リンダリンダリンダ
映画007シリーズの英国秘密情報部ジェームズ・ボンドは有名ですが、英国海軍のジェームズ・リンドは知られておりません。
壊血病の予防法を確立した軍医です。
壊血病は今ではなる人もほとんどいませんが、昔の船乗りを恐怖のどん底に陥れた奇病です。
全身から血が出てきて、ゾンビのようになりました。
今では原因はビタミンCの欠乏症ということがわかっています。
007の主人公とは、たった一字の違いです。
世界の公衆衛生・産業衛生・軍陣衛生・栄養学に名前の残る超大物であり、世界で初めて「臨床研究」を行いました。
リンド軍医の「臨床研究」は、1747年に、軍艦ソールベリー号に乗船中に、壊血病にかかった12人を対象にしました。
内容は次のとおりです。
2人ずつ6組に分けました。
それぞれの組に、
①リンゴ果樹入りサイダー
②硫酸塩溶液
③酢
④海水
⑤オレンジとレモン
⑥ニンニクの練り薬入り麦芽汁
を与えました。
かなりざっくりとした研究です。
しかも、倫理委員会の開催や研究参加の本人同意の取得などは無く、現在なら臨床研究と呼べるレベルでは到底ありません。
しかし、研究開始後6日目で結果が出ました。
⑤のオレンジとレモンを与えた者は完治し、①のサイダーはわずかな回復がみられました。
他の組は、全く症状の改善はみられませんでした。
この「臨床研究」の結果からリンド軍医は、オレンジとレモンが壊血病を治療できると発表しました。
しかし、この画期的な研究成果は、当時は全く受け入れられませんでした。
なぜオレンジとレモンが効くのか、その理由が不明だったからです。
リンド軍医の「臨床研究」から約半世紀後の1802年に、英国海軍はライム果汁を食事に付けることを決定しました。
オレンジやレモンに比べてライムの方が安く、予算がかかりませんでした。
ライムの臭いがする英国海軍の水兵は、他国の海軍から「ライミー(ライム野郎)」と馬鹿にされました。
馬鹿にされたライミーたちは、他国の海軍と違って航海中に壊血病にかかることなく、英国から遙か遠くに離れたオーストラリアやニュージーランドといった島々に到達し、領土の拡大を行いました。
英国海軍の「理由はわからないが効果があるので採用する」というフレキブルな態度は、おそらく高木兼寛も英国で学んだのではないでしょうか。
高木兼寛は、実施した航海実験の結果から、海軍で麦飯やパン食を採用して脚気を予防することに成功しました。
終始一貫、英国流のフレキシブルな対応でした。
高木兼寛の英国留学中にリンド軍医の功績について教わったかどうか、記録がありません。
私は、知っていたとにらんでおります。
漫画「ワンピース」の船にみかんの木があり、これは壊血病予防のためではないか、と何年か前に当時のJR九州の唐沢会長が日経新聞に書いた記事を覚えております。
さすが、JR九州を立て直した経営者だと感心しました。
一流の経営者は、公衆衛生を知っているのです。
昔活躍したザ・ブルーハーツの「リンダリンダ」の歌詞は衝撃的でした。
「ドブネズミみたいに美しくなりたい」
なんじゃこりゃー?
そして一転、「リンダリンダリンダ……」
これをもじって、壊血病の歌をつくろうとしました。
ゾンビみたいに美しくなりたい
リンドリンドリンド……。
誰も聴かない気がしましたので、やめました。