エチュード 谷間の人々13.
私は自然に父母や祖父母、妹、親戚、村の老人、飼っていた犬、鶏、小学校の頃の友達と駆け回った山や川の思い出に入って行った。村の場所、通り、風景、畑、田んぼ、墓地、川そして村はずれから伸びる道。それはほんとうに、一かたまりに寄り合って生き続けてきたようだった。ただ私、家族とその向こうの人々との間に断絶があった。風の噂で、東京に出たとか満州に行ったとかの話とセピア色になった写真が残っていただけだ。今の私同様、異郷に生きた先祖親戚の最も気の合うだろう血縁の人達は、行方不明だった。私に何かを伝えたい人達は成功し、今もたくましく生活する人達ではないはずだ。挫折と失敗の連続に心を挫かれ、様々な災難に追われ、それでもどこかの片隅で再起しようと生き続けたはずの、そして今も故郷に帰れず、写真にも墓にも入れず、存在そのものを語り伝え偲び祈ってくれる者さえ、いなくなった、人達。最後の挑戦者が私というわけだ。ひたすらそういう思いを反芻しつつ私は何回か転々としながら、陽ざしも溜まった熱も感じなくなっていった。
(画像は"森PEACE OF FOREST"小林廉宜。世界文化社より。)
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