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大根葉かくとうの記

 眩しいくらい白くて、立派な大根。その頭には、青々としげる葉っぱ。つい今しがた、土から出てきた生命のみずみずしさが、きらめいている。

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 祖父は、毎朝早くに畑仕事に向かう。こだわりの畑は、無農薬で有機肥料が自慢らしい。春には苺、夏には茄子に胡瓜、秋はサツマイモとカボチャ。新鮮で、美しい野菜を育てる祖父の手が、昔から好きだった。
 この冬の大根は、とても立派に育ったらしい。祖母に呼ばれて、二世帯住宅の一階、祖父母のキッチンに行くと、山のように籠に積まれた大根たちが迎えてくれた。
「いっぱいあってねぇ。もうあっちのおばさんにも、こっちのおばさんにも、おすそ分けしたのにねぇ」
 少しだけ困ったように、祖母が笑う。
 ありがたく、ご相伴にあずかることにした。
「ああ、大根がちゃんとお嫁に行ってよかったわぁ」
 〇〇ちゃんは、料理がうまいからねぇ。と祖母が言う。本当に料理上手な祖母にそう言われてしまえば、うれしいような、恥ずかしいような。むずがゆい気持ちになる。

 よっこいせ。二階のキッチンに大根を運ぶ。ずっしり重くて、ひんやり冷たい。見るからに、おいしそう。
 さぁ、なににしようか。頭をひねる。
 定番は、豚バラと炒め煮にして甘辛く。それともおでん、あるいはふろふき大根。薄くスライスしてお鍋にしても良い。大根の皮はポン酢で漬けて一品になるし、お味噌汁に混ぜても美味しい。大根サラダはしゃっきりしていて、ぱくぱくと食べられる。
 籠いっぱいに、積まれた大根。新聞紙に包んで、涼しいところに置いていれば、保存も利く。
 しばらくは、大根を買わずに済みそうだ。

 だけれども、問題はこの菜っ葉。ふさふさと、元気よく、めいっぱい太陽に伸ばされた青。大根葉は、栄養素も非常に高いと聞く。
 大根は保つが、菜っ葉はそういうわけにもいかない。
 腕を捲ってひと仕事、気合を入れる。大量の大根葉との格闘が始まった。

 まずは、定番の菜飯。祖母が昔、よく作ってくれた懐かしの味。湯がいて、塩で揉む。ごまと一緒にご飯に混ぜ込む。
 次は、少し捻って大根葉ふりかけ。茹でたものを、みじん切りにしてごま油で香ばしく炒める。胡麻と、じゃこ、醤油やみりんを加えて、からりとするまで炒めて完成。
 翌日は、このふりかけをアレンジして味を変える。ラー油、食べるラー油、刻んだメンマ。それと、正味シャンタンで中華風に。ピリ辛ふりかけは、ご飯が進む。

 さあて、まだまだ。

 手始めに、茹でて絞って、醤油をかければおひたしの出来上がり。ほうれん草の高いこの頃、青菜がたくさん取れるのは身体に嬉しい。
 次は油揚げと一緒に出汁と醤油で炊く。鰹節を散らせば、優しい味は副菜にちょうどいい。ツナも一緒に炊けばボリュームアップだが、今回はヘルシー志向のため、おやすみ。
 和食に飽きてきたならば、次は変わり種のペペロンチーノ風炒め。唐辛子とにんにく、それにベーコンの香りが胃袋を刺激する。少し苦みのある大根葉とも意外と相性がいいことは、あまり知られていない。

 極めつけは、全部まとめてお漬物に。シャクシャクとした歯ざわりが心地良い。それでもだめなら、残りは湯がいて冷凍庫へ。味噌汁や中華風スープの彩りになる。

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 菜っ葉を茹でると美しい緑色になる。色止めに冷水に浸けて、冷やす。茹でては、冷やす。茹でる、冷やす。大きな鍋に、ぐつぐつと。固い根本の方から先に茹でて、葉先はあとから。

 寒い冬の部屋に、大根葉の匂いが立ち込める。湯気がもうもうと上がる。台所仕事は、無心になれていい。鍋の前に椅子を置いて、ぼんやりと湯気を眺める時間は、何物にも代えがたいと思う。
 そうして出来た、大根葉料理たち。作り置きを副菜にすれば、食卓の彩が増える。働いた分だけ、お夕飯の準備が楽になるのはうれしい。

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 冬の寒さ、土の中でため込んだ命を頂くこと。不足しがちな野菜を、これだけいっぱい食べられること。祖父にも、自然にも、本当に頭が上がらない。

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