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鳥取戦レビュー~肩透かしの矛矛対決~

<両チームスタメン>

・松本山雅

スタメンは2名変更。
前節ベンチ外のパウリーニョが1試合で復帰した一方、喜山はベンチ外。これまで4試合連続先発だった滝に代わって村越が今季初先発になった。

また、ベンチには大卒ルーキーの國分が初のメンバー入り。

・ガイナーレ鳥取

スタメンは2名変更。
GKの井岡がベンチ外になり、糸原に。SHとして出場を続けていた牛之濱もベンチ外で代わりに開幕には出遅れていた富樫が今季初先発。

ここ4試合は全て複数得点、しかし失点も3試合で複数失点を喫するなど特徴がはっきり出ている序盤戦の戦いとなっている。

<記録>

・ゴール(7)
2:小松、菊井
1:村越、パウリーニョ、鈴木

・アシスト(3)
1:小松、下川、鈴木

・警告(4)
1:野々村、パウリーニョ、菊井、小松(、武石C)

<戦評>

■試合を優位に進めた「圧」

・絶対にリードが必須な山雅

「矛矛対決」「矛盾対決」

試合前にこのようなフレーズが多く聞かれたことが示すように、鳥取は積み上げてきた攻撃スタイルを今年も継続し、リーグトップの得点数を記録するなどここまで攻撃の結果を出してきている相手。

そして、山雅もここまでは7得点2失点と失点の少なさが結果に結びついているため「堅守」のイメージが未だ残ったままだが、本来はリスクをかけてでも得点を狙いに行く攻撃的なスタイルを志している。そういう意味では似たチーム同士の対決と言っても過言ではない。

ただ「戦い方」と言う点で利があるのは鳥取。
世瀬・普光院の2ボランチがゲームをコントロールしながら、前後半で巧みに前線の選手を使い分け、後半にブーストがかかるような戦い方を開幕から確立。

対して山雅は前線の4枚はまだ試し試しで、終盤の戦い方に課題を残したままだが、そこを改善するための目に見えたテコ入れは行わないので、そうなれば今すぐできる解決策は「早い時間で得点を重ねること」しかない。

この試合でも体力を惜しまず、前半早い時間から果敢にプレスをかけに行く。

・鳥取を飲み込んだ序盤の勢い

守備は前線からのプレッシングも非常に連動してましたし、僕らが今日立てたゲームプラン通りのシーンが何回も作れたので、それに関しては非常によくやってくれたと思います。

ヤマガプレミアム 監督コメントより

と霜田監督も話すように、この試合では前線からの精力的なプレッシングから何度もチャンスを作り出す。それに関しては鳥取の金監督も

ディフェンスにプレッシャーが来たのを、ボランチ含めて幅を使いながら上手くボールを動かせないと良いボールが前に供給ができないと思います。その辺が、今回のようなプレッシャーを受けてしまうと普段通りの力が出なくなっていたので、そこはやり直していかなければいけない部分だと思います。

鳥取公式 監督コメントより

と認めており、鳥取はこの日の戦術的な狙い以前に序盤の山雅の勢いにそのまま飲まれ、それを引きずってしまっていた感があったように思う。

両者のコメントからも分かるように良かった点としては、確立した鳥取のスタイルに対してひるまずに圧をかけていき、相手のミスを誘うことに成功したこと。この点はスタジアムの独特の雰囲気やアルウィン独特の風も味方をしていたかもしれない。

■「理想」通りに行かない前半

・ゲームを動かしていた鳥取のリスクとミス

ただ相手の精度に助けられて致命傷にはならなかったが、この日鳥取が用意してきた狙いに対しては山雅側の「穴」が見られる場面も。

1つは中盤の間延び。
例えば10分。鳥取のスローインから後ろのCBに下げられる何気ないシーンから。

一度、増谷まで下げたところで2CBに対して、2トップが追いに行くが、それで空いた世瀬を使われる。

そこから大外のSB・文を使われて、藤谷が引き付けられたところで中の富樫に。野々村は富樫とマークしていた重松の2択を迫られたが、距離感的にも重松についていくことを選択。

コントロールして運ばれる前に藤谷・村越を寄せたが、フリーの普光院を使われて重松→文とパスを繋がれてしまう。

このシーンが象徴的だが、2トップが前から行く際にボランチ(特に住田)のところで縦関係を作られ、どう考えても間に合わない距離を走らされ、最悪そのスペースを使われて大ピンチというケースが多々あった。

