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串焼き耳のスパイ

ピアスについて考える女の子の話を読んだ。

"普通"エミュレートの素材にします


びっっっくりした。

「きまりやルールだらけの学校から解放された!」なんて喜びがあるんだ!?
そんで、その喜びはピアスホールを開けることに繋がるんだ!?
ピアスのこと「ずっと身につけられるもの」だと思うひと、いるんだ!?
タトゥーについてもその枠なんだ!?

おお〜……。という気持ち。
たぶん彼女(と、その恋人)の感覚は珍しくないのだろう。
そういう前提で振り返ると、いくつかの過去わたしが取られたリアクションに説明がつく。
なるほど。


きまり、と、ルール、の違いは分からないので一旦置いておくとして、
わたしは学校のそれらに対して開放された!という喜びを感じたことがない。

だってそういう仕組みの組織だって分かってて、自分で決めた(中学は地元の公立だったけれど、それにしたって自分で納得して異を唱えなかった)学校だ。開放も何も、自らその枠にハマりに行ったのだから。
校則なんて無いと言っていい高校に通うことにしたのは自分だ。生徒会細則に従うのは従いたいと思ったからでしかない。

窮屈だと思う縛りに、窮屈だと思いながら縛られて過ごす学校生活、しんどそ〜……
めちゃくちゃ忍耐強い子なんだろな すごい えらい

得心できないルールをそのまま飲めるひとびと、遵法精神えぐくない? 尊いと思う。
世の中はあなたがたによって支えられています。おかげさまで。

わたしがピアスホールをあけたのは、ピアスがしたかったからだ。
3つめの穴をあけたときも、4つめの穴をあけたときも、……14つめの穴を開けたときも。13歳から今まで、そこに自由だとか反骨だとかを含ませたことは無い。
そもそも最初のピアスホールは母親にプレゼントしてもらったものだしさ。
反抗心なわけがない。

「ずっと」って何時まで? 「みんな」って何人?

わたしの舌は二又になっている。
スプリットタンだ。
ピアスをしていたのだけれど、外して切り込みを入れることにした。
完成した当時は数センチ分かれていて、うねうねと左右バラバラに動かせた。

でもこれ、別に永遠でも何でもないのよね。

定期的にメンテナンスしないと、どんどん癒着していく。
放っておけば蛇というよりも桜の花びらのような、ちょっぴり欠けているだけの造形になっていく。
(わたしはこの状態もけっこう好きだ。キュート。身体改造を趣味にしている界隈には「どれほど痛みを耐えているか」「どれほど元の姿から離れているか」を誇る文化で生きているひともいて、彼らからしたらダサいのだろうとは思うけれど関係ない。)

ピアスホールだって放置していれば穴が小さくなるし、場合によっては塞がることもある。
スカリフィケーションだって輪郭がぼやけてくるし、色も薄くなる。

それってとんでもなくカワイイことだと思うのだけれど、
わたしはそういう不安定さを含めて身体改造を愛しているのだけれど、
世間一般しては「取り返しのつかないこと」「永遠に残るもの」みたいなイメージが強いようにも思う。

擦りむいた膝小僧がつるんと治ることくらい、うっかり潰した口内炎がいつの間にか跡形もなくなったことくらい、ほとんどのひとが経験済みのはずなのに。なんでなんだろね。

ぼくひとりが、これを好きなだけだよ。

耳を縦に貫通する金属を、金属で縦に貫通された耳を、
わたしは可愛いと思うからそうしている。
鳥皮の串みたいでキュートじゃん。

誰かに圧を掛けたいなら、絵を描く場所をプライベートゾーンの近くにする意味ないじゃない?
わたしは、わたしが「ここに蜥蜴がいたら素敵」と思ったからスカートで隠れる位置にスカリフィケーションしただけだ。

当然それに「縋る」なんて考えたことも無かった。
というか、何かに縋って生きるって発想がそもそも無かった。

スパイの耳はBBQの耳

わたしはあっちこっちに依って生きている。
そりゃもうあっちこっちに。
ただ、それを「縋る」と捉えたことがあっただろうか。思い出せない。
おそらく「何かに縋らないとここにいられない」と感じた場所からは去ってしまうし、「誰かに縋らないとここでは認められない」と察したコミュニティからは去ってしまうせいだろう。
踏ん張って堪えて齧りついてやるぞ、みたいな気概が足りなすぎる。

不完全なものにパッチをあてて、補強材を添えて、そうやって呼吸するのは「それが楽しいから」でしかない。
これは自分が"やっときまりやルールだらけの学校から解放された!"と思えるくらい、
耐えて耐えて高校生活をやりおおせられる生き物ではないせいだ。
ルールに従うと何が楽しいだろう、という発想しかできない。
たぶん何かしら楽しいから早いとこ見つけちゃお~、という。
そんで、「何が楽しいかな」って探すこと自体もうわりと楽しいんだよな。

でもどうやら、そういうのは"普通"っぽくないらしいので
ええと、じゃあ、なんか永遠を願ってますみたいな回答を用意してみようか。なんでそんな穴だらけにしてんのって聞かれたときのために。

自分が"普通"っぽくないこと自体は構わないんだけどさ、
世の中には想像どおりじゃないと不愉快になるひとがそこそこいるらしいじゃん。別に誰かを不愉快にしたいなんて思わないから、なるべく欲しい回答を投げてあげたい。そういう意味で、わたしは普通になりたい。


嘘っこのプロフィールを準備しとくの、スパイ映画みたいでウケんね!


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茶沢くちなわ
見返りはないよ。ただあなたが優しいだけ。