本とその不確かな表紙4.
毎日毎日の昼夜、生活、時間が、そのまだ開かれていない本を軸に回転しているようだ。その本が何十万人もの人間からの“気”を受けて、錐のように世界に穴を穿ち、何者かからの啓示を無意識界から照射している。その本は今のところ、私の部屋にやってきてまだ眠っているが、その本の無意識通路の向こうから雑踏の立ち昇る響きや昭和や戦前の古雑誌のような光を放ち、その本が誕生する前と後で、私たちの意識と身体と血液、遺伝子の中に壁が築かれ、その向こうには私たちではない、自然ではない異物が占拠していることを、知らせ警告しているのかもしれない。その本の無意識からは世界中の読者達がのぞきこみ、互いにささやき交わし、個を超えてゆけ、新しい街にゆこうと、沈む船から勇敢に海に泳ぎだすレミングのように、喪われたものはまた生み出せばいいと、行進が開始されている。少なくとも私たちは黙示録を生き、生き続けようと、私たちは天使に導かれる自由ネズミだ。何億人もの仲間と一冊の本を無意識で共有できる幸福を私たちはまた味わえるだろう。
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