鹿児島戦レビュー~失意の中に見えた成長~
<両チームスタメン>
・松本山雅
スタメンは4名変更。
GK、CB、ボランチは変更なし。
SBにはダービーで不在だった下川と藤谷が復帰。
前線は渡邉がトップ下の位置では初先発。
右WGは榎本に代わって村越。
左WGとCFには菊井・小松がそのまま入る。
ベンチメンバーも大幅に入れ替え、新外国人のルーカス・ヒアンが初のベンチ入りとなった。
・鹿児島ユナイテッド
スタメンは1名変更。
GKには岩手から加入した松山。
CBは昨年からの広瀬・岡本のコンビ。
SBは星・薩川が不在でボランチが主戦場の野嶽・渡邉がSBに。
ボランチも昨年から鉄板の木村・中原。
前線はトップ下に端戸、右には五領、左には今季ブレイク中の福田。
大分時代にアルウィンで得点を決めた藤本が1トップに入る。
序盤はあらゆるメンバーを試してきたが、ここ数試合ではアクシデント以外ではメンバーをほぼ変えず、固定してきたことで成績も安定してきている。
<記録>
・ゴール(16)
8:小松
3:菊井
2:村越
1:パウリーニョ、鈴木、榎本、山本、野々村
・アシスト(10)
2:下川、山本
1:小松、鈴木、野々村、榎本、菊井、住田
・警告(13)
4:菊井(次節出場停止)、野々村(次節出場停止)
2:山本
1:パウリーニョ、小松、住田、榎本(、武石C)
<戦評>
天皇杯、リーグ戦と大事な大事なダービーで連敗。
内容も伴わず、選手・サポ共に大きなダメージを負ったが、幸い2週間の修正期間を挟んで再び自分達のやることを整理することに注力してこの1戦を迎えることができた。
ただ、準備期間はあったとしても実戦でその修正を見せられるかはまた別。今節の鹿児島ユナイテッドは優勝候補の筆頭で、リーグ戦は5戦負けなし、そして直近の3戦は全て2-0の複数得点&無失点で勝利している右肩上がりなチーム。大嶽体制も2年目となり、『既存戦力をベースにした成熟』と『新戦力を加えての進化』の両方を見せている。
そんな鹿児島を相手に自分たちの変化を見せられるか?
難敵を相手に、結果はもちろん内容面でも"立て直し"を示すべきゲームだった。
■追い風を背に取り戻した"型"
・取り戻した開幕当初のサイクル
ここ数試合、ボールを持たせて来る相手に自陣からのビルドアップに苦しみ、リズムを崩していた山雅だったが、この試合では風上に立ったこともあり、序盤から鹿児島陣内でハイプレス→蹴らせて回収→敵陣で攻撃開始のサイクルがうまくハマる。
鹿児島は松山が右足でロングボールを蹴り、WGは幅取り役をしていたが、中央での常田と藤本の競り合いは常田に分があり、セカンドボールもその前の菊井や戻ってきた安東が回収。松山から一発でWGを狙うシーンもあったが風に苦しみ、少しでもボールコントロールを誤るとそのままラインを超えてしまう。
鹿児島はWGが外張りするのが1つの「型」になっているが、そこに繋がらないと中央の薄さが浮き彫りになる。対して、中央に人数をかけている山雅がセカンド回収で優位に立てたのは必然的だった。
ただそうした噛み合わせとは別に、山雅のプレスも修正が施されていたのも間違いなく要因の1つで、スイッチ役の小松・渡邉がプレスをかけると安東がしっかりと前線まで出て行き、ボランチのマークを受け取っていた点。また、これまで左WGの位置に入っても保持時はトップ下、時には右にまで顔を出していた菊井も左のポジションに留まり、即時奪回が整理されていた点は変化が見られた。
(※これまでのネガトラ⇩)
・狙い通りの先制点
こうなるとここ数試合の悪い空気を払拭する先制点が欲しい…。
そんな中で21分に流れの中から先制点が生まれる。
ゴールが生まれる流れができたのはパウリーニョ→下川のサイドチェンジから。これにより高い位置で起点ができ、鹿児島はWGの五領が下がって守備対応。最終ラインの4枚も山雅の左サイドに急いでスライドすることに。
野嶽と五領で下川の対応をすることになったので、ここで空いた菊井に戻し、再度菊井は村越へのサイドチェンジを蹴る素振りを見せるも木村が寄せてきたので常田へ。
フリーで受けた常田はすかさず村越へサイドチェンジ。
サイドチェンジを2度成功させて相手を揺さぶるというのは山雅にとってはかなり珍しい光景だが、"仕組み"上、ここに蹴ればフリーの選手がいるというのをチームの共通認識にして、スムーズかつシステマティックにサイドを変えるのは今年の取り組み通り。
