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(仮説) YoutubeとTVゲームで育つ時代の「アスリートの知性」

ネットの影響の1つに、スポーツの技術・戦術などの高度化がある。しかも世界同時進行で、加速度を上げながら。この環境変化は、アスリートに、思考力と主体性を求めていると思う。

この変化がスポーツで起きているのは、映像や数字を介して、感情にダイレクトに伝わるものだから。論理と言葉が(それほどには)要らないから。ゆえに言葉の壁を超え世界中に一気に拡がるから。その条件が重なるのなら、いろいろな分野で、こうなってゆくだろう。

(※個人的仮説を整理する目的の、なにかヒントあればご参考に、という程度の私的文書です。note公式「編集部のおすすめ」に採用いただきました→  https://note.mu/recommend )

サッカー・ベルギー代表FWルカクの「客観視」

両チーム入り乱れる対戦型チーム競技(ラグビーとか)で「情報による高度化」が進んでいるのは、わかりやすいだろう。

(適切な例である自信は全くないのだけど)1つ例をあげてみると、サッカーワールドカップ2018日本・ベルギー戦の決勝ゴール直前14秒を素材に1つの番組を作ったのがNHKスペシャル「ロストフの14秒 日本vs.ベルギー 知られざる物語」(2018年12月8日)だ。

概要はこちらブログからわかる。FWルカクは、決定的なパスをノールックでスルー。その一瞬、監督が「決定機のがした!」とアタマ抱える。監督とはフィールド上で最も客観視できていそうな立場で、もちろん経験量も圧倒的に多く、それでも見えていなかったチャンスが、ルカクには見えていたということだ。なぜか?

ルカクは、カウンター攻撃開始直後、「シャドリが自分の背中を走っており、日本チームのマークはいない」という敵味方の位置関係を把握していた。そこからボールを追い走りながら、「オレがスルーすれば、フリーでシャドリに渡るはず」と最新位置を脳内シミュレーションしていたのだった。このドローン上空撮影の如き俯瞰力が、監督よりも見えていないはずの位置のルカクに、一瞬で正確な判断ができた理由。実際シャドリはイメージ通りにフリーでいて、決勝点につながった。

これだけのことを大一番のミスの許されない一瞬で実行しきる。漫画か。てゆうか漫画だと設定複雑すぎて説明難しいか。年俸だけで年20億円を稼ぐスターはすごい。

ここから先は僕の勝手な想像だけど、これ、Youtubeとかで試合映像を見慣れていたから想像できた面あるのでは?と思ったわけだ。それにより、上空からフィールドを俯瞰する「脳内視野」を獲得した。脳内に試合映像のデータベースが十分にあって、プレー中にアクセス可能なのであれば、脳内視野を自由に使いこなせるだろうから。もちろん同時に、幼少期からの指導の質、まわりの選手のレベルの高さ、などリアル側の要因が大きいわけだが。

ルカクの幼少期からの極貧ぶりは有名で(参考↓↓↓)

子供の頃はチャンピオンズリーグもプレミアリーグも見れなかったけど、16歳でプロ契約してからはスマホのパケ放題くらいできただろうし。

(この元の英文記事すごくて、子供のころから「プレーした1つ1つの試合全てが決戦だった — every game I ever played was a Final.」というプロ精神だ。「決戦」というとスポーツ記事とかでありがちな修飾語ぽいけど、彼の境遇で使うFinal、とは「ここで負けたら人生逆転ゲーム終了」くらいだ。リアルに。優勝フランスも3位ベルギーも、社会階層の下側を移民が担当していて、彼らのような移民第二世代が代表チームのレベルを高めているけど、その裏に6歳のルカクくん的な生活が一生続く社会クラスタが100万人単位である。移籍金ふくめて軽く数100億円を動かす彼の成功は100万に1つの奇跡でもある。ちなみに日本では1990年代から自国民の若者やシングルマザーを非正規雇用でここにあててまかなってきた国。おっと話が) 

朝練でTVゲームする強豪高

高校サッカーの強豪、中京大中京高は、朝練でeスポーツ=サッカーのTVゲームを始めたそうだ。別記事によると、部員は全員サッカー部所属、週5日朝、国体eスポーツで実施されるというサッカーゲーム「ウイニングイレブン」の腕を磨く。「バーチャルで培ったイメージをリアルで生かして両方での全国制覇を狙う」、さらには親会社である中京大が「ゲームプレー時の目や体の動きを情報工学的視点で解析してアドバイス」するそうだ。

サポートしてるのが、名古屋グランパスの名選手、岡山哲也氏。中京大中京高サッカー部監督を務める傍ら、2018年9月にeスポーツジャパン社を設立し、サッカーゲームの定番「ウイニングイレブン」などつかったチームをたちあげた。ヘッドコーチ秋田豊氏、ドラガン・ストイコビッチ氏チーフアドバイザー、元日本代表GK楢崎正剛が取締役、と豪華:

2021年のゲームメディア記事: https://gamer2.jp/7065/

サッカーの練習ではゲーム展開のシミュレーションが重要だと思うけど、ゲーム化することで、体力に制限されることなく何度でもできる。脳内視野もトレーニングできそうだ。ITとリアルの融合による想像力のトレーニング。新しい。

また朝練は、平日の練習時間を増やすことはできるけど、疲労回復を妨げもするので、盲目的にやらないほうがよくて、必要な睡眠を削るようなら有害ですらあると思う。そこをTVゲームに切り替えることで、むしろ身体の回復を進めることができて、さらに新しい。

追記:国体出場!

