宮崎戦レビュー~いざ昇格へ!~
ついに2024年も開幕しました!
『今年こそ月・火曜日あたりに……!』という思いを持ちながら結局こんなに遅くなってしまったので、本当に相変わらずな感じですがお時間ある時にでもお付き合いいただければ幸いです(笑)
<両チームメンバー>
■松本山雅
注目の開幕スタメン。
今オフ中堅~ベテラン世代の即戦力級を多く加えた山雅はスタメン選手でも早速その色を出してくる。
4人を横一線でスタートさせたGKで開幕スタメンを掴んだのはマリノス戦でも1本目で出ていた最年少の神田。山雅では2度目、(前回はコロナ禍だったので)全員揃った状態では初めてのスタメンを見事勝ち取った。めでたい。
最終ラインは左から樋口、常田、高橋、馬渡。一時期は野々村が入ることもあったがこちらもキャンプを通して主力組で試されていた面々が並んだ。樋口は特指での出場はあったが、プロでは初スタメン。こちらもめでたい。
ボランチはキャンプで同じく不動の地位を築いていた山本康が1枠。さらにこちらも頭から好調さを見せ、最後まで安永と競っていた住田が組む。
前線4枚は右の安藤、トップ下の菊井、前線の浅川はキャンプからそのままスタメン。高井が長期離脱した左にはその後ポジションを掴んでいた滝が入る。
ベンチにはサブGKとして村山、CB野々村、左SB山本龍、サイドのユーティリティとして佐相、ボランチで安永、左右のSHの山口・村越の7人。新顔の佐相が入ったことで(一応)全ポジションカバーできる陣容となっている。
■宮崎
新監督を迎え、32人中18人が新加入(特別指定含む)となった宮崎はスタメンにも多くの新加入が入る。
GKは昨年はルーキーの青木の起用が多かったが、この試合では35歳のベテラン・植田がポジションを奪回。若き宮崎のスタメンの中では唯一の30代の選手となった(次がなんと26歳の眞鍋!)。
最終ラインは左から吉田(→山形)、辻岡(→いわきから期限付き)、眞鍋、吉永(→大宮)。大武や代が控える中、2年目の辻岡がCBの開幕スタメンを掴んだ。左右SBには推進力があり、後方からの攻撃参加を得意とする吉田・吉永が並ぶ。
ボランチは力安(→金沢)と坂井(鳥栖から期限付き)の新加入2人が並ぶ形に。坂井はまだ高卒2年目だが、世代別でキャプテンを務めたこともある有望株。こちらも昨年のレギュラーである江口がいたが、開幕スタメンを勝ち取った。
2列目は左から大渕(→長崎から期限付き)、吉澤(→いわき)、楠(→東京Vから期限付き)と昨季はJ2で戦った新加入の3人。テクニシャンの大渕、パワフルでストライカータイプの吉澤、爆発的なスピードを持つ楠と今年の宮崎を象徴するような個性の強いアタッカーが並ぶ。
最前線には去年、一昨年と対戦、山雅にとっては苦戦してきた橋本。ターゲットとなれるタイプで攻守でタフに戦えるCFが今年も山雅の前に立ちふさがる。
<試合総評>
■いきなり魅せた新山雅
・如実に表れた経験の差と風向き
事前のプレビュー記事で「ハードワークで縦に早いサッカーを仕掛けてくる宮崎」と「点を取る仕組みと柔軟性で戦う山雅」という構図を予想したが、戦前の予想通り、互いのその良さを出す展開になる。
前半は風上に立つ山雅がゲームの流れを掴む。
昨年同様、浅川・菊井を前線に並べてプレスを仕掛け、ボランチも最低でも1枚が高い位置を取ることで敵陣で圧力をかけてミスを誘発。わずか5分で作ったビックチャンスでは菊井がGKの右足を切るようなプレスをかけて、短めのボールを蹴らせることで安藤→浅川と余裕をもった状態でシュートまで繋げる。
これは相手のビックセーブに阻まれたが、前線からの連動した守備から新エース・浅川に絶好機をお膳立てできた。ここからはしばらく山雅の時間帯が続き、昨年から継続の選手たちに加えて新加入の経験ある選手たちがしっかりと地に足をつけて試合に入ることができていたように感じる。
