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魂の場所へ

船に乗っている。

周りには陸は見えない。

船の行き先を、わたしは知らない。

ただひとつ確実なのは、わたしはこの船に乗り続けられないということ。

なぜかわからないけれど、わたしはひどく衰弱している。単なる船酔いか、病気か、わからない。

ただこのままじゃ、たぶん、取り返しのつかないことになる。そんな予感がある。

けれど近くに陸もなく、また船がいつ陸に着くかもわからない。

ただ少なくとも、わたしが行きたい方には行かないんだろう、という予感もある。

じゃあ、海に飛び込んで、泳いで陸を探そうか。

このまま船に乗っていても、衰弱死してしまうのなら、生還の可能性にかけて、海に飛び込むのもアリなんじゃないか。

でも、こわい。こわいよ。どちらを選んでも先は見えない。

いや、待てよ。

もしかしてわたしが衰弱しているのは、陸で呼吸をする生き物じゃないからなんじゃないのか。

ほんとうは、海に生きるのが、本来の姿なんじゃないのか。

思い切って飛び込んでみたら、月明かりに照らされた水中はとても美しくて。

びっくりするほど身体は動くし、息もしやすいのかもしれない。

でもわたしは、生まれた時からずっと、海の中に入ることはできても、そこで生きることはできないよ、と教えられてきた。

だからこれは、命が危なくなったときに現実逃避するための、荒唐無稽な妄想なのかもしれない。だって、変じゃないか。海で生きられる人間なんて。

だけど船の上にいても苦しいなら、陸の人間と相容れないなら、いっそ海の中で生きるのもアリじゃないか。

もしかしたら、わたしは、人間だと思い込んでいるけど、ほんとうは魚なのかもしれないし。

なんて、ね。

とにかく、このまま船に乗り続ければ確実に死ぬ。

泳ぐにしても体力はあった方がいいはずだ。

勇気を持て。そして、知恵を持て。

海に飛び込め。少なくとも、溺れないための力は、わたしには備わっているはずだ。

まだ見ぬ世界、しかし約束された魂の場所へたどり着くために、行くんだ。

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