電波に乗った魔法使いに魔法をかけられた夜。(中村佳穂20200912WEBWIRE)
中村佳穂さんを知ったのは、たしか今年の四月だった。
最初に立ち止まったのは、youtubeで流れてきた『アイアム主人公』。
リズムと伸びやかで不思議な魅力を持った声、どこか斜に構えたようで、やっぱりまっすぐ前を見つめるような言葉。
それは例えば、ふらふらと遊ぶ女の子の、自由に舞う手の、その指先の軌道を自然と目で追ってしまうような。いつまでも見ていられるような、そういう魅力。
それから、すぐさま配信されているアルバムを聴いた。
どの曲も、心をつかんで離さない。
時に踊るように跳ねるピアノの音。まるで両腕を強く掴んで、一緒に踊っているような。外へとかかる体重と重力を感じながら、それでも離れることの無い、幼いころのあの感覚。
そして時に、静かな子守歌のように寄り添って、となりで手を握っている。まるで長いこと一緒にいる友人のように。
だけど何よりも私を引き付けたのは、youtubeで見た彼女のLIVE映像だった。
アルバムとはまるで違う表情を見せる曲。そしてそれを奏でるバンドの、中村佳穂さんの、生命力の爆発。
眼鏡とくるんとしたショートカットと、そして何より楽しそうに歌うその表情に魅せられた。画面越しでも伝わってくるパワーに、気圧された。
心底ライブに行きたいと思ったのは、随分と久しぶりのことだった。
〇
五月に予定されていたLIVEのチケットは、結局払い戻すことになった。コロナの影響はいつまでも尾を引いて、私たちの生活に漠然とした不安を張り付かせている。
春も、初夏も、盛夏も過ぎて。もう秋の入り口に立つ。
いけなかったライブのことをすっかり忘れたころに、彼女がweb配信でLIVEをすることを知った。
〇
それで。
私は今彼女のLIVE映像を見終わった後に、この文章を書いている。
この上までは、見る前に用意した文章だ。
本当はうまく言葉にできればいいんだけれど、どうすればこの感動が伝わるのか分からない。
中村佳穂のwebliveはすさまじかった。
自由に動き回る手、美しい映像、音楽、音、ピアノを叩く、その振動まで伝わりそうな距離。
あまりに自由に飛ぶ音たちは、蝶か、軌道の読めないシャボン玉。くるくる回る駒。
私は音楽に詳しくないけれど、音楽が人間を生かして、人が言葉の前に踊り歌っていたのだと、魂が呼び起こされるような思いがした。
これはLIVEというよりも、一冊の本や、一本のミュージカルや、あるいは一晩の夢ではないだろうか。彼女の中の物語を、共に旅したような、遠くまで手を引いて連れて行ってもらったような、そういう経験だった。
彼女の感情と身体がきちんと接続されていることが、画面越しでも伝わってきた。そこに宿る生命力は、青々と茂る若葉を見たときの、清々しさを連れてくる。
気付けば泣きながら笑っていた。おかしくて、うれしくて、かなしくて。
音楽は魔法のようだ。
私は今晩、電波に乗った魔法使いに、解けない魔法をかけられた。
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LIVE映像は見逃し配信中。最高だったので、ぜひ。
以下でチケットを購入すれば、十日間何度でも見放題です。
公式ツイートをRTすると視聴も出来るそうです。
AINOU STAFFさん公式noteはこちら。
CMまで最高でした。