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3年連続で監督を途中解任。今、浦和に必要なのは?

今季のJリーグでは、すでにいくつかのクラブで監督交代が起こっている。

千葉(エスナイデル氏→江尻篤彦氏)
新潟(片渕浩一郎氏→吉永一明氏)
神戸(リージョ氏→吉田孝行氏)
鳥栖(カレーラス氏→金明輝氏)
清水(ヨンソン氏→篠田善之氏)
横浜FC(タヴァレス氏→下平隆宏氏)
そして28日、浦和がオズワルド・オリヴェイラ氏を解任し(同時にスタッフ2名も解任)、大槻毅前ヘッドコーチを後任に充てると発表した。神戸、鳥栖に続いてのA氏⇒B氏⇒A氏型の交代劇だ。
シーズン途中で外部からの招聘は難しく、とりあえず内部の人間に任せようという場合があり、前回の大槻氏はあくまでオリヴェイラ氏就任までのつなぎで暫定監督だった。だが、今回は「後任」であり、正式な監督就任となる。

今季途中からフロント入りしていた大槻氏

昨季、暫定監督就任後はオールバックにスーツ姿で指揮を執り、風貌から「組長」「アウトレイジ」と呼ばれて親しまれたが、成績もルヴァン杯1勝1分、リーグ戦3勝1分と無敗でオリベイラ氏にバトンを渡したことも評価が高かった。

浦和レッズのアウトレイジ!名将、大槻毅氏が監督にみえないと話題に・・・ - NAVER まとめ
https://matome.naver.jp/odai/2152395024525097701

その後もヘッドコーチとしてベンチ入りしていたが、今年3月8日に退任。現場から離れ、立ち上がった「海外クラブとのネットワーク構築推進プロジェクト」の責任者に"抜擢"される形で配置転換されていた。
このプロジェクトは、浦和がさらに発展し、「あらゆる分野でアジアナンバー1」になるというビジョンを実現し、世界でも活躍するクラブとなるために発足したとされ、「海外クラブの知見蓄積とネットワークづくり、指導現場における協力関係づくりを進めて行く」としていた。
中村修三GMは「プロジェクトを担う重要な人材として、今回、指導者としても優秀で実績のある大槻氏を抜擢いたしました」とコメントし、並々ならぬ意欲を示していた。
だが、わずか3ヵ月足らずでその大事な新プロジェクトの中心人物を現場に戻す決断をした。本当にこのプロジェクトが先々に繋がる大事なものならば、普通はその中心にいる人を"ケツ持ち"で現場復帰させるのはおかしな話。
考えてみれば、3月8日というのはすでにJリーグが始まっていて、札幌に0-2で敗れた後。シーズン中に唐突にプロジェクトが立ち上がった感は否めなかった。もしかしたら実は、このプロジェクトはヘッドコーチを外れた大槻氏をクラブ内にとどめるために設けられたものでは、と邪推したが、今朝の日刊スポーツによると、そのとおりだったようだ。

一度外した大槻氏に頭下げる 浦和監督交代の裏側(日刊スポーツ) - Yahoo!ニュース
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190529-05290052-nksports-socc

ユース時代から慕う人がいたら、そりゃ若い選手は話しかけやすいだろう。オリヴェイラ氏が大槻氏をヘッドコーチから外せと迫ったという話が本当なら、「なぜ大槻氏の存在を上手く利用しようとしなかったのか」と残念に思う。
昨年4月に発表されたオリヴェイラ体制は、ヘッドコーチ2人という珍しいものだった。大槻氏とともに、オリヴェイラ氏が鹿島を率いていた時代にGKコーチだったルイス・アルベルト・シルバ氏もヘッドコーチとなったのだ。

オリヴェイラ氏が子飼いの人物をヘッドコーチに据えようとしたら、フロントが選手やサポーターから人気がある大槻氏もヘッドコーチにしたがって、併用となったのだろうか。こういうあたりからすでに、ギクシャクした感はあった。
ところで、「海外クラブとのネットワーク構築推進プロジェクト」はどうなるのか。もちろん、プロジェクトの趣旨は真っ当で、今後浦和に必要なものであるのは間違いないはず。浦和サポーターは、このプロジェクトが今後どうなるのかも注視すべきだろう。もし、このまま立ち消えならば、やはり大槻氏を"一時避難"させるための場所だったということになる。