前から追うのは今年は90分通して一貫されているが、その一方で全体が間延びしやすく、その場合4-1-1-4で1-1のボランチの守る範囲が広すぎて物理的に間に合わないシーンが見られる。パウロ・住田で多少やられても無理が利く2人が並んでるので事なきを得ているが、後ろはそうならないようにさらにラインを高め、前は長いボールを出されないようにさらなる制限が必要になってくるだろう。

・高い位置を取るSBに惑わされる側に

もう1つは菊井の裏のSB田中。
高い位置を取るSB田中を気にするあまり菊井の位置が外寄り&低めになってしまうシーンもこの試合ではよく見られた。

今日は出し手の精度がいまいちだったので、実際に流れの中でのピンチは少なかったとはいえ、このSBの位置取りは本来は山雅側がしなければいけないものだったはず。

菊井の位置自体は守備のことまで考慮したバランスの取れた位置取りだったかもしれないが、これまでの戦いを見ると今のチームだとWGが下げられてしまうのはチームとしては不本意。

この日このポジションに入った菊井は霜田山雅ではトップ下がメインで、サイドはそれほど慣れていないせいかもしれないが、今年の山雅の場合は大外は捨ててリスクをかけてでも攻撃に出られる立ち位置を取るのが適切なはず。

1つ目前項(前項)のシーンでは結局、重松から文へのパスがずれ、その後うまく相手のミスを拾った山雅が残った前線の選手でカウンターを発動。この2つ目のシーンでは高い位置を取る田中までボールが渡らずに逆に菊井がそのスペースを突くようなカウンターは見られたが、コンセプトのように両SBが高い位置を取り、効果的に数的優位を作って攻撃をできていたという点では鳥取の方がそのコンセプトに添えていたように思う。

・出てきてしまった悪癖

山雅も相手のミスやDFの粘りによって、クロスカウンター的にビックチャンスを作れていたが、前線で数的優位を作る鳥取のリスク面を偶発的に使っていた部分もあり、幸か不幸か従来山雅が得意とするような「相手のミスを誘って、前線の選手が長い距離を運ぶロングカウンター」が発動しやすかったのがビックチャンスを多く作れた要因としてあった気がする。

ただそれでもチャンスはチャンス。
1本でも決まって試合をモノにしていれば、例え課題が多く出たとしても得るものは大きかっただろう。しかしこの日はフィニッシュの部分では"構造的な欠陥"や"慣れの問題"とは異なる悪癖が。

多くのチャンスが転がってきていて優位に試合を進めていたにも関わらず、アタッキングサードでチームのコンセプトに反したようなプレー選択が出てきてしまう。今年で言うと「"確率の高いシュートまでの選択"ができていたのか?」の部分。もちろんその中であえて逆を突く選択も出てくるが、この試合に関してはそこに反したプレーが出てきてしまった。

これまでの山雅では良くも悪くもそこは個人の選択に委ねられており、シュートを打っていく中で個人やユニットの中でチューニングを合わせたり、それでも合わなければ人を変えたりするスタイルだったが、今年のスタイルの場合、同じゴールまでの設計図が描けなくなってしまうとコンセプトごと崩れてしまう危険性もある。

先に挙げた問題とは違って組織の根底により関わる問題でもあり、奇しくも昨年同じ鳥取とのアウェイ戦が思い出される。この試合では前半からゲームを優位に進めており、クロスやシュートまではいけていたにもかかわらず、チームの掲げていた「シンプルさ」「縦選択」が失われ、不協和音が生まれてしまっていた。この試合のようにこの現象がシーズン通して後々尾を引く可能性もあるので、早めに解決しておきたいところ。

■前節から続く構造の強み・弱み

・強化された中央突破と孤立するSB

そして、この試合の保持時(攻撃時)に気になったのがSBとSHの位置関係。

この2試合では菊井と国友を併用。前回の試合でも2人が共にトップ下のスペースに入ってくることによる強み・弱みが出ていたが、この試合でも同様の現象が。

カウンター時に縦に早くカウンターを発動する際には2人の推進力を発揮してドリブルで運ぶシーンが見られた一方、開幕からの強みだったSBを生かしての厚みのある攻撃は淡白なものに。