一方、若さを前面に出して勢いを持って立ち上がりを戦いたかったであろう宮崎は不運もあってやや迷いが見えた。本来であればもっと山雅の裏を取ってひっくり返すような攻撃をやりたかったように思うが、風向きや動きの固さもあってなかなかうまくいかず。序盤は蹴るのか繋ぐのかでやや試行錯誤しながらの時間が続いてしまう。
試合後コメントでも宮崎の選手からは口々に「試合への入りをどうすべきだったかというのをもう1回、チーム全員で話すべきかなと思う(眞鍋)」や「試合の入りの部分も、しっかりみんなで共有しながらやっていかなくちゃいけない(吉澤)」という声が聞かれている。
・昨年の積み上げ+新戦力
試合が落ち着いてくると山雅が後方から組み立てて前進を図るように。
昨年はなかなかトライ出来なかったGKを交えてのビルドアップを神田からトライしつつ、山本康や住田が良いタイミングで顔を出して相手の2トップのプレスをかいくぐると、高い位置を取るSBから積極的にクロスを上げていく。序盤に出た常田のサイドチェンジから馬渡に通した形は、開幕前のレポートでもよく見たのでキャンプから再現性を持っていたのだろう。
また、序盤はフリーマン状態の菊井が右サイドによく顔を出すことで、右で数的優位を作り、馬渡・安藤・菊井の関係性で積極的にSBの裏のスペースを突いていたのもよく目立った。ゴール前には浅川、滝に加えて大外の樋口、ボランチの住田も顔を出し、何度もシュートに結びついていた。
新加入の選手は山雅側にも多かったが、全くそれを感じさせないどころか、山本康、馬渡、安藤らの相乗効果によって昨年までのサッカーの成長がさらに加速されたのではないか。
■変わっていく風向き
・"始まり"を感じさせる2得点
そして、開始15分で試合は動く。
セットプレーの流れからこぼれたボールを樋口が押し込み、今シーズンのチーム初、そして自身にとってもプロ初ゴールをゲット。樋口は特指時代も推進力や攻撃性能の高さを見せていたが、この試合では元ナンバー10らしいゴール前での強さも発揮。
37分の2点目のシーンでも、山雅の高さ不足を1つ解消させられるかのような空中戦の強さも見せつけてアシスト未遂。ライバルとなる山本龍・藤本とは違う強みを持つ樋口の存在は今シーズンの武器になるだろう。
またその2点目を誘発した浅川にとっても良いスタートを切れた開幕戦になったのではないだろうか。得点は残念ながら記録上オウンゴールになったものの、菊井との好連携を見せたシーンもあり、プレスの強度も問題なし。繋ぎで停滞したシーンでも相手の裏を取ってCKを獲得するなど存在感を見せた。小松とは異なるタイプなので序盤の仕上がりは気になっていたが、今日の出来を続ければ量産も見えてくるはず。
昨年開幕戦で得点を取り消された(?)小松のようにこの悔しさを次回以降にぶつけ、山雅の歴史に"取り消されからの得点王のジンクス"を作ってもらいたい。いや、まず取り消されたくないか。
・流れを変えた宮崎の"モデルチェンジ"
このままイケイケで終われば大満足の開幕戦で終われたが……徐々にキャンプでも挙げられていた「残された課題」が色濃く出てくるように。
この時間帯までは宮崎は前線4枚でプレスをかけ、サイド(SB)はSBのスライドで対応していたが、SH(特に左サイド)が自重してサイドの人数合わせをすることで馬渡に高い位置を取らせない。
また宮崎が山雅のボール回しに慣れるようになってからか、こっちがデフォルトなのか、時間と共に菊井が低い位置を取って中盤のボール回しに参加するように。当然後ろの選択肢は増え、菊井からの大味な展開もいくつか見られたが、山本康や住田が代わりに菊井ロールするわけではないのでその先でやや詰まり気味になってるようにも感じた。
さらに宮崎は保持でも蹴るのか繋ぐのか中途半端だったところから、ボランチを使いながら余裕を持って保持をするように。試合開始15分までは山雅が62%の保持率を占めていたが、その後の15分で47%、最後15分で41%と宮崎が持つ時間が増えていく(footballlabより)。
特に保持時に抜けどころになっていたのは両サイドのライン際に張るSH。眞鍋やGK植田から左利きの辻岡へ繋ぎ、大渕へと展開するコースが攻撃の起点として機能していた。
