2024年10月の歌 題「もし・もしも」
パラのヒーロ義足のアスリート俺たちは痛さ堪えても明日は泣きやまず かくすべき衰へありと思はねど化粧品売場の鏡の非情
今森貞夫
この世からもしも鏡が消えたなら皺を数える事もないのに 五年後もこうして散歩がしたいねと八十四の夫の手を取る
鵜川登旨
もし街で大学時代の恋人に会ったら互いに気づくだろうか
キラキラの海で見つけたホヌの子は少し泳いでまた顔を出す
大室やよい
夜遅くラインの鳴れば胸の騒ぐもしや良くない知らせなのではと 一夜にてひまわりの苗十本を消してしまいし忍者ナメクジ
岡まなみ
もしも夢叶うとしたらトンビのように自由に舞いたい
もしあの日海を渡らず残ったら今この島で笑うことなし
小島夢子
もしも明日風が吹いたら帆をあげて星を頼りにタヒチへ行こう 秋の夜にリンゴをサクッと八つ切りす茶色の種と白い果肉と
関本なつ
隕石がもしも地球を外(そ)れてたら私は生まれてきたのだろうか
ソーダ水の冷たく喉を下り行く波荒き浜を歩きてのちに
筒井みさ子
人生に「もし」という語が消えたなら丘と谷との差ほどの人あり
ヒスイ色の玉虫ひとつ迷いてかつるつるタイルにいのちつなげり
原 葉
もしもあの一秒を巻き戻せたらこんな骨折しなくて済んだ 座敷掃く母のほうきはちり埃モヤモヤまでも掃き出していた
藤代敏江
友人に誘われハマるジグソーパズル最後のピースはめる喜び
若返り薬がもしもできたなら飛ぶほど売れる間違いなしだ
宮川美智子
風呂の隅にじっと動かぬクモのいて小さな体さらに細りゆく 洪水で家族失くしし人の言うもしあの時の言葉の重く
森田郁代
酷暑ゆゑ久々に通る散歩道いつの間にやら尾花の揺れる
歳重ねもしもの範囲も狭まりて現実に勝つ勇気ぞ欲しき
山下ふみ子
看取れずに逝かせてしまいし父母にもし会えるのならば抱きしめたきに
Tシャツに孫らの描くかぼちゃ畑広がる先に向日葵群れる
楽満眞美
折々で選んだ道が分岐して私と言う名の大木となる 夫に言う一足先に逝くのなら橋のたもとで待っていてよね
六甲もこ
「もしもし」と我が子と遊びし糸電話 孫との遊びはモバイルゲーム
庭先に七輪出して秋刀魚焼く夢の中にも秋の気配あり
伊藤美枝子