鹿児島の最終ラインはかなり広い範囲のスライドを強いられ、村越にもカバーのいない状態で勝負を仕掛けられてしまう。渡邉・小松というボックス内での動きに長けた2人へのマークがややルーズになってしまったことで最後押し込まれてしまったのも、山雅側が敵陣の高い位置で相手を揺さぶってマークを分散させたので隙が生じた形。
FW2人を含めた5人でボックスに侵入できていたのも今年目指している"確率の高い攻撃"の1つの完成形だったように感じる。
・負傷退場からの暗雲
幸先よく先制し、このまま試合を優位に進めたいところだったが、試合の流れごと変えてしまうアクシデントが発生。前半26分にキャプテンの安東が負傷。序盤から攻守で前線まで顔を出し、アンカー役の木村の監視やセカンド回収で大きな存在感を示していたがここで交代を余儀なくされてしまう。
先制後&キーマンの負傷交代という時間帯もあり、行くのか行かないのか?の擦り合わせが少し曖昧になってしまったのは致し方ない部分もあるが、今日の鹿児島はそこを見逃さない。山雅が序盤ほど強めにいかなくなったことで自由が増えてきた木村や左SBの渡邉を起点にしながら山雅のハイラインの裏を狙うようになっていく。
失点シーンも小松が住田を呼び、村越も1列前の渡邉にプレスをかけに行き、藤谷も福田への足元へのボールを警戒して寄せたところでその裏へ。
ちょうど前線が前からプレッシャーをかけようと促したタイミングだったが、前線を数的同位にしたにも関わらず出し手の渡邉にも十分にプレッシャーがかけれず。簡単にSBの裏を取られてしまい、カバーが間に合わない状態のまま藤谷も福田に対して競り負けてしまった。
ボランチが縦関係になった時にはバイタルが薄くなってしまい、2列目からの飛び出しにもついていける人がいないというのはこの構造上ついて回る。
ただその分、相手の出し手にはしっかりと圧力をかけなければいけないし、そこを突かれた時にはどれだけ後ろが粘れるか、残りの選手はすぐに戻れるかの勝負になってくる。そのすべてが足りてなかったことで喫した失点だったように感じる。
■試合を分けた3つの分岐点
・前半の鹿児島と同じ"沼"に…
同点に追いつかれた上に、風の優位性が生かせないまま前半を終えると内容が良くても厳しい立場なのは明らか。だが、44分、CKから勝ち越し弾が生まれる。
ゾーンディフェンスで要所に人を配置していた鹿児島に対して、住田のピンポイントのCKから野々村が下がりながらのヘディングでファーに流し込むことでゾーンを無力化。野々村は天皇杯に続いてアルウィンで2戦連続ゴールを記録しており、今後もセットプレーのキーマンとして期待したい(次節は出場停止でいないが……)
そして、後半は打って変わって山雅側が向かい風の立場に。
前半はここ数試合よりも早めに裏を狙い、敵陣に押し込むシーンが多かったのに対して、後半は自陣から足元で繋いで前進しようという入りを見せる。
しかし、風を味方につけて果敢にハイプレスをかけてきた鹿児島の網にハマることになってしまう。前半と真逆の構図になったが、同点弾も自陣でのパス回しを引っかけられたところから。そのまま押し込まれてしまい、鹿児島にペースを握られた流れから、山雅の先制点と同じようなサイドチェンジを決められて藤谷と福田の1対1を作られてしまう。
今年は前に人数をかける守備を志向するが故に、最終ラインは1対1での対応が多くなっている。その一方でチャレンジ&カバーのカバーの意識はどうしても薄くなりがちな側面がこのシーンでは現れていた。
一応、カバーに頼らず、"個の対応"を極める方向性もあるが対人で上回られると簡単に失点をしてしまうので「賢守」なのかと言われると少し怪しい。やはり自分たちの哲学は守りつつも、相手の狙いを汲み取り、組織的に守ることが必要なのではないかと思う。
・待ちに待った新戦力とプランB問題
後半の早い時間に追いつかれて2-2の同点になり、さらなる打ち合いも予感されたがスコア的にはここから膠着状態が続く。
お互い先発組の消耗も激しく、交代カードが鍵になる展開になったところで、山雅は67分に渡邉と村越に代えて国友とルーカス・ヒアンを投入。キャンプから得点面ではアピールしながらも出番がなかったヒアンだが、この試合の中では思ったよりも早めに出番がやってきた。残り20分、同点のシチュエーションで絶好のチャンスを得ることになる。
