不眠症の薬を飲んで寝たら、三日後に新鮮な真鯛が届いた話

不眠症の私には、毎日寝る前に飲んでいる薬がある。
「エスゾピクロン」という薬だ。「ルネスタ」という名前で流通している場合もある（ジェネリックがこの名前なのかも）。
寝つきをよくする薬で、脳の神経を鎮めて、自然な眠りを誘う薬、らしい。

不眠症になってからいろんな薬を試してきたが、薬が変わる前後は、様々な副作用に悩まされてきた。日中の眠気、口の渇き、胃の不快感など。

前に飲んでいた「フルニトラゼパム」は、飲み始めの頃は５分で意識が飛んで気絶するように眠っていた。
けれど、飲み慣れるとふらつく程度になり、なかなか入眠できなくなった。

それをクリニックの医者に相談すると「じゃあ別の薬に変えてみましょうか」となった。そうして今服用しているのが、エスゾピクロンという薬だ。

この薬に変わってからも、例のごとく副作用に悩まされた。
個人により差があるけれど、私の場合は口の渇きのほかに、「一過性前向性健忘」という症状が出た。
薬を飲んでから入眠するまでの記憶、あるいは夜中ふと目が覚めた時の記憶がなく、もうろう状態になるものだ。

こうなると、ちょっと困ったことが起こった。というのも、私は常に枕元にスマホを置いていて、夜は眠たくなるまでスマホを操作する。眠くなってきたら充電コードを手繰り寄せて、差し込んで寝るのがルーチンなのだ。

夜中にふと目が覚めて、友人からラインが来ていることがあると、もうろう状態で読んで、もうろう状態で返信する。
そして翌朝履歴を見て「え？　〇〇ちゃんから連絡きてる？　しかも私返信してる？？」となる。
なんかスマホを触ったような……というボンヤリした記憶はあるが、何をしたかは具体的に思い出せないことが多かった。

気が大きくなるとか、感情が攻撃的になるなどの作用は私の場合はないのが幸いで、大きなトラブルに発展することはなかった。記憶のない返信も、当たり障りのない内容、絵文字の踊るノンキな文章で、いつもの私と大差ない。
なので、しばらくは様子を見つつ、本格的に困ったことがあったら医者に相談しよう、と楽観視していた。

ある日、私はどうしても真鯛が食べたくなって、以前キャンペーンで格安購入した高知の真鯛のECサイトを見ていた。

高知の真鯛、甘みがあって美味しかったな、また食べたいな、でも１尾3500円＋送料……キャンペーン価格じゃないとなかなか手が出ないな……と、薬の服用後、ベッドでごろごろしながら長時間悩んだ。

ちなみに真鯛、生きているときは「１匹」、水揚げされると「１尾」と数えるそうだ。

お給料も入ったしたまには贅沢も、いやいやそれにしても真鯛１尾はひとりで食べるには多いし、いくら真鯛が好きとはいえ送料込5000円はちょっと高いよな、と悩みに悩んだ。
薬が効いて、ふらふらしてきた頃に「いいや、今は買うべきじゃない！」と誘惑を押し切って、スマホを充電器に差し込み、私は眠りについた。

翌朝。スマホを見ると、一通のメールが届いていた。
件名は、

「【産地直送　〇〇市場】　ご購入ありがとうございます」。

……んん？　私は混乱した。
〇〇市場の名前は見覚えがあるが、真鯛を購入しようかどうしようか悩んだものの、結局我慢したはず。

けれども、注文受付のメールが届いている。
本文を確認するが、私の住所氏名がしっかり書かれているし、文章におかしなところはないので、迷惑メール等ではない。
申し込み時間は夜中の2時ごろと書いてある。その時間は寝ているはずだ。

「あ、もしかして」と嫌な予感が頭をよぎった。
やらかした。夜中にスマホを触って注文したのだろう。
まったく記憶になかった。

記憶になかったけれど、再び（ちゃんと意識がはっきりしているときに）悩んで、結局注文キャンセルはせず、そのまま受け取ることに。
三日後、新鮮な真鯛が高知から届いた。

ワタや骨が取り除かれていて、ブロック（柵）×４枚とアラで真空パックに綺麗に分けられていて、すぐにお刺身と鯛茶漬け、アラ炊きにして食べた。
めちゃめちゃ美味しかった。結局届いてから翌日には食べきってしまった。
またお財布に余裕ができたときに買いたい。今度はちゃんと、昼間に注文しよう。

不眠症に悩んでいる方へ。
治療のために新しく服用を始める薬が身体に合わなかったり、前から服用しているけれど最近ちょっとおかしいぞ？　という副作用があったら、迷わず医者に相談しましょう。

ちなみに今も記憶は飛ぶけれど、前ほど「まったく記憶がない」ということはなくなったし、理性も働くので、飲み慣れてきたのだと思う。入眠まで時間がかかるし。
次の通院のときに、医者にちゃんと相談しようと思っている。