沼津戦レビュー~4局面で見る山雅の現状~
<両チームスタメン>
・松本山雅
スタメンは2名変更。
GKは村山から再びビクトルに戻す。
さらにここまで全試合出場の滝がベンチからも外れ、榎本が3節以来のスタメンに。これまでとは違う右サイドでの起用。
・アスルクラロ沼津
スタメンは2名変更。
3トップの内、ブラウンノア・佐藤の2枚を代え、CFに和田、左WGに鈴木が入る。さらにベンチには森が今年初のメンバー入り。前節から新たにスタメン・ベンチ入りした3人が全員結果を残すことになった。
<記録>
・ゴール(14)
6:小松
2:菊井、村越
1:パウリーニョ、鈴木、榎本、山本
・アシスト(8)
2:下川
1:小松、鈴木、野々村、山本、榎本、菊井
・警告(9)
2:野々村
1:パウリーニョ、菊井、小松、住田、山本、榎本(、武石C)
<戦評>
今シーズン初の敗戦。
そして、今週は幸い(?)2週間の猶予があって(note書くのも遅くなって)ここまでの道程を整理するのには絶好の機会なので沼津戦を振り返りつつ、今年の山雅が魅せているサッカーの強みと課題を4つのフェーズに分けてまとめていきたい。
◆非保持
・ブレない「前のめりな守備」
まずは非保持時は今年の方針の1つである「敵陣の高い位置に人数をかけたアグレッシブな守備」が特徴として出ている。これまでも伝統的に山雅は「前線からの激しいプレス」はアグレッシブに行ってきていたが、一人一人のハードワークが光っていた例年の守備とは違い、今年の場合はどの局面・時間帯でも敵陣の高い位置で圧縮を作るという守備スタイルを徹底。
これまでの試合でも「2CBに対しては2トップ(CF+トップ下)が追い、アンカーはボランチの1枚が出てきて捕まえる」というのがセオリーになっているが、この試合でも前の5枚、時にはボランチの相方も加えた6枚が相手を追い回すこともあった。沼津はGKも使って低い位置から繋ぐチームだったが、その時も最終ラインを押し上げ、相手のFWを無視してでもラインを上げる。それによって序盤は特にショートカウンターを発動させるようなシーンは多かった。
昨年は前からのプレスがハマらないとピッチで話し合ってタスクを再分配したり、前半戦ではシステムを変えて後ろの枚数を合わせることで対応するやり方で、相手に合わせて自分たちの形を変えることになっていたため、デメリットとして自分たちの良さまで消えてしまうこともあった。そこの守備的な負担が減ったのはメリットと言える。
・容易ではない「網の穴への対処」
ただし、この日の沼津のように「山雅は前のめりにくる」というのを逆手に取るための手段を相手が用意してくることが増えてきている。
その1つが序盤からの執拗なロングボール。
単純な高さ勝負ではそう簡単に山雅CB陣には勝てないが、あらかじめ放り込むエリアを決めておき、セカンドボールの回収までをデザインするのはハイラインを崩すには有効な手段。2列目からの時間差やダイアゴナルに飛び出してくるとCB陣はかなりナーバスにはなるだろう。沼津もIHの持井が高い位置を取ったり、CFの和田が時間差でSB裏へと飛び出してきたりとあれやこれやと手を施してきた。
さらに試合が落ち着いてくると、難解だったのが前線のプレスを惑わせていたSBが内側に入ってくる偽SBのような動き。沼津は両SBが足元の技術に優れ、ボランチの位置でプレーするのも普段の試合から行っている(両チームのSBのヒートマップを見るとタスクの違いが分かりやすく出ている)
最前線の小松のコメントでも
と選手の中でも葛藤はあった模様。
それでも前からプレスをかけに行くことやかける枚数は曲げることなく続けていたが、瞬く間にフリーの選手に自陣まで運ばれるようなシーンも多発し、HTでの修正後も前線で沼津のビルドアップをどう捕まえるかの最適解は見つけられなかった。
先ほども書いたように、今年はハマっていないからといって撤退するような手は基本選ばないはずなので、チームとしての解は「後ろがさらにラインを上げてエリアを圧縮することで相手のスペースを奪う」ということになると思われる(走力はさらにいるけど)。
"前線のプレスがハマっていない"、"ただでさえハイライン"、"相手が裏を狙っている"状態でラインを上げるのは恐らくほとんどのチームが選ばないような勇気がいる選択で、これをしたからといって失点が収まったかはまた別だが、高い位置からの奪取→得点チャンスは増えやすいはず。これが今年の山雅の「原点」になってくるのでチームコンセプトを信じてやっていくしかない。
◆ポジトラ
・脅威となる前線に人数をかけたカウンター
そして、現状、この4フェーズで山雅にとって一番強みとなっているのは"ポジトラ"と言われる「守→攻」の切り替えの部分。
昨年も奪ってからすぐ、前線に残った横山やルカオなど"個"の突破力を持った選手たちをシンプルに使い、敵陣の広大なスペースを使ってロングカウンターを完結させることができるのが強みになっていたが個での打開は重要視されていた。一方、非保持時の状態から前線に多くの人数をかけている今年の強みは、数的同数もしくは数的優位性を持って攻撃に移ることによる「厚みのあるショートカウンター」。
