連作小説【シロイハナ】11

弟ほど負けず嫌いな生き物がこの世に存在するのだろうか。小さい頃はそう思っていた。僕たちがまだ小学生の頃、週末を迎えると両親と家族4人で、近所のショッピングモールへと買い物に行った。


小学生の僕たちからすると買い物は苦痛でしかない。暇だ。暇だ。暇だ。「ねぇ、早く家に帰ってゲームがしたい!」「はやくはやく!」「静かにしなさい!」両親としては小さいこどもを家においておくわけにはいかない。僕たちがなんと言おうと、地面を引きずり抱き抱え、たとえ顔を叩かれようとも一緒につれて家を出た


あることに気づいた。これだ。「この子たちを夢中にさせればいいのか。」両親は顔を合わせる。そのショッピングモールには、ゲームセンターがあった。そしてその一角に、卓球コーナーがある。そこには6台の卓球台が横一列に並べてあり、時間制でこれを利用することができる。僕たちはゲームも好きだが、それ以上にスポーツが大好きだった。


僕と弟はとにかくスポーツが大好きだった。自宅でゲームをするのも好きだ。だけど、それと同じくらい、いや、それを越えるほどスポーツをするのが大好きだった。得意だった。大袈裟に聞こえるかもしれないが、どんなサイズのボールでも、ボール1個さえ持たせれば、時間を忘れて二人で一緒にいつまでもいつまでも遊んでいた。


そんな僕たちに丁寧に卓球台とラケットとピンポン玉が渡されたのである。それはそれは夢中になって遊んだ。両親も心置きなく買い物ができる。すこし早めに買い物を終えて、こどもたちの遊ぶ姿を見守ることもできる。双方にとっていいことづくめの提案だった。


ただ、ここで問題が発生する。 天性の負けず嫌いがいた。何を隠そう弟は正真正銘の負けず嫌いだった。弟とは2つ年が離れている。もちろん、体格も僕のほうが大きいし、スポーツに打ち込んだ年数も、僕のほうが長い。年齢が違うのだから当たり前のことである。どんなスポーツをやろうと僕のほうが強いのだ。


ウォーミングアップでラリーを続けていると「試合やろー!」となる。 「いいよ!手加減しないからな!」というと大抵は僕が勝つ。そうすると弟は駄々を捏ねる。「わかったわかった。もう一回やろう。」すこしてかげんをして勝たせてやる。「手加減したでしよ!本気でやってよ!」と駄々を捏ねる。本気でやる。僕が勝つ。ただをこねる。案の定この繰り返し。両親が迎えにくる頃にいつも弟は泣いていた。「どうしたの!?」両親はびっくりだ。


あれから数年がたち、社会人となった僕たちが、休日にカラオケ店に遊びに行く。2時間ほど歌い、終了10分前の電話が掛かってくる。「わかりましたー。」上着を羽織り家に帰ろうと部屋を後にする。お会計を済ませたあと、ふと卓球コーナーが目に入った。弟と目を合わせる。「ひさしぶりにやっててみるか!」「ひさし
ぶりだな!」「1時間ね。」店を出ようと着た上着を脱ぎコートに入る。「さあ、いくぞ!」「いいよー。」



手加減する暇なんて1秒もなかった。

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