クリプトスポリジウムは、塩素もアルコールも無効の「最強の原虫」である
1993年4月に米国のウイスコンシン州のミルウォーキーで、クリプトスポリジウムの集団感染が発生しました。
水道水がクリプトスポリジウムという原虫に汚染され、水道を飲んだ住民に感染したのです。
主な症状は水溶性の下痢で、四~五日間続きました。
他に、吐き気、嘔吐、腹痛、発熱、けいれんなどの多彩な症状が出現しました。
病院勤務者の欠勤や、学校の生徒に多くの欠席者がでました。
下痢止めの薬がミルウォーキーで品切れとなったことで、大規模な集団発生が判ったと言われています。
電話調査の結果、推定で約40万人が感染しました。
入院者は4400人にも上りました。
複数の下痢の患者の糞便からクリプトスポリジウムが検出されて、はじめて病気が特定されました。
死亡した患者は54人と推定されており、その多くがエイズの患者で、その他は免疫抑制剤を使用しているなど免疫が低下している人でした。
免疫不全の人は、感染すると一日10リットルもの下痢をすることがあり、これが原因で亡くなることがあります。
水道の水源はミシガン湖で、近くに牛の牧場があり、食肉処理場もありました。三月下旬に大雨が降り、水源が相当濁っていたことが判りました。湖の氷の中にも原虫がいたことが確認されました。
クリプトスポリジウムは、塩素が効きません。
大腸菌の塩素の抵抗性を一としたときのクリプトスポリジウムの抵抗性は、なんと二四万倍もあります。
ただし熱には弱く、70℃の加熱で死滅します。飲用する場合は、一分以上煮沸して利用します。
患者発生の報告があった場合は、報告されない患者が多数いると疑って調査し、直ちに水道の管理者たる市町村に連絡して、水道の使用禁止や飲用する際の煮沸消毒などの広報が必要です。
日本でも大規模感染事例が二件起きています。
1994年に神奈川県の平塚市の雑居ビルの受水槽が汚染し、461人の患者が発生しました。
1996年には、埼玉県の越生町の町営水道を汚染源とする集団発生があり、町の住民の70%の約8800人が被害を受けています。
当初は、小・中学校の集団食中毒が疑われ、学校を中心に調査が行われました。
しかし、学校給食は自校方式であり共通食がないこと、さらに多数の一般住民にも症状があるという情報が寄せられ、水道水が疑われて、塩素に抵抗性のある原虫にたどり着きました。
2856人が病院の外来を受診し、24人が入院しています。
大雨や台風の後の井戸水や水道水の汚染には注意が必要です。
特に濁りがある場合は、クリプトスポリジウムに汚染されていることがあります。
越生町の事例では、たまたま一日だけ町に滞在して、感染した人が14人います。
うち七人はコップ半分~二杯の水を飲んで感染しています。
おそるべし、クリプトスポリジウム!
昔、「俺、五杯が限度かなー?」というウイスキーの水割りのテレビCMがありました。
サントリーの角瓶で、布施明さんだったと思います。
クリプトスポリジウムで汚染された水でウイスキーを割って飲めばいいのではと考えた人には、アルコールは無効ですので念のため。
一分以上沸騰したお湯で、焼酎を割って飲むのはOKです。
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