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人は「優しさ」に触れないと大人でも簡単に壊れる

 殺人など重犯罪のニュースを見ていて気付かされるのは、犯人が人の「優しさ」にしばらく触れていなかったという共通点を持っていることである。

 わりと最近の事件で言うと、2019年、京都アニメーションの第一スタジオに放火した青葉死刑囚は、治療後に「こんなに優しくされたのは初めてだ」と語っている。
 そして今年1月には、JR山手線内で女性が刃物で乗客四人を切りつける事件が起こった。彼女はこのように述べた。「幼い頃に虐待を受けていて、人の優しさを知らない」。

 人が生まれた時に初めて接する相手は親だが、その親から愛情を注がれていなかったり、虐待を受けていたりすると、愛着(アタッチメント)の問題を引き起こし、その後の本人の自我の確立や社会性の獲得に大きな悪影響が出る。子供のみならず、大人の引きこもりなどの問題に発展する確率も上がる。
 愛着の問題が引き起こす疾患として代表的なのは、やはり境界性パーソナリティ障害だろう。俗に「メンヘラ」と呼ばれる人の多くは境界性パーソナリティ障害(もしくは、その気がある人)であると言われている。

 人は、愛情や承認を燃料にして走る車に例えることができる。そこへ来ると先の境界性パーソナリティ障害の人は、燃料タンクに穴が開いてしまっていて、ガス欠を起こしている。「心にポッカリと穴が開いたような感じ」という風に訴える当事者が多いが、常に心が空虚で、満たされない感覚を覚えるようになる。精神医学では「基底欠損」と呼ばれることがあるが、こうした心を持つ人は自我の確立が不完全で、自分と他人の境界線、つまり自他境界が曖昧である。そのため他人に依存しては捨てられ、また依存しては捨てられ・・・を繰り返し、そのうち本当に狂気の世界に迷い込む。最後には自殺や重犯罪を犯すという最悪の結末を迎えることも珍しくない。

 上記のようなタイプは、自責思考の人に多い。反対に他責思考の人には、いわゆる「クレーマー」と呼ばれるタイプが多い。
 私にも経験がある。
 小売店で働いていた頃、60代くらいの男性客が、商品を手に持ったまま立ち止まる気配もなく、まるでレジの前を通りすがるかのようにお店を出て行こうとした。その男性客はパッと投げ捨てるようにクーポンを置いて「何やってんだ。早く(バーコードを)打てよ」「シールくらい貼れよ。何考えてんだ」と私に難癖をつけてきた。いや、あなたが立ち止まらないのがいけないんでしょう。そして「こんなにひどい接客は初めてだ(※クレーマーの常套句)」と他の先輩店員にも絡みはじめ、100%私が悪いかのように更に難癖をつけはじめた。

 憶測の域を出ないが、こういう人は大抵「孤独で、愛されていない」。独身かつ高齢で、私生活で誰にも相手にされていないのだろう。そう、「優しさ」に触れていないのである。その欲求不満を、クレームとして店員にぶつけるのである。
 このことに気づいたのは恥ずかしながらわりと最近だ。よくよく考えてみれば、家族や恋人、友人に恵まれていて、普段から「優しさ」に触れていて心が満たされている人は、みずから自分が不利になるかもしれないような理不尽でリスキーな行動には出ない。

 人は「優しさ」に触れないと大人でも簡単に壊れてしまうのである。

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