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ホックニーを観ました

清澄白河の現代美術館でやってるホックニーを見に行きました。
1ヶ月くらい前にコロナのワクチンを打ったのですが、以来体調があまりすぐれないです。ずっとファイザーだったところに、1年ぶりに打った初モデルナだったので副反応が長引いているのかもしれません。熱はさほど出なかったのですが、体力の低下と、持病の目眩が出やすいです。ワクチンを打った直前に風邪っぽかったのでそれがコロナだったのかもしれません。代休消化して午後から行きましたが、混雑していたのもあって物販などは見ずわりとささっと見ました。

 さてホックニー。版画もけっこうありましたが、ともあれiPad絵がすごい数でした。

デッサン力がすごい

いわゆるベビーブーマー世代の生まれで20倍以上の倍率を勝ち抜いてムサ美の造形学部に行った私からするとホックニーという人はものすげえデッサンできて、もうそんだけで芸になるタイプの人です。お絵描きソフトに入っているデフォルトの色とてきとうなブラシだけでこんなにリアルに描けちゃう。しかも、手数は最小限。ちょいちょい、でテクスチャも空間も鮮やかな春の日ざしさえも、表現してしまうのです。こっわ。

近くで見るとてきとうにぐにょぐにょ塗ってるだけみたいに見えるんですけど、これが、どうして、ちゃんと風景や樹木や水たまりに見えるのかさっぱりわからん・・・


色なんかデフォルトままですよと言わんばかりのこなれてないRGBゴリゴリの原色ばかりを使っているんですが、全然まとまっちゃうんですよ。こええ。何がおきてるの。もう上手すぎてほとんど嫌味な世界です。弘法筆さえもいらないぜと。

一言でいうと天才

マティスの色構成が究極に超シンプルな切り絵になってもビクともしない個性と安定感を持っていたり、ベラスケスが筆でシュってしただけで勝手に指の形になったりするあのレベルの人というか、ああいう向き方の人だと思いました。晩年にやっすいデジタル絵で下々の者を震えあがらせたことが後世にも確実に伝えられていくことでしょう。(そういう意味で展示内容にはちょっと不満というか、もっとアナログ絵を見せてほしかった)
 
あとは、イギリス人の森とか林大好きぶりを久しぶりに感じました。
きらめく春の陽光に目を細め、緑の鮮やかさとあたたかい風を感じる幸せ。新作ではほとんど人を描いていませんが、自然を巡る四季に抱かれ、多幸感あふれる絵はアミニズムの日本人には馴染むと思いました。

ホックニーはフォロワーが日本にもすごくたくさんいるけど、日本では現代美術というよりイラストレーションとして消費されているかもしれません。ありふれた日常がテーマで、優しく明るい色使いで、バカテク全開にしない。でもきちんとしたデッサンを感じられる。愛嬌たっぷりで日本人の好みにはぴったりあうでしょう。日本画にも昔っからありましたし、丁寧に暮らす系の人とかこういうの大好きなのでは。テーマとか、あるとキュレーターは喜ぶんですけど、めんどくさいからねw あと、自分を規定されるのがイヤとかゆってると、日常系になっていきます。幸せなことだけど、自分だけのことでいっぱいいっぱいな貧しさ、または抱えきれないから見ないというせめてもの無関心なのかもしれません。「愛嬌」とか「感じのよさ」みたいなのが令和初期で最も価値がある人間の姿だとしたら、ホックニーはずっと求められるでしょうし、そういう絵も多くなってくると思います。処世術のような。でもホックニーくらい描けちゃう人もおそらくそう出ないでしょう。

 
 ホックニーは騙し絵のようなのを初期から描いていて、メキシコのホテルを描いた、多重露光してパノラマ写真にするような、多視点で絵が1枚というのをやっています。キュビズムをなぞったものではありますが、多重露光によるパノラマ撮影が身近になった今ではあまり新鮮さを感じないかもしれません。ですが、彼がゆるいけどうまいイラスト描きでなく、現代美術家であるとされるには、肖像画の時代のあとで、キュビズムなど過去の手法をなぞって現代的に発展させるという過程は必要なものなのかもしれません。見たまんまをクソほど描ける人だからこそ、こういった「視線」のトライアルが求められるのも当然かもしれません。どこを見てどこを拾って描けば感じたとおりになるのか。見る位置を間違えるとめちゃくちゃになるのか。消失点いっぱい作ったらどうなるのか。人間の目はあまり奥行きを認識できない。いやほんとめんどくさいですね現代美術。

展示としては、作品が大きいのがいいことなのはいいことだけど、長い絵は場所が狭かったです。もっと離れて見れないとちょっともったいなかったですね。絵をナナメから見るような感じになってしまっていました。
 
  
こういった、見たまんまデッサンが極端に上手い人のなかに、視力の問題などから片目しか使っていない人がいるように思います。こういう人は、練習しなくても最初から石膏像の形を正確に捉えられたりして、あとは鉛筆のタッチなどを磨いていくだけなので現役で芸大に受かったりとか、同じ時期に予備校に通ってた人にいたなあ。(本人はそこまでやる気がなかったりもありがち)ホックニーがどうなのかちょっと知りたい気もします。

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