レース系個人競技の場合

陸上・水泳・自転車とかのレース系個人競技だと、たぶん一般人には全く見えていなそうだけど、実は変化もあって、自転車では参加型TVゲーム的な「ZWIFT」がこの1−2年くらいで急速に世界中で広まっている。(説明:ロードバイクを固定ローラーに乗せて室内練習できるようにして、さらにパワーメーターで出力計測してパワー値をネットで送ると、バーチャルレースができる月ぎめサブスクリプションのアプリです)

「トレーニング手法」も、ネット経由で情報が大きく充実した1つだろう。海外発の情報により、たとえば長距離アスリートの高負荷筋トレなどが進んでいる気がする。(僕やってないけど=単に面倒なだけです)

単にマネするのではなく、自分の個性や状況に応じて適切なトレーニング手法を選択することはかなり大事。それを支えるのは、主体性=自分がどうなりたいか?という意思だろう。

動画なら、市民アスリートさんはみんな始めると猛烈に観はじめるのではないだろうか。トップ選手の形だけを真似するべきではないけど(例えばいわゆる「フォアフット走法」は形だけマネしてはいけません)、動作技術についての体系的な知識をもとに、映像に「視点」を入れて診ることができれば価値がある。トップ選手の動作に入れた補助線を軸に、自分の動画と比較することもできる。

(ちなみに八田の過去のランニング動作分析水泳の動作分析、はまずそれらを自分のために書いてみたもの。わりと人気いただいておりますが、水泳理論は三浦広司さんの理論を2015〜2016にかなり言語化していて、最新のは書ききれてません。またいずれ。)

ネット廃人と活用者の差とは

Youtube内で次々動画サーフィンしているとあっという間に時間がすぎる。でも「今の自分にとって有益な情報」に当たったのなら価値ある時間だ。スマホ中毒とかSNS廃人なんて言葉もあるけど、外から行動を眺めてるだけでは判別できず、最終的にネットへの投資効果を測るのは、パフォーマンス、最終成果。
(とはいえ無限に拡がりやすいものなので、時間を決めるとか、ルール決めは有効ではある)

「良質な情報」を得るには、「良質な情報を持つ人」を知っていることが有効。SNSはそのために有効な1つだ。(※最初は「最適」と書いたけど、振り返ると僕も最高の情報源はリアルな人間関係発な事が多いから、ちょっと格下げ) だから、良質なネット情報を適切な解説をつけてシェアするアカウントは人気になるのも当然だよね。でも、「今の自分にとって有益」というパーソナル性を条件に加えると、一方通行のインフルエンサーさんではダメ。さらに、「その情報をもとに、自分は何をするか?」までいけば、判断し実行できるのは、自分しかいない。

結論:アスリートの知性

ネット時代、アスリートの成長度は、本人の主体性、思考力に影響される。

「思考力」とは、ここでは、今の自分にとって必要なものを探り当て、自分なりに実行できる力、と定義しておこう。適切な情報保有者・発信者・紹介者を確保し、探り当て、自分向けにカスタマイズする作業は、十分に思考力を要するものだと思うから。

「主体性」とは、「自分株式会社」のオーナー経営者として、そういった行動を主導し、自分なりの成果に結びつける姿勢。Youtube動画を見るのも、ジブン会社の経営リソースを取得する行為だ。時間という手持ちリソースを対価としてね。逆に、コーチに言われたことだけをするのなら、雇用されてる平社員かバイトのマインドセットだ。

キャリアデザインへの波及?

この変化がもたらす影響に、たとえばキャリアデザインがあるだろう。今、日本の大学入試では学力テストの影響力が低下している。文科省の2020年からの方針も、大学側のAOや推薦拡大の経営方針も、高校生のマインドも、そう。それにかわる新たな知性が必要になる。1つの方向は、ここで書いてみた「主体的アスリート」的なものだと思う。だから、大学生なら就活、高校生なら大学AO入試などの武器にもなるだろう。

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子育てにゲームを使いまくった経験談が、成毛 眞さん2018年の著作『AI時代の子育て戦略』 (SB新書):


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Photo by Mari Carmen Del Valle Cámara on Unsplash

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八田益之(「大人のトライアスロン」日経ビジネス電子版連載中)
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