連作小説【シロイハナ】8

高校生活の3年間は最悪の日々だった。紛れもなく人生最悪の日々だった。原因は他の誰でもなく自分にあった。僕は地元ではそれなりに有名な進学校へと入学した。トップとまでは言わないが2番目に頭の良いと言われている学校に入学した。入学するときはそれはそれは意気揚々とした。もう楽しみで楽しみで仕方がなかった。どんな友達に出会えるのだろうか。どんな先生がいるのだろうか。高校生ってなんだか少し大人な気がする。どんな学校生活が待っているのだろうか。きっと好きな人ができるんだろな。入学式の前日なんて、興奮して眠れないくらい翌日が楽しみで楽しみで。制服こそ着るものの、好きなバッグを持っていけるし、好きな靴で学校にいける。靴下の指定だってないし、髪型だって自由だ。もう、気分は最高だった。「中学のとき勉強を頑張ってよかった。」「この高校を選んでよかった。」と、そのときは心の底からそう思った。



ただ、現実は辛かった。3年間こんなにも頭の片隅から「勉強」の二文字が離れないことがこんなにも辛いことだとは想像してなかった。中学のときからずっと独学で勉強をしてきた。塾に通ったことがあるのは、夏期講習や冬期講習といった短い期間だけ。それでも成績を取ることができた。通知表の成績は3年生が終わる頃にはいわゆる「オール5」だったし、定期テストの順位も常に学年の上位10%に入っていた。そこまで自分を追い込んで頑張った記憶はないが、提出物に書き込みをして、毎回好評価を受けたり、真面目ではあったから授業態度を評価してもらえたり、通知表の点数で自分を評価してもらうことがとにかく得意だった。何よりもその成績を両親に見せて喜んでもらえるその笑顔がとても好きだった。勉強のやり方だってそんなに工夫することもなかったし、なんでも丸暗記することができた。思い返せば、それは中学レベルの勉強だからできたことだった。



高校ではそうはならなかった。もう二度とあの日々には戻りたくない。本当に戻りたくない。もし戻ることができるのなら勉強なんてもう一秒もしたくない。上には上がいた。その言葉を身をもって実感したのが高校時代だ。もともと地元のトップ校に進学をしようと思っていたが、「トップ校にいくとさすがに落ちぶれる。」「あそこは根っから勉強ができる宇宙人みたいな奴らがいくところだ。」と、1つランクを下げていわゆる2番手校を選んだ。ただ、そういう考えをしたのはどうやら僕だけではなかったらしい。いざ、入学してみると周りは勉強ができる奴らばかりだった。休み時間こそふざけて遊んだり、おしゃべりをしたりしているものの、授業になると皆それはそれは真剣に取り組みはじめる。中には、授業中はずっと寝てるのにテストの点数がめちゃめちゃ高い奴もいた。なんだここ。自分じゃ到底歯が立たない。大した勉強量をこなすこともなく、早々と勉強することを諦めようと思った。



そのまま素直に諦めて、いっそのこと吹っ切れてくれたらもっとよかった。「さぁ、青春を謳歌しよう!」とスイッチをバチンと切り替えることができたらまだよかった。「学校で過ごす青春の日々は今しか味わうことができない。勉強は大人になってからでもいつでもできる。俺は青春を味わうのだ。噛み締めるのだ。」
いっそのことそう思ってほしかった。吹っ切れていてほしかった。ぶっ飛んでいてほしかった。



ただ、僕にはそれすらできなかった。中学の頃にそれなりに勉強ができたというプライドが邪魔をして、心の中では諦めようとしているのに、現実の行動はそうはならなかった。結果、部活動も文化祭も勉強も恋愛も何もかも身が入らず中途半端に終わり、何一つとして成し遂げることができなかった。



好きなベルトをして、好きな靴下を履いて、好きなバッグをもち、好きな髪型で、好きなマフラーを巻いて、好きな靴を履いて、頭の良い友達と一緒に登校できる毎日がこんなにも辛いものになるとは、これっぽっちも思っていなかった。


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