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コロナ禍の深圳で変わったこと、変わらないこと
新型コロナウイルスによる行動制限が全国的に緩和され、海外への出張を再開する方も増えているのではないでしょうか。HAX Tokyoチームも去る2023年4月に中国・深圳を訪問し、HAX Shenzhenチームや地元のスタートアップ、サプライチェーン企業とのミーティングを行いました。
コロナ禍を経た深圳の現状や、スタートアップ業界に与える影響についてレポートします。
ロックダウンでも”Work HARD,Make Money”の灯火が消えなかった街
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大型のロボットも開発できるほど広大なスペースが確保されている。
中国はグローバルで見ても厳しいコロナ対策を講じていたことは、皆さんも御存知でしょう。深圳は世界の製造業・テクノロジー産業をリードする立ち位置から、行動制限は上海や北京と比較すると緩やかでした。
HAX Shenzenチームによれば、コロナ禍で一定の淘汰が進んだものの、生き残った企業は稼働を止めず、顧客との商談や打ち合わせをオンラインに移行するなど、コロナ社会に適応した事業モデルに移行しつつあるようです。その結果、以前のような「安く大量に」から「付加価値で差別化」という状況にシフトしているとのことです。
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ハードウェア製品の自社開発や受託製造に留まらず、
AI開発やエッジコンピューティングなどソフトウェア開発でも高い技術力を誇る。
HAX卒業生の量産も多数請け負っており、深圳におけるスタートアップの
サプライチェーンを語る上では欠かせないキープレーヤー。
また、サプライチェーンだけでなく政府からも継続的な支援があったことから、いい意味での「深圳らしさ」を損なうことは無かったようです。コロナ禍から今日に至るまで、成功を夢見た起業家が中国全土から深圳に集まる図式は変わらないようでした。
スタートアップを支援するエコシステムの層の厚さや、部品調達の容易性や製造委託先のネットワークの豊富さ――ひいては、ハードウェア開発をリードする都市としての優位性は全く揺るぎません。その中で刻々と変化するニーズを捉えたスタートアップが急成長しています。
その最たる例の一つであり、HAXの出資先でもあるYouibot(ユーアイボット)を訪問しました。
食器洗い機からエンタープライズ向けロボットにピボット
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Youibotは2015年に深センで創業した直後にHAXに参加、フォローオンも含めて5回の投資をSOSV(HAXの母体である米国のVC)から受けています。
当初は食器洗い機を開発していましたが、仏大手タイヤメーカーのミシュランがHAXに対して、夜間にバスを洗車するロボットの開発を相談、Youibotがプロトタイプ開発に参加したのをきっかけに産業向けロボットにピボットして大成功を収めます。
現在はさまざまな産業の自動化・省人化に取り組んでおり、倉庫向けの自動搬送ロボットや鉱石発掘現場の機器などを開発したり、中国政府が支援策を強化する新エネルギー分野にも注目しています。コロナ禍の際には消毒液を散布するロボットを開発し、いち早く市場投入するなど、いかなる状況でも成長する機会を狙う強かさが伺えました。
未来の予測が難しい状況が到来したことを指して、VUCA時代とも表現される昨今ですが、自分たちの強みを明確にして、状況に応じて素早く開発し市場投入するスピード感は、今後のスタートアップ経営に不可欠な要素になるかもしれません。
その上でも政府やVC、顧客となる事業会社や製造パートナーであるサプライチェーンが密接かつ強固な関係にある深圳は、時代の不透明さすらも好機に変える強さを持っていました。
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「世界をより自動化するためのロボット」というタグラインを掲げている。
成功したスタートアップが、次のスタートアップを育む
今回の深圳出張ではHAXを卒業した複数のスタートアップにも話を伺いました。
そのうちの一社であり、スマート照明システムを開発するYeelightは2013年にHAXに参加。深圳のエコシステムを活用しながら、IoT市場のメッカである米国のエッセンスもある支援プログラムに魅力を感じて、アクセラレーションプログラムに参加したそうです。
HAXの魅力として、Yeelightの創業メンバーEric Jiangが「スタートアップ同士や運営チームのつながりが強く、さまざまなバックグラウンドを持った人々が一つのチームとなって、スタートアップをサポートする体制が支えになった」と語っていたのが印象的でした。成功したスタートアップからの助言やメンタリングも受けやすい環境にあり、Yeelightのメンバー自身も現在は後輩起業家へのアドバイスを欠かさないそうです。
こうしたスタートアップ同士の交流や支援が強固であることも深圳の特徴です。EV(電気自動車)へのシフトが進む中国で頭角を現しているのがBYDです。
同社は創業当初はバッテリー専業メーカーでしたが、2007年には自動車開発に着手。2008年にプラグインハイブリッドカーを発売したのを皮切りに、現在ではEVの販売台数で世界トップクラスに躍り出るなど、急成長を果たしています。創業者の王伝福氏は政府系ファンドのアドバイザーを務めるなど、後進の育成にも携わっています。
成功したスタートアップが次世代の育成に取り組むサイクルの速さも、深圳がスタートアップ都市である一つの証明であるといえるでしょう。
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相互のコラボレーションを通じて、より魅力的なプログラムへ
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こうした昔ながらのパーツショップも健在だが、
新しいトレンドを踏まえた店舗も増えているという。
今回お会いしたスタートアップの多くは既に日本企業との協業や、日本市場への展開を準備しており、日本市場に対する強い期待が感じられました。一方で欧米や日本のスタートアップにとって、深圳は依然として製造・量産には欠かせない機能が充実した都市であり、相互に協力し合うことが今後も不可欠だと感じました。
HAX Tokyoでは今後HAX Shenzhenとの連携を一層深めながら、アクセラレーションプログラムをさらに充実したものにする予定です。ご興味のある方は是非ウェブサイトからお問い合わせください。
スタートアップからの相談にこたえるオフサイトイベントを開催しています
HAX Tokyoでは起業予定の方や既にスタートアップとして活動されている方、ハードウェア・スタートアップとの事業開発に興味がある大企業の皆様向けに、カジュアルな相談会を実施しています。
相談会ではHAX Tokyoでスタートアップをメンタリングするディレクターやメンター、大企業とスタートアップをつなぐHAX Tokyoスタッフが聞き手となり、大企業との連携のコツや試作開発の進め方、創業期の事業開発など、さまざまな相談をお受けします。
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