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麻薬がダメ絶対である理由

私が出向した富山県と宮崎県は、共通することがあります。

明治16年5月9日に、宮崎県は鹿児島県から、富山県は石川県からそれぞれ分離独立しました。

この「分県運動」を中心的に担った県会議員の像があります。

宮崎県は川越進翁の全身像が県庁正面の庭にあり、富山県は米沢紋三郎の胸像が県議会議事堂の1階正面にあります。

大きな違いは、宮崎県では5月9日に川越進翁の像の前に、知事を始め二役と課長級以上の県職員幹部、県議会議長を始め全県議会議員及び議員OBが集まり、川越進翁の御子孫の方をお呼びして献花をする式典をやっていますが、富山県では何もしていません。

この歴史を大事にする宮崎県の伝統は、大変素晴らしいと思います。

ところで、富山県にとっては石川県は永遠のライバル的な存在です。

加賀百万石と言っていますが、その石高のほとんどは、現在の富山県内でとれています。

私が富山県に出向したばかりのときは、石川県には複数のPETセンターがありましたが、富山県にはありませんでした。

動物のPETではなく、医療診断装置のPETです。がんの診断に効果を発揮します。

PETを撮影するために、わざわざ石川県の医療機関に行かなければならないことは、富山県民にとっては屈辱的なことでした。

富山県の医師会の幹部ががんになって、石川県までPETを撮りに行ったが、なんとかならんのかという話が伝わってきました。

新年度の予算で、PETの検討経費として、少額の予算を要求しました。

あくまでも検討のための経費であり、建設を決めたわけではありませんでした。

北日本新聞(富山県の地元紙で、宮崎日日新聞に相当します)の記者がやってきました。

「厚生部の来年度の予算で、新しいものは何かある? 当初予算の資料をもらったけど、よくわからない。正月用の景気のいい話を聞きたい」

そこで、PETの検討経費の話をしました。

記者が持っている県の予算資料にも掲載されているので、リークではありません。

「何ですと? 石川県にはPETがたくさんあって富山県にはない? それはどういうことですか?」

記者の目がメラメラと燃えています。
それは、「巨人の星」の星飛雄馬のようでした。

「こ、これはあくまでも検討経費であって、建設すると決まった訳ではないので」

注意をしましたが、もはやスイッチが入った星飛雄馬的な記者は、聞く耳はありませんでした。

1月3日の新聞に、「県、PET建設へ」という、どでかい記事が出ました。

早速、副知事から呼び出されました。

「この記事はなんだ? 厚生部が書かせたのか」
私や担当課の職員は、風が起こるように、首を横に激しく振りました。

「県の予算資料を見て、医師会などを独自取材して書いたのではないでしょうか」としらを切りました。

この予算は、知事査定まで行きました。

「富山県にPETがないということは判ったが、あれば、どういうメリットがあるのかね?」
知事から質問がありました。

「白い巨塔の財前教授のような悲劇が、県内からなくなります」

「ほう、それはどういうことかね?」
知事は食いついてきました。

「胃がんの手術の前にPETを撮っておけば、肺への転移が確認できて、手術以外の抗がん剤の治療法を選択することができました。患者の遺族からも訴えられることはなかったでしょう。PETがあれば、医療の質が向上し、無用な医療訴訟も避けられます。県内の患者と医師の双方にメリットがあります」

「白い巨塔」とは、作家山崎豊子さん原作の小説で、何度もテレビドラマ化された名作です。
財前とは、浪速大学第一外科教授財前五郎のことで、この小説の主人公です。

小説は、新潮文庫から出ており、おすすめです。

我々が高校生の頃には、俳優の田宮次郎さん、が財前五郎を演じて、撮影終了後に自殺をしたので、記憶に残っています。

迫真の演技でした。
対するヒューマンな里見助教授は、山本学さんが演じました。これも凄かった。

このドラマは、大河内教授をはじめ病理医が活躍します。これを見て病理学を目指した同級生がいました。

直近のテレビドラマでは、岡田准一さんが財前五郎を演じました。

主治医が患者の手術の前に、PETを撮ることを財前教授に進言しますが、自分の診断にたてつくのかと拒否され、PETを撮りませんでした。

私が富山県庁で知事に説明したものと同じでした。

このことを周囲に自慢しようとしたところ、共演した女優さんをが麻薬所持で逮捕され、懲役1年6か月、執行猶予3年の判決を受けました。

その結果、このドラマは再放送がありません。DVDも発売されなかったようです。
私の野望も閉ざされました。

こういうことからも、麻薬はダメ絶対です。

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