ジジからの気づき
ジジは オスの黒猫。出会ったのは 8年前。
以前のオフィスは 通りに面していて 道端は 時間によっては
有料の駐車スペースになる。
そこに停めてあった 車の下にいたのが 彼だ。
最初に気づいた同僚たちが 外に出たのだが 保護に かなり手こずっていた。
そこで 私が そばに行って「Hi!」と話しかけたら タイヤの後ろ側から
ひょっこり顔を覗かせた。しゃがみこんで そこに手を回すと 彼は私の手のひらの上に乗った。当時の彼は まだそれぐらいのサイズだった。
そして 私が 腕を伸ばして 立ち上がると 今度は 腕を歩いて
肩に乗った。かと思うと 頬擦りしてきた。まるで 懐かしい友人に
あった時のように。
私は 彼に選ばれたのだった。
彼を家に連れて帰るのは 私だった。
仕事が終わるまで 近所に住むセラピストの家に預かってもらうことにした。仕事が終わり 迎えにいくと ミルクでお腹がいっぱいになったようで 寝ていた。
その彼を タオルに包み 腿の上にのせて 40マイルの道を ドライブして 家路に向かった。時間にして 1時間弱。彼は ずっと眠ったままだった。
そんな彼も 8歳になった。
彼は 我が家の唯一の男子。女子たちに遠慮して ほとんどの時間を
外で過ごす。
冬の一番冷え込む日だけ ベッドに来て一緒に寝る。
私としては 毎日でも一緒に寝てほしいのだけれど。
そんな彼を 仕事に行く前に 外でマッサージしていた。
彼は 嬉しくなると ゴロンと横になる。今朝もそうだった。
そして横になった彼に 顔を近づけようと 地面スレスレまで 顔を
下ろした時 あたりに生えている 雑草に目が行った。
そこには 黄色や白の 小さな花をつけた雑草や いくつもの 葉の形の
違う雑草が 生えていた。
雑草と言っても 私が名前を知らないだけで きっとそれぞれに
名前があるに違いない。
その時 こちらの世界と あちらの世界の境界が すっと消えた。
これが 猫たちの世界なんだ。
彼らが 外に出て見ている世界は こんななんだ。
当然のことである。彼らの視線は 私たちのより断然低い。
だから 私たちが家を見ているとき 彼らは縁の下を見ているのだ。
このところ 地面にしゃがみ込むことが ほとんどなかったから
低い視線の世界のことを すっかり忘れていた。
彼が 見ている世界を 少しの間覗くことができて なんだか幸せな
気分になった。
それは 小さな気づきのようで オフィスに到着する頃には 大きな
気づきに変わっていた。
それが何かというと 全ては 目線から起こっているということ。
火星移住計画を 望む人たちの目線は 常に地球の外側に向いている。
一見 エコに見える電気自動車は バッテリーになるリチウム発掘のために 土地を荒らしている。が 彼らの視線は 地球の外を見ているから
地球のダメージは目に入らない。
猫の目線で生きるなら 誰も除草剤など撒かないだろう。
地面の世界は 実はとても豊かな世界だ。
が 人の目線で見ると 自分たちの足元にあるものは 全て邪魔に思えて
くる。
水なら 岩を周りこんで流れるが、人間は その岩を撤去して まっすぐ通れるようにするのだろう。
子供たちが 他の動物たちに近いのも 目線が近いからなのだと思う。
そして 目は見るためだけに ついているわけではない。
目は 見るということよりも 相手と通じ合うための 心の窓なのだ。
水中で イルカと目があった時、そして 少し前に旅立ってしまったが ずっと一緒に暮らしていた猫と 目があった時。そこには 言語のようなものはなかったが 確かに お互いの存在を 感じ合い 確認しあっていた。そこには 過去も未来もなく 永遠の今だけがあった。
ほんの少し前までは 私たちは 自由自在に目線を変えあらゆる違いを乗り越えて わかることができた。
その後、私たちの生活には 技術の発展とともに 目で見る娯楽が どんどん増えていった。そして いつしか 空を飛ぶ鳥や 大海原を旅する鯨や 地面の下のミミズたちの目線を 忘れてしまった。
人間は見ることに どんどん夢中になっていったのだが 夢中になるものを 間違えてしまったようだ。
画面で見る世界の方が 画面の外の世界よりも 魅力的になってしまった。
だから 画面の中から送られてくるメッセージは 信じられるが 画面の
外から 発せられるメッセージは 信じられないのだ。
相手を 何かをわかろうとするとき そのものの目線まで降りていくと あるいは上っていくと そのものの発言や行動を 理解できる。
問題が起こった視線で 問題は解決できない。
世界はたくさんの層からなっているが故に 私たちは目線を利用して
そこを流動的に 自由に行き来するべきだ。何しろ 私たちは 水分から
なっているのだから 乾いて動きを失うことは 致命的だ。
早朝 少し肌寒かったので 最近新調した 長袖の ウェットスーツを
着て 波乗りに行くことにした。
薄暗い部屋の中 鏡の前で 袖と脚を通し 胸元のジッパーをしめると
どこからともなく 「赤コーナー、、、、」と マイクを通したような
声が聞こえた。
確かに ウェットの 脚周りの仕上げだけ見るなら 一昔前の レスリングのレオタードに 見えないでもない(笑)。
じゃあ 赤コーナー 行ってきます!
だけど レスラーの目線がわからない😂