沼津戦でも何度か高い位置で引っかけて3、4人でのカウンターによる大チャンスが見られたが、それは従来の山雅のように長い距離を走り、ボールを奪った選手を後ろから追い越してきたのではなく、ポジトラが発生した時点で前線に人数を残しているからこそ。
ポジトラの瞬間から数的には優位性ができているので、前で奪えば奪うほど(相手が戻る時間がないため)奪った後はこの数的優位を生かしやすく、逆に山雅の守備陣形が下がれば下がるほど(前に人数をかけてる分の)後ろの数的不利が使われやすくなる。引いて守りたくないというのはこの構造からも来ている。
・ビックチャンスはそう多くない
沼津戦を始め、これまでの試合ではまだ数的同位or優位の時の判断が不完全だったり、タイミングがずれたりとこれまでの試合ではチャンスを生かせないシーンが多く、今後そのフィーリングを合わせていくことでさらに得点が増えていく可能性はある。
だが、そう悠長なことも言ってられないのもまた現実。
リスクをかけて前線に人数を割いている分、その大チャンスを生かせないとカウンターや終盤の失速でそのしっぺ返しを喰らいやすく、これまでのスタイルでチャンスを生かせないこととは違う意味合いになってくる。
保持・非保持など課題はあるが一朝一夕で何とかなるものではなく完成度では他チームに劣るので、現段階の完成度で勝っていくためにはポジトラの質を高めることが一番の近道となってくるだろう。
◆保持
・誰が出ても変わらない「攻撃の形」の片鱗
保持では、当初から続けている『2CB+2ボランチのビルドアップ』『内側に入るSHと大外の高い位置に張るSB』の形を守ってトライを続けている。
後ろは相手の前線の枚数に応じて2-2や1-3にビルドアップの形を変え、そこからSHが真受けすれば大外のSBが飛び出し、SBが大外で貰えばSHやトップ下がその裏に飛び出すという流れも部分的だが見えてきてはいる。
選手起用でもその評価基準は明確で、昨シーズンは内側に入ってゲームメイクが目立っていた下川が今年は大外に留まってのプレーが多くなっていたり、本職ではない榎本がSH、稲福がSBで、本職を差し置いて出場時間を得ていたりなど「ポジション」ではなく「役割(タスク)」で選手を当てはめる霜田監督らしさの1つだろう。
昨年は"状況に応じての個々の判断(個人戦術)"や"近い位置でのトライアングルなどグループ戦術"が主体だった中で、今年はそこからさらに枠組みが広がり、後方から選手の立ち位置を生かしてサイドを攻略してクロスまでいくシーンや同サイドに密集を作っておいてのサイドチェンジなど、原理原則に沿った集団戦術も多く見られるようになってきた。
長年保持は課題になっていた山雅だが、いよいよ本格的にそこに着手・改善し、形を作ろうとしている兆候は見られる。
・「山雅包囲網」と「順応の壁」を超えられるか
ただその一方で、試合を重ねるたびに"山雅対策"が整いつつある。
順位が上のチームが"包囲網"を敷かれることがあるのでスタートダッシュに成功したチームの宿命と言えば宿命……。
さらに基本的に山雅は攻撃も守備も自分たちの「型」や「信念」は崩さずに戦っており、あえてそこをぼかして「カメレオン」戦略を敷いてきた昨年よりも予測や対策はしやすい。そもそもそれを承知の上で"分かっていても止められないチーム"を目指してチーム作りをしているので、その包囲網にかかる時期が遅かれ早かれやってくるのは必然的だった。
先ほど非保持でも触れたが、山雅の保持時では沼津は2トップ+ボールサイドの1枚で山雅の4枚でのビルドアップを監視し、高い位置での数的優位を作らせないという守り方を徹底。
そこを突破できたのも組織でハメられた中で国友や藤谷らの個の優位性で突破してのものが多かった。そこに頼りすぎてしまうと本来のチーム作りから外れてしまうが、"対策をされてもそれを超えられるチーム"を目指すいう点ではシーズン後半までにそこに達することができれば御の字である。
また、ここからの過密日程でも重要となってくるのは選手層の厚さ。
これまでは中6日で進んでいたリーグ戦も次節の富山戦を終えると、中3日でFC大阪戦、中3日で天皇杯・長野戦、中5日でリーグ戦・長野戦という日程が続く。
これまでのリーグ戦で起用された選手は21名、うち先発で出た選手は17名となっている(ちなみに途中出場のみの選手は田中、國分、稲福、宮部の4名)。ベンチ入りをしている大枠のメンバーは概ねスタメンでも試されているが、34名の大所帯であることを考えると試合で試せていない選手が多いのが現状。
とはいえ、横山を始め、菊井や住田など良い動きを見せていれば中心メンバーに抜擢されたり、最低でもメンバーには絡めていた昨年とは違い、霜田監督の求める設計図に順応できる/できないの壁が今年は明確にある。