プレスに行ってGKを使われるというのは序盤から変わりなかったが、右の安藤の背後を使われるようになってからはそれまでのように前に出てこられず。その時間まで武器になっていた右のホットラインが攻撃より守備に力を使わされる形になった。
■シーズン中に解決必須の"課題"
・失点シーンを招いた守備の穴
もちろん選手もそれは感じていたようで馬渡からも
という反省のコメントが出ている。
ただHTを挟んでも宮崎のターンが続く。
後半始まって13分の失点シーンもまさにその宮崎の狙いが出た結果となった。先ほど書いた流れと全く同じように、SBを飛ばしてCB辻岡からSH大渕に展開した瞬間にSBの吉田がインナーラップ。手前まで受けた吉田がターンしたことで一時期に馬渡の前で1vs2を作られ、大外でフリーになった大渕にクロスを上げられてしまう。このボールはクリアしたがこれを拾った安藤がすぐに寄せられ、波状攻撃のような形で失点。山雅は3枚で対応していたが相手の縦の関係性をうまく使われてフリーでクロスをあげられてしまったのが最後は痛かった。
もちろん安藤がCKに逃げる選択肢もあった。だが、彼自身も繋ぎに行ったというよりはまずは相手に渡さないようにボールを抑えた直後に捕まってしまい、その上2人目のフォローも相手の方が早く来たので「クリアしとけば……」は若干気の毒のようにも思う。
それよりは前半から相手に使われ続けていた大外の大渕、インナーラップする吉田の関係性をどう捕まえるべきだったのか。その後ボランチがフォローするのは大渕の方だったのか(吉田についていく選択肢もあった)。
TMのマリノス戦でも大外に張るWGへの対応が曖昧だったので整理すべきように感じた。
・道が長い"試合の終盤問題"
失点してから残り30分。
完全に押せ押せになる宮崎相手に追いつかれるとまずい、ただ守り切るにはまだ早い時間だったので、難しいシチュエーションだったがここでチームで集まって方向性を意思統一。(恐らく)もう1度試合しっかり繋いで保持の時間を作る方に舵を切ったはず。保持率も後半開始時に42%だったのがその後の15分では67%まで持ち返した。
ただ保持率とは裏腹に前半のようにシュート数は伸びてこず。
60分には村越、74分に山口が投入され、彼らが独力でボールを運んで何度か陣地を回復するも宮崎の帰陣の方が早く、前半開始時のようなSBやトップ下が絡んだ厚みのある攻撃が生み出せず。
対して前半は大人しかった代わりに、山雅と比べると運動量が落ちてこなかった宮崎は74分に投入された右サイドの阿野が存在感を発揮。自ら仕掛けるだけでなく、樋口を引き付けてワンツーでの抜け出しでフリーになるなど残り15分では両チーム合わせてもベストプレイヤーと言っても過言ではない出来だった。
押し込まれて耐えの時間が続いたので、90分には阿野に合わせる形で左に山本龍を、ガス欠が目立ったボランチには安永を投入。6分超のロスタイムをなんとか乗り切った。
前半飛ばした影響もあるかと思うが、やはり後半はガス欠気味で"仕組み"よりも相手の"ハードワーク"が勝っていた感は否めない。昨季も終盤の戦い方は何度も取り上げたが、ベンチワークや戦い方も含めて、引き続き落とし穴になってしまいそうな予感も……ただこの試合ではその時間帯は0に抑えて逃げ切った。
このスタイルのままでも勝ち続けられればそれもまた1つ……と思いつつ、開幕戦で飛ばし過ぎただけなのか?今後も狙われてしまうのか?は引き続き見ていきたいところ。
なにはともあれ、開幕までにほとんどの選手が出揃い、試合でも勝ち点3を取れたことが一番。神田や樋口の抜擢、彼らの活躍も山雅にとっては嬉しいトピックスだろう。
また、収穫だけではなく、課題も早めに炙り出せたのは開幕戦ということも加味するとポジティブと取れ、今後の楽しみになってくる。まだまだ試合数は多くあるので、今日のように結果を残しながらパワーアップしていくことを期待したい。
<記録>
■ゴール
1:樋口
■アシスト
なし
■累積警告
1:神田、菊井
END