結果だけで言うと残念ながらこの日は結果を残せず、苦さが勝ったデビュー戦だった。だが、ボールを持った時の期待感はスタジアムからも感じられ、良い意味での異質感もあった。コミュニケーションや守備面を向上させて、戦力に本格的に組み込まれれば「違い」を見せられる存在になってくるだろう。
しかし、その一方で、交代選手が入っても同じサッカー、似たような組織力を維持できる鹿児島に対して、山雅が現状抱える「プランB問題」が浮き彫りになった後半でもあった。
霜田監督もこう振り返るように、前半は2トップの小松・渡邉がCBに規制をかけ、SHもそれに連動して高い位置から圧力をかけていくプレスがハマっていたが、交代して選手を変え、形を変えるにつれて、この2週間で整えた「形」は悪い意味で崩れていき、前線の4枚の配置もバラバラになっていく。
一応、右サイドの深い位置でボールを奪った菊井が逆サイドの裏にボールを出し、ヒアンが抜け出してドリブルで1対1を作ったシーンのように、"形を崩したからこそ"のチャンスもあったが、ビックチャンスよりも間延びや守備のカオスさが悪目立ちしていたように思う。
・手放してしまった"最高の成功体験"
そして、さらに大きく形を変えることになったのがパウリーニョ・藤谷→滝・山本の2枚替え。これにより菊井がボランチに下がり、本職ボランチが住田のみに。先ほど書いたような間延びや守備のカオスさがある中で中盤の負担がさらに増してしまうことに。
監督コメントにもあったように3点目を先に取るチャンスもそれなりにあったので、そこさえ決めていればこの形を崩す選択も肯定されただろうが、この試合ではこの形を崩す選択が裏目に出てしまい、最後は90分・90+4分と立て続けに被弾して2-4という大敗に繋がってしまった。
ただ(これまでの経緯や理想を考えると)霜田監督にとってもこれだけ形を崩すのは本意ではなかっただろう。
先発で出ている選手の疲労度や交代で入った選手の特徴の違いや戦術理解度、安東の負傷、強力なベンチパワーを持つ鹿児島との成熟度の差……。諸々を考えて「形を崩すこと」を選択したが、そこは采配ミスというよりは『まだ道半ばのチーム』と『2年目で(スカッド的にも現場的にも)ある程度整っているチーム』との差が出たという方が正しいかもしれない。
最終的に鹿児島のようなチームを超えていくためには、先発の11人だけではなく、チーム全体が同じ戦術理解・スタイルの体現をできなければならないということを身をもって体感した敗戦だったのではないか。
■結果で示したい相模原戦
結果は4失点の大敗となった鹿児島戦。
守備の改善は急務だが、ここ数節、特に2週間前の長野戦に比べると大きく改善された部分も多々あった。攻撃的な姿勢は残しつつ、あくまでこの試合(特に前半)をベースにしながら次の試合に向かいたい。
そして、「昇格」を目指す上ではここではこれ以上は落とせない。
首位との勝ち点6差はまだ大きく何かを変えるような勝ち点差ではないが、他力による部分が大きいのも正直なところ。さらに直近5戦で4敗、6得点13失点はいただけない数字なのは誰もが思うところなはず。
今節は菊井や野々村といった、ここまで先発出場中の選手を欠く厳しい条件になるが、ここをチーム・個人としてチャンスと捉え、代わりに先発・ベンチ入りする選手の奮起を期待したい。
そして、今節対戦する相模原も、昨季から大きく方針を変更。
元日本代表の戸田監督の元、スタッフや選手も大幅に入れ替えて「3年計画の1年目」に位置付けている今シーズンは勝ち点9の19位と結果は出ていないながら、まだ4敗と下位の中では負け数は少なく、粘り強く勝ち点を積みながら、新たなサッカーに取り組んでいる。同年に降格し、違うスタイルに移行して1年目という意味では山雅と似たような境遇とも取れるだろう。
悪い流れは今すぐにでも断ち切るためにも、
「目指すところは間違っていない」と胸を張って示すためにも、
主力不在でも変わらぬチーム力を見せつけるためにも、
同じようにリスタートを切ったチーム相手に意地を見せるためにも、
相模原戦では自分たちのスタイルを貫いた上でしっかりと勝ち点3を掴み取りたい。
END