やっていくうちに壁を乗り越えていくしかないが、すでにスタメンで出ているメンバーもそこに達するには時間がかかるのと同じように、まだ絡めていないメンバーも同様に時間はかかる。いくら1選手として絶対的なものを持っていても戦術面で和を乱すような選手は使われない可能性は高い。恐らく裏では努力を重ねているであろう新卒や新外国人・ルーカスヒアンのスタメンが未だに0なのもそのあたりの要因も大きいはず。
まだどうやりくりしていくのかまでは見えてこないが、この過密日程でそこの壁は多少低くせざるを得ない可能性もあるので……この期間を個人としてもチームとしてもプラスにできるかは今シーズンを左右するかもしれない。
◆ネガトラ
・頼もしさが増したCB陣の成長
そして、最後に一番の弱点となっているネガトラ(攻→守)。いくら前線の切り替えを早くしてもこの仕組みをする上では永遠の課題になっていくだろう。
というのもポジトラでも触れたように、前線に人数をかけて攻撃にリスクをかけている分、その裏返しで攻守の入れ替わりで後ろが薄くなるのは避けられない。具体的に狙われがちなのはSBが高い位置を取るCB脇のスペース。前で不用意な奪われ方をすると、時には数的不利で守らなければいけなくなることも出てくるだろう。リスタートも神戸戦の時点で狙われていた。
例年よりも守備陣に求められる要求は高くなっており、特に晒された状態での守備は難易度が高くなっているが、そんな中でここまで貢献度が高いのが全選手の中で唯一のフル出場組となるCBの2人。
山雅に加入して野々村は3年目、常田は4年目になるが、カテゴリーを差し引いても加入初年度よりも明らかに成長が感じられ、得意の空中戦以外の保持面や地上戦でも今年は違いを見せている。
例え押し込まれてもゴール前で弾ける2人なので、本来志向するような相手を押し込んだ状態での守備が叶わなくてもここまでは失点は比較的少ない。が、直近では北九州戦ではネガトラから2失点、沼津戦では今シーズン最多の4失点と徐々に失点も増加中。
もちろん最後はCB陣が対処することにはなるが、どちらかというとチーム全体の課題が浮き彫りになっての失点だったように思う。失点の減らし方については正解は数多く存在するが、時期も時期なので特にチームコンセプトは守らなければいけない。
まずは攻撃のことは考えつつ、不要なロストをしているとどうしてもこういう失点は喰らいやすくなってしまうので、いかにして不要なロストを減らしていくか?を最重要にし、失った後もいかにして高い位置で相手の攻撃を食い止めて(or遅らせて)、失点の確率を減らしていくか?は守備時のテーマになってきそう
・狙われつつある構造上の穴
咥えてコンセプトとは別の部分で最近は弱点も。
それは失点が増えてきた2試合で連続でやられている山雅の左サイドの穴。流れとしてはネガトラからフリーの右SBを使われて、大外へのクロスを決められる形。どちらもクロスの段階で中の枚数が足りておらず、クロスをフリーで上げられる時点でかなり分が悪い。
これは攻撃時に左の菊井がトップ下や時には右サイドまで顔を出すことが多いため、戻るにも物理的に戻り切れないことが最たる原因。ただそれをカバーできる選手もいなければ対応できる構造にもなっていない。菊井個人の問題というよりはチームとしての噛み合わせや構造上そうなっていてそこを使われているという形。
それ以上のものを攻撃で見せて、得点でその欠陥を上回れば何ら問題はないが、もしもそこで今後もそこを狙われ、失点を続けるようであれば足かせとしては重い。攻撃力を損なわずに修正する選択肢もあるはずなので、何か手を打ってくるか?は中断明けの注目ポイントだ。
■2位・富山との決戦
3-4の逆転負けで多少はダメージがあるであろう中、1週間の中断はチームにとってはプラス。ここで出た試合を一度クリアにして次の一戦に臨みたいところ。
そんな次の相手はカターレ富山。現在は2位に位置し、山雅にとっては初めて順位が上の相手との対戦となる。戦績はここまで4勝2敗1分け。
前節は高橋が前半で2得点を挙げたものの、ヴィニシウスにハットトリックを喰らって2-3の逆転負け。これによって今シーズン2敗目を喫したが、開幕から連続得点を継続中。14得点は山雅と同じくリーグ1位になる。
しかし、その内訳をみると対照的。
富山はシュート数やチャンス構築率はなんと20位中20位で最下位。だが、決定率は2位の長野(15.6%)を大きく突き放してリーグぶっちぎりの1位(20.9%)、少ないチャンスを確実にモノにする抜群の決定力を見せている(football labより)。
これまでの試合を元にすると山雅の方が押し込み、チャンスを作れることも多くなるとは思うが、富山陣内で張られた網に引っかかったところからカウンターで鋭い一刺しを喰らい、少ないチャンスをモノにされるような相手の土俵に乗った試合展開は避けたい。
勝ち点はまだ気にするタイミングではないが、ここからは直接対決やダービーが続く。「変化」と「課題」の両方を抱えた状態で試行錯誤の時期は続く中で、サポーターを含めたクラブとして強い気持ちを見せて4月~5月の山を乗り越えていきたい。
END