3年連続して監督を途中解任

他のクラブのサポーターから見たら、贅沢な話である。


これは浦和サポのツイートだが、タイトルを取った翌年にあっさりクビというのが3年連続である。もうちょっと辛抱できんのか、と思わなくもない(そのおかげで、ミシャさんが札幌に来てくれたわけだが……)。「フロントは過去2年から何も学んでいない」という批判の声も上がっている。フロントが抜本的なチーム改革プランを構築できないままで来ているのは問題だ。そもそも、大槻氏が暫定監督という扱いだったのも、ユースに欠かせない人だから、ということだったのになぜかオリヴェイラ氏就任後もヘッドコーチで残したり、一貫性に欠けている。
ただ、今季のオリヴェイラサッカーには停滞感があった。ホームでの勝利はイニエスタが来なかったヴィッセル神戸戦のみ。2チーム分の戦力を誇りながらも、実際はチームの中に競争は少なくほぼメンバー固定。采配の妙も感じられず、先日のサンフレッチェ広島戦は相手に翻弄されて4失点で完敗し、チームは勝ち点17で11位。
案外、戦術の引き出しが少なく、このまま終わるのは避けたい--と、フロントが考えたとしても、まあ不思議ない。

今、浦和に必要なのはモチベーター

今季、序盤降格圏に低迷していたサガン鳥栖は、監督をルイス・カレーラス氏から金明輝氏に戻した。金氏は、練習から選手の士気を高めてピッチに送り出し、適度にメンバーを入れ替えて競争を煽り、パフォーマンスを引き出して順位を上昇させ、降格圏脱出に成功した。
一方、戦力は異常なほど高いのに、順位が上がらないヴィッセル神戸も、フアン・マヌエル・リージョ氏を解任して吉田孝行氏を復帰させたが、成績はあまり変わらず13位で、サガン鳥栖に勝ち点で並ばれてしまった。
監督の能力はいろいろな尺度で語られるが、2人の差はモチベーターとしての差ではないか。もちろん、神戸の不振の理由のひとつは、目玉のはずの外国人選手に故障やコンディション不良が続いて、なかなかベストメンバーが組めていないことだが、それでもチームとしての一体感が欠けているように感じる。うまく選手を乗せれば、もっと凄いパフォーマンスを出すのでは、と思う。
浦和レッズも、前述のように停滞感があるだけに、今、必要なのはチームの能力を最大限に引き出せるモチベーターだ。そういう点では、大槻氏は打ってつけ。暫定監督時代の6試合は熱かった。2018年J1リーグ第8節清水エスパルス戦のマッチデープログラムにおける大槻監督の言葉。

「仙台戦の前にも選手たちに言いました。
勝っていても負けていても同点でも、どんなに苦しい状態でも戦いなさい、走りなさい。
そうすれば、この埼玉スタジアムは絶対に我々の味方になってくれる。
そういう姿勢を見せずして、応援してもらおうと思うのは間違っている。
ファン・サポーターのみなさんは、選手たちが戦うところを見に来ているし、浦和レッズのために何かをやってくれるところを見に来ている。
埼スタが熱く応援してくれているのは、我々が戦っている証だ。
それだけは絶対に忘れてはいけない、と。」

昨季、開幕から出場がなくベンチ入りも2試合にとどまっていたベテランの平川を第6節のベガルタ仙台戦で抜擢し、スタメンを託した時は「経験のある選手がプレーで示すのは当たり前。プラスアルファを試合に出してもらわないと困る」と鼓舞して堅実な仕事をさせた。
その仙台戦でのハーフタイムコメントは

「シュートを撃て!ゴールに突き刺せ!」

いかにもな短いコメントだが、選手には強烈なメッセージとして伝わっただろう。また、この試合中には簡単に倒れた菊池に対して「やれよお前! こけてんじゃねえよお前!」と怒鳴りつけて、直後に交代。気持ちを見せない選手はすぐにベンチに下げる徹底ぶりを見せた。
ベテランと同時に、トップ昇格1年目の橋岡をスタメンに起用したり、年齢などは関係なく選手をうまく競争させて試合に使うことで浦和の成績はV字回復した。橋岡は中3日で連続フル出場し、清水エスパルス戦では終盤足をつって倒れこんだりしたが、大槻監督は「彼は走れます。足がつっても走れます。今、あのモビリティーがチームにないと厳しいと考えています」とコメント。こう言われて意気に感じないわけがない。
荻原は「あの人の言葉には、いつも信頼や期待が込められている」「あの人のために、と思わせてくれる監督」と言う。天皇杯の準決勝、決勝ではオリヴェイラ氏もモチベーターとしての力を見せたが、今季のリーグ戦に入ったらそのエネルギーが感じられなくなった。
戦力は十分にある浦和に、今必要なのはモチベーター型の指導者でブーストをかけることだ。

