国債先物における板寄せ不成立:2022年6月13日のケース

前回は板寄せ全般について説明を行いましたが、前回冒頭で説明したとおり、国債先物市場において、6月13日に板寄せが不成立になりました。今回は6月13日にどういうことが起こったかを説明しようと思います。

実は、 取引所には、「即時約定可能値幅制度(DCB値幅制度)」と呼ばれるルールがあり、こちらが板寄せ時でも適用されます。JPXの説明は下記のようになっています。

立会開始時における板寄せ方式による取引(オープニング・オークション。以下、取引の停止及びサーキット・ブレーカー発動による取引の一時中断後の取引再開時における板寄せ方式による取引等を含む。)及びレギュラー・セッション(ザラバ)において、直前のDCB基準値段からDCB値幅を超えて取引が成立する場合に、取引の一時中断 を行います。

また、取引の一時中断から一定時間(注1)経過後の対当値段がDCB値幅の範囲外である場合には、取引の中断を継続し、原則として、対当値段に最も近接する当該DCB値幅内の呼値可能な値段にDCB基準値段を更新します。一定時間経過後の対当値段がDCB値幅の範囲内である場合は、取引を再開し、板寄せを行います。立会終了時における板寄せ方式による取引(クロージング・オークション)においては、対当値段が直前のDCB基準値段からDCB値幅を超える場合には、取引を成立させないものとします。

(注1)即時約定可能値幅制度の中断時間は、最低30秒(指数オプション取引は最低15秒)で、継続してDCBが発動する場合は、中断時間が30秒ずつ(同15秒ずつ)延長されます。
https://www.jpx.co.jp/derivatives/rules/price-range/


これを読むと、直前のDCB基準価格から一定の幅(DCB値幅)が動いた場合、このルールが適用されるということがわかります。下記の図はJPXのウェブサイトの資料を抜粋したものですが、これをみてもらうと、DCB値幅は①オープニング・オークション、②ザラバ、③クロージング・オークション毎に値幅が定められており、長期国債先物の場合、15時から始まるクロージング・オークションについては上下10銭であることがわかります。先ほど説明したとおり、取引が成立しない場合とは「直前のDCB基準値段からDCB値幅を超えて取引が成立する場合」になりますが、「DCB基準値」とは、板寄せの直前のBBO(ベストアスクとベストビットの仲値)または直近約定値段です。


さて、当日はどういう流れであったかというと、まずクロージング・オークションの直前の最終約定値段は149.08円でしたが、クロージング・オークション開始までにDCBの基準となる値段が149.00円となりました。こちらは直近のBBO仲値が採用されたものと思われます 。その後、15時から15時02分の間に何が起きたかは不明ですが、大口の買い注文が入ってクロージング・オークションの対当値段が149.15円ほどとなったことで引けのDCB値幅10銭を超えたため、値幅外となり約定が不成立となった、ということのようです 。結果として、終値および清算値段はクロージング・オークション直前の149.08円となっています。前回の文章で説明したとおり、15時からの2分間の間に投資家は注文を入れることができますから、この2分間で大口の注文が入ることで価格が大きく上下するということはありえます。

(参考)
※原則として、直近の注文により約定が発生した直後の注文にはLast Priceを、それ以外の注文にはBBO仲値をDCB基準値段として採用し、クロージング・オークションに適用されるDCB基準値段にBBO仲値が採用される場合、レギュラー・セッションにおける最終のBBO仲値となります。ただし、直近の最良買い呼値と最良売り呼値が一定値幅(MAX SPREAD)を超えて乖離する場合など、注文の状況によってはBBO仲値を採用せず、直前のDCB基準値段が継続する場合があります。当取引日においてLast Price又はBBO仲値がない場合は、当取引日の呼値の制限値幅の基準値段をDCB基準値段とします。
https://www.jpx.co.jp/derivatives/rules/price-range/

読者の中には、こういう制度が設けられていることが少々不思議に思うかもしれません。たしかに、もし投資家が15時のようにあるタイミングで売買を集中させるなら、大きく価格が動いたタイミングで売買が成立したとしても、それがフェアなプライスであるという考え方もできます。もっとも、そもそもDCBがダイナミック・サーキット・ブレーカーであることからもわかるとおり、短期的に大きな動きをした場合、取引をとめるサーキット・ブレーカーという制度ですから、あまり大きく動いたら市場を落ち着かせるという観点で、10銭という基準が設けられているのだとおもいます。また、通常は取引最終日の当限の流動性は薄くなりますので、この値幅が広すぎると操作ができてしまい、市場参加者が思ってもみなかった値段で受渡価格が決まってしまうというリスクもあるでしょう。実際、6月13日は6月限の最終取引日であったということも重要な点です。このようなことは頻繁に起こるものではなく、実際に、クロージング・オークションでこの10銭にヒットしたケースはほとんど過去にも例がないということでした。

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