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本とその不確かな表紙6.

本文に踏み込まないというか、1ページ目から展開する物語のジオラマ、地形のフォルムへの期待感そのものを愉しんでいる私は今日もまた、村上春樹氏のあとがきを読み返すのみだ。『まるで〈夢読み〉が図書館で〈古い夢〉を読むみたいに』というハードボイルド・ワンダーランドの一節。
〈夢読み〉とはユングやフロイトのような深層意識の探求者や巫女霊媒、エドガー・ケイシーのようなアーカシック記憶の感覚者ともとれそうだ。この世界では彼らは特異能力者だが、その世界ではありふれた職能技術者なのかもしれない。新皮質脳の爆発的膨張からくる極限の物質化社会であるこちらではなく、脳と精神とが静止している位相の世界では、日々、ウロボロスの蛇のように循環する世界の上位構造、始原たる〈古い夢〉こそが、石油や原子力のような資源なのだろうか。非常に瞑想的な作業が一般的な霊界的な世界が“図書館”とアナロジーされているようだ。私たちの世界も、この数年で宇宙的変容をとげ、脳と身体の中にパンドラの箱を植え込まれた人類と何とかそれを回避した人類に、決定的に分離されてしまった。つまり種の境界、壁が永遠に築かれてしまった、どこに行っても境界線が見える世界。パンドラの箱は新たに電磁波系と遺伝子組み換え系を際限なく生み出す。AI神からの絶えざる電磁音楽に一糸乱れぬダンスに狂奔し、内部からの遺伝子爆発にかのAKIRAの鉄雄のようにミュータント化してゆく人々と、取り残された人々。まるで永遠のベルリンの壁が現れたようだ。村上春樹氏の新作はそのような阿鼻叫喚世界からのシェルターまたノアの箱船とならざるを得ないだろう。

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