連作小説【シロイハナ】6

僕の家はいわゆるお金持ちの家庭だった。とんでもなくたくさんお金があったわけではないが、一般的なサラリーマンの家庭よりはかなり裕福な暮らしをしていたと思う。父は小さいながらも広告代理店を経営しており、それこそ寝る間も惜しんで働いてくれていた。僕たちが家を出る頃にはまだ眠っていて、朝食を一緒にとることはなかったし、その分夜中まで働いていたから、学校から帰ってきても家にはほとんどいなかった。

小さい頃はわからなかったが、大きくなってから父に「あの頃はいつも家に帰るとお前たちはもう寝ててさ、だけど、その寝顔がもう可愛くって可愛くって、こいつらのためにも頑張らないとなって思わされたもんだよ。ほんとお前たちは自慢の息子だよ。」なんて言われたときには、ちょっと泣いた。

なかなか平日に会うことはできなかったけれど、その分休みのときにはたっくさん遊んでもらった。公園にもたくさん行ったし、遊園地にも行った。キャッチボールだってたくさんしたし、実は父さんよりも母さんのほうが肩が強いと知ったときは、びっくりしたし、めっちゃ笑った。幼いときの記憶は幸せな記憶しかない。本当に幸せ者だった。愛されてた。

そんな両親に喜んでもらうために勉強だってがんばった。スポーツだってがんばった。小学校の頃から、毎年毎年学級の代表を務めるとすっごい嬉しそうな顔をしてくれたし、生徒会の会長をやったときだって、今までにないくらい嬉しそうな顔をしてくれた。今だから言えるけど、正直そんなにやりたくなかったし、だって、仕事増えるし、自分の時間とられるし、何かとめんどくさいし、他の模範に、、なんて言われて、振り返り様に肘が当たって教室の窓ガラスを割ったときには、生徒会室で生徒指導のドンみたいな先生からこっぴどくお叱りを受けるし、他の模範、他の模範って、、、ほんとはうんざりだった。だけど、二人の喜ぶあの幸せそうな顔を思い浮かべると、なんでもできた。幸せそうな満面の笑み。二人がお揃いのセーターを着て、微笑んでくれているあの感じ。気付いたらスッと手が挙がって、僕がやりますって。なんでも言えた。そんな幸せな日々がこれからもずっと続くと思っていた。たしかに続くと思っていた。だけど、中学卒業を控えたあの冬、その日常は悪夢へと姿を変えた。

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