前節も『相手のSHが山雅のSBにマークについていたため、本来の狙いである"数的優位"が生み出せず、相手の最終ラインのズレが生み出せなかった』ことが、ゴール前に入れても相手のマークやシュートブロックに遭ってしまうという問題に繋がっていたが……

中を取ってくれることが多くて、外のレーンを空けてくれるのはありがたいですが、そこにFWが流れてきたりだとか。中のコースというのは相手は締めてくるので、そういうところできょうはすごく距離を感じましたし、入れられそうにもないと思いました。

ヤマガプレミアム 選手コメントより

と話すようにSBが迷いながらプレーしてる様子は試合中も見られた。

例えばこの試合で見られた図のようなシーン。
一応前線は数的同位、逆の藤谷を合わせると数的優位にはなっているが、鳥取は多少縦に突破をやられても中のコースを消しに来ており、肝心のSBの選択肢が自分で縦のスペースに運ぶかやり直すかの二択。

かといって縦を突破して深い位置まで運ぼうとすると2人目のSBがカバーに来るので、半歩抜いて中に入れるというのが基本的な選択肢を多くすることになる。

だが、前節の宮崎戦同様、中のDFは動かされていないので中のマークは外れず、この時に空いてくるのはファーサイドや大外の逆SBとなってくる。相手に誘導された選択肢の上に、ドリブル突破してファーサイドに正確なクロスをあげなければいけないとなると当然難易度は高い。

それでもあげなければいけない場面もあるが、今年の組織的な攻撃や人に依存しない仕組み作りという点ではやや反したタスクのようにも思う。

・SBのタスク過多問題をどう整理するか

ただそもそもSBがこれだけ低い位置で仕事をしなければならないのは、上がるだけの時間が作れていなかったり、後ろ4人でのビルドアップでうまく相手を交わせずに下りてきてしまってることも原因としては考えられる

加えてカウンター時の素早い帰陣やサイドでのドリブル突破→クロスまで求められるとなると、確かに前線はおいしい位置での仕事がやりやすくなっている反面、「(今の状態は)SBにタスクが集中しすぎてるのでは?」という問題点も感じてしまう。

個人の精度の問題はどのチーム、どのスタイルであっても高めていかなければいけない部分ではあるが、今のチームで考えるとそこのタスク集中をうまく分散させることが課題解決の第1歩なのではないかと思う。

また、タスクの分散とは近からずも遠からずの問題としてSB-SHの組み合わせも1つあるはず。神戸戦と開幕3節までは相性の良さもあって滝と藤谷、榎本と下川というサイドのユニットで固めてきたが、結局どちらのサイドも組み合わせを変更。それによるやりにくさも出てきてるかもしれないので、原点に立ち返る意味でも1度開幕の形に戻してもよいかもしれない。

■難敵・田坂北九州

そして、今週は再びアウェイで北九州と対戦。
ここ数年は高い保持率を誇り、後ろからの組み立てによる組織的な攻撃を見せてきた一方で、守備時の耐久力や球際での弱さを弱点にしていたが、今年は田坂監督を招聘。

立ち位置を意識した組織的な攻撃は残しつつも、保持には固執せず、ラフなボールを前線に入れて素早い攻撃を繰り出すことも増えた。その代わり、守備時のタイトさも徐々に出てきており、前線から連動した守備を見せて素早いカウンターを狙うことも多いので、試合展開としては山雅が持つ時間が多くなるのでは無いか。

特に要注意なのは町田や宮崎在籍時に山雅の脅威となっていた天敵の岡田。今のスタイルは彼の個の力が出やすい環境になっており、チーム内での存在感という意味ではこれまでのチーム以上にある。逆に山雅は相手の良さを消すところに重きは置いてないので、シュート・パス・ドリブルと全てが高水準のアタッカーをいかに守備に走らせるか?が対策になってきそう。

また逆のSHの野瀬も昨年の夏以降に頭角を現し、J3有数のドリブラーへと成長。ゴリゴリと縦にも横にも突破して相手をちぎってくるので岡田ばかりに気を取られないようにはしたいところ。

ここ2戦連続引き分け、何より合計1失点とスタイル通りの結果を出せていない中で、攻撃的な姿勢を貫いて勝ち点3を取り切れるか。まだまだ序盤なので順位表を気にする時期でもないが、開幕からの良い雰囲気をここで止めないためにもしっかりと結果を残してホームに帰ってきたい。

END

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