれ世話を焼く美琴を見て、「綺麗な人ですね! あっ、これせくはら? になりますか?」…………何度思い返しても忌々しいが、この一言であっさり仲良くなりやがった。
あれは元気で、素直で、よく笑うのでやはり周りから好かれた。
その名の通り太陽のような笑顔をしていた。奴の顔が曇ればまさに一大事、一歩家を出れば乳飲み子のように守られ愛でられる。可愛がられて悲しむような事もなかったので、奴も終始笑っていた、そう言う折に、本丸とやらから迎えがきた。
金髪の、綺麗な刀だ。その姿が見えた瞬間、やつは見たことのない──恋する男の顔で「まんばちゃん!」と駆け出してった。熱に浮かされたような、ひとりだけしか見えてませんと言いたげな瞳で。
馬鹿だよな、あいつ。とこしえを生きる付喪神に恋をしやがった。どうせ振られるだけのくせに、オレの手を振り払って駆け出してさ。
──ああ、ああ。馬鹿はオレだよちくしょうめ。
他刃に向けるためだけの笑顔を見て、実の弟に恋をしたんだから!』