分析力も優れている大槻氏

大槻氏は宮城県仙台市出身で、筑波大を卒業後、宮城県富谷高等学校で教諭を務めながらJFL・ソニー仙台FCなどでプレー。退職後も複数のJリーグクラブでコーチを歴任し、2011年に地元クラブのベガルタ仙台のヘッドコーチに就任。データを駆使した分析のスペシャリストとして仙台のリーグ4位という好成績に貢献した。
例のこわもてなファッションについて、「僕は見た目で判断することは好きではないですが、見た目が非常に重要であることも理解しています。こういうクラブの代表として、顔として仕事をするときに、しっかりとそういったところは、何かしらスイッチを入れたいという意図はありました」と取材に答えている。あの組長スタイルも、考えられたものなのだ。
暫定監督の時も、相手の苦手な陣形を考えて各ポジションの枚数を変えたりするなどして成果を出していた。昨季はエキセントリックな風貌ばかり話題になったが、徹底した分析に基づいた戦術的な面でも面白い監督だと思うので、今度はサッカーそのものにも注目してほしい。

フロントはしっかりせよ

今回のオリヴェイラ氏電撃解任からの大槻監督就任は、大槻氏就任そのものには好意的な声が多いものの、フロントの挙動にはサポーターから不安の声が上がっている。
まあ、どう見ても行き当たりばったりである。午後になり、中村GMの声が伝わってきた。

いや、そこは迷えよと(苦笑)。ご自身が意欲満々に立ち上げたはずのプロジェクトは、やはり大槻氏を外部流出させないためだけのものだったことを認めたようなものだ。
たくさんの監督の売り込みは、本当にあったのか。

2008年のオジェック監督解任、エンゲルスコーチ昇格の時と似たような感じか。常勝軍団復活へ、中長期的な目線で考えたうえでの監督交代なのかどうか。そもそも、中村GM復活の時も、重工vs自動車の派閥争いの産物という陰口があった。今回の監督交代も、三菱内のゴタゴタが出てきた結果でなければいいが。
監督の風貌がアウトレイジとか言う分にはいいが、グループ内の暗闘は遠慮してもらいたい。

大槻新監督が練習後に会見

今日から3日間の練習は非公開に変更されたので、練習で指揮を執る大槻新監督の姿は見ることができない。6月1日のアウェー川崎フロンターレ戦まで待たねばならない。
監督就任後最初の練習を終えてから、大槻監督が会見に現れた。

初日の練習では「こうなっていることを我々は認識しなければいけない。危機感を持っていますか? 危機感を持たざるを得ませんよね。だけど、それで心がざわついてはいけない。いろんな想いがあるのは十分に分かるけど、そのなかでも落ち着いて次の準備をしようと、中に秘めている想いをきちんと表現してください」と選手たちに伝えたという。さらに「クラブの目標は変わらない。それに対して我々はどう取り組むのか」とモチベーションを高めた。

丁寧な言葉だが、熱さが伝わってくる。6月1日の試合は午後7時キックオフで、偶然にもNHK BS1での中継が予定されており、新監督のファーストゲームは全国中継される。戦術も面白いと書いたものの、やはり等々力にどんな姿で現れるのかも気になるところだ。
「大槻組長 令和篇」が始まるのかどうか。8月10日の札幌ドームでは、マフィアの親分が大槻組長との抗争第2章を待っている。


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大場 礼
地元網走に帰ってきて5年半経ちました。元競馬専門紙編集部員。サッカーや野球、冬はカーリングなどスポーツ観戦が好き。もちろん、競馬も話題にしています。時事ネタや網走周辺の話題なども取り上げます。よろしければ、サポートもお願いいたします。