あのベルがWeb会議ツールを使ったら

ベルは、Zoomの画面越しに世界中の人々と繋がっていた。そう、あの「電話の発明者」アレクサンダー・グラハム・ベルである。そのベルが今はZoomを使ってオンラインで講義をしている。なんとも不思議な光景だ。

「皆さん、こんにちは。今日は、私が電話を発明したときの話をしましょう。」

画面の中のベルは、歴史的な偉人というよりも、むしろ近所の親切なおじさんのような雰囲気で話し始めた。だが、そこに漂う微妙な違和感。何かがズレている。まず、彼はPCの前に座っているが、なぜか明らかに使い方がぎこちない。

「えーと、まず、マイクは入ってますかね?ええっと…」

画面の端でミュートアイコンが赤く光っているが、ベルは気づいていない。

(いや、電話の発明者がオンライン講義でミュートに気づかないって、これどうなんだ?)

視聴者のチャット欄には「先生、マイクがミュートです」というコメントが次々と流れているが、ベルは真剣に話を続ける。どうも気づいていないようだ。

「さて、電話が誕生したきっかけですが…」

もちろん、誰にも聞こえていない。視聴者は次々と画面越しに手を振ったり、コメントを送ったりしているが、ベルはすっかり自分の世界に入ってしまったようだ。

「私が最初に言った言葉は…」

(いや、その言葉、今誰にも伝わってないから!)

しばらくして、ついにベルはミュートに気づいた。

「あ、これは失礼しました…どうやって解除するんでしたっけ?ああ、これか。」

ようやく音声が復活し、視聴者からホッとしたため息が漏れる。ベルは一瞬困惑したが、すぐに気を取り直して続けた。

「それで、電話の最初の実験では、私が『ワトソン君、こちらに来てくれ』と言ったのですが…」

(いや、ワトソン君は今、Zoomで画面越しにいるぞ。)

画面越しにワトソンがどこかから参加しているのかもしれないが、ベルはそれに全く触れない。むしろ、彼は電話機が画面越しにどう機能するか説明しようとしている。

「このデバイスが人々を繋ぐ未来を想像したとき、まさかこんな風に顔を見ながら話すなんて、夢にも思わなかったんですよ。」

(いや、まさにその「顔を見ながら話す」のが今この瞬間、問題なんだよ!)

そして、講義が進むにつれ、ベルは画面共有の機能に挑戦することにした。だが、当然のように手間取る。

「これでスライドを…ん?違う画面が出てきたな…」

画面共有の設定をミスり、ベルのデスクトップが視聴者全員に表示される。そこには無数のファイルやショートカットアイコンが雑然と並んでおり、さらには「ワトソンとのビデオ通話テスト」なる謎のフォルダが見える。

(いや、それ、みんな見えてるぞ!しかも、ビデオ通話のテストって、もうやってたんかい!)

結局、ベルはスライドを諦め、再び自分の顔を大写しにして話を続けた。

「技術は進化しますが、その根本にある『人々を繋げる』という理念は変わらないのです。」

そう締めくくるベルの顔には、どこか自信満々な笑みが浮かんでいた。

(いや、繋げるのはいいけど、まずはちゃんと繋がろうよ…Zoomで。)

視聴者たちは、その言葉にどう反応すべきか一瞬迷ったが、最終的には何となく拍手を送り、ベルは満足そうに講義を終えた。

後日、誰かが「Zoomの使い方教室」をベルに勧めたが、それはまた